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第4話「優れた才能」

 二人は驕っていたところがあった。魔法の基礎も知らない平凡な娘。いくらケリドが迎え入れた才能を持つ人間だからといって、魔法の事などひとつも知らないのであれば蹴落とすのも容易い。自分たちの時間を割いてまで面倒を見る気はなかった。


 しかし驚異的な速さでページを次々にめくるので、本当に読んでいるのかと疑問に思って眺めていると、二十分もしないうちに「ありがとう、少し分かった」とやんわり微笑んだ。


 信じられない。きっと嘘を吐いているんだと思ったマリーは、「十五ページ、魔力の流れについて」と項目の名前を述べる。魔法の基礎にあたる書物なので、暗記するほど読み込んだものだ。これが言えなければ読んだとは言えない。ふり(・・)をして、あとでゆっくり読もうと適当に社交辞令的な言葉を投げたに違いないと決めつけた。


「魔力は体内を循環し続けており、これを魔導師は独自に道を創り体外へ放出することができるため、自然界に存在するエネルギーを利用して様々な魔法を使うことが出来る。魔法陣は自然界のエネルギーを効率的かつ定まった属性に変換して行う儀式で、これを行わずに魔法が使えるのは極めて一部の魔導師のみ。多分合ってると思う」


 多分では済まなかった。マリーもフランが驚いて顔を見合わせた。


「こんなこったろうと思ったぜ、アホ共」


 ごつん、と重たい音がして二人が頭を押さえる。様子を見にやってきたケリドの予想通り、エデルを蹴落とそうと幼稚な罠を仕掛けていたので灸を据えるのに重ための拳骨を振舞った。肝心のいじめられっ子は、まったく状況が理解できていない。


「違いますわ、エルダー・ケリド。わたくしたちは彼女が本を読んで理解できたというので、確かめてさしあげようとしただけです」


「勝手なマネしてんじゃねえよ。採点は誰の仕事だ、あァ?」


 凄まれて、マリーはガタガタ震えて涙目になった。ケリドは決して優しいだけの魔導師ではない。がさつだが規律を守り、すべての魔導師の模範としての地位を持つだけの常識を持っている。そのため、期待を裏切られるのが大嫌いだった。


「……ったく。てめえら二人は減点。次の指示があるまでは高位(オーダー)クラスの講義を受け直してこい! お前らは採点し直しだ、出来が悪かったらポインターから外すから覚悟してろ、アホ共。分かったらさっさと行け!」


 二人が声を揃えて「すみませんでした!」と慌てて図書室から出ていくと、ケリドは「悪かったなぁ」と軽く謝罪した。マリーとフランが互いを強いライバル関係として認めている間に、突然エデルが割り込んで気が立っていたのかもしれないと説明したが、彼女はまったく理解ができておらず──。


「何も、気にしてない。あれって、嫌がらせ?」

「ハハッ、さすが天才少女。ま、気にしてねえならいいよ」


 机に置かれた基礎の本をおもむろに開き、ぱらぱらめくる。


「お前、この本を一回見ただけで暗記したのか」


「記憶、すごく得意だから」


「へえ、こりゃあ逸材だな。……じゃあ、お前、これ出来るか?」


 ケリドが指先にポッと小さな火を灯す。


「これくらいなら魔法陣は要らねえはずだ、やってみろ」


 まっすぐ立てた指先。エデルはじっと意識を集中させ、魔力の流れをイメージする。──だが、魔法を使うのは初めてで、魔力の流れを操るのは簡単ではない。指先に灯る程度で収まるはずだった火が、一瞬大きく燃えあがろうとした。


「おおっと、危ねえ。部屋が燃えちまうところだったな」


 ぎゅっと握られて、燃えあがるより先に消し止められる。


「だけど十分に魔法は使えるらしい。お前には才能があるぞ、エデル。少しずつ磨いていけば、そのうち大賢者だって目指せるかもな?」


 からから笑って、肩をポンポン叩く。


「最近のあの二人は、ちっと成績欲しさが露骨で目に余ってたから、灸を据えられてちょうどよかったぜ。さ、案内を再開しよう。次は最上層──魔塔主の部屋だ」


 魔塔の管理者。魔導師の中の最高権力者が座す執務室。再びパネルに乗って最上層へ向かう。上がり切った先は一枚の扉があるだけで、他には何もない。一見すればそのまま外に出てしまいそうな壁一枚に設置されているのだが、魔塔はかなり特殊な構造をしており、そもそもが常識の通じる場所ではない。


「本当に、この壁の向こう側に部屋が?」


「ああ。魔塔ってなァ、ほとんど異空間みてえなもんでよ。『たとえ薄っぺらい壁に扉があっても疑うな、信じて開ければ世界が広がる』なんてよく言われたぜ」


 ドアノブを回して開いた向こう側。天体広がる丸屋根の部屋。小さな机と椅子。それから書類と本が平積みされているのは、魔導師共通なのだろうか、とエデルは少し片付いていないのが落ち着かなかった。


「やあ、いらっしゃい。連れて来てくれてありがとう、ケリド」


 魔塔主という名の玉座に座る男。見慣れたばかりの優しい笑顔。


「せっかく来てもらったから、改めて自己紹介しておこうか。僕の名前はリンハルト・フェルニウス。──四番目の大賢者にして、現魔塔主なんだ」

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