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レベル成長限界【1】無能探索者のダンジョン攻略~僕だけ装備レベルアップ~  作者: 御峰。


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第53話 上級者層ならではの悩み

 木曜日から土曜日にかけて二十一層から二十六層の攻略を終えた。


 その間も貯まった経験値量は結構多くて、赤い月のおじいちゃんの鍛冶ハンマーを最大に強化したり、みんなのSランク防具の【漆黒のローブ】をレベル30ずつに上げたり、Aランク武器それぞれをレベル最大値まで上げ切った。


 土曜日の夜。


 みんなを家まで送って姉さんが風呂に入っている間、最近掃除はシリウスがやってくれるので手持ち無沙汰になってテレビを付けた。


 僕が先に風呂に入ると姉さんに強襲される可能性があるので、絶対に姉さんに先に入ってもらう。


 特段見たい番組はないので、ニュースをやっているチャンネルを付ける。


「では次のニュースです。先日無期限活動休止を発表した最強探索者セグレスさんですが、所属していたクラン【アムルタート】より、ダンジョン攻略を中止する発表がありました。セグレスさんの復帰はいつになるか不明で、理由も未発表です。日本ダンジョンの将来のためにセグレスさんに復帰を求める声が続々と届いております」


 思わず聞き入ってしまった。


 姉さんとの一週間はとても楽しく、まだ中層だけど姉さんと肩を並べてダンジョンを攻略するのはとても楽しかった。


 ただ、僕が姉さんと過ごしているせいで、日本が困っているなら…………。


「そんなニュース見てたの」


「うわあっ!?」


「ふふっ。神妙な顔で見ているなと思ったら、思いつめたの?」


「ま、まあ……」


「ふふっ。でも心配しないで? まだ世界は知らないだけなのよ」


「ん?」


 姉さんが密着するように僕の腕に抱きついてきた。


 寝間着の薄い布越しから姉さんの体の熱さが伝わってくる。


「誠也はいずれ私なんかよりもずっとすごい探索者だって分かる日がくるわ。実はそれも相談しておきたかったんだ」


「えっと……僕が姉さんよりすごくなるのはともかく、相談って?」


「今日で二十六層の攻略が終わったでしょう? ここまでの感じからこのまま進めるとこまでがんがん進んでしまおうって思って。今日もそうだけど、誠也って少しテンポを遅くしようとしてたよね?」


 さすがにバレていたのか……。


 二十五層は中級者の最後の層と言われ、二十六層からは上級者の層だ。僕は意外とまだ少し余裕があっていいけど、紗月や先輩を思って少しゆっくり進もうとした。


「紗月ちゃんも澪ちゃんも大丈夫。彼女達も無理は絶対しないから、厳しくなったら弱音をちゃんと吐けるから。だからリーダーはみんなが弱音を吐くまで前を向いてほしい!」


「姉さんがそうやったから学校がああなるんでしょう!?」


「学校ではそうだったけど、いまのパーティーは本当に問題ないから! 紗月ちゃんも澪ちゃんをもっと信じてあげて? むしろ、あのままテンポを遅くしたら二人とも悲しむわよ?」


「そ、そうかな……?」


 足元にいたシリウスがソファーに上がってきて、「クゥン……」と寂しそうにする。


「ほら、シリウスだってそうだっていうでしょう?」


「…………そうか。変に心配しすぎてたってことなんだね?」


「うん! だから全力で行こう~!」


「わ、分かったよ」


 風呂に入り、湯船の中で姉さんに言われたことをゆっくり考える。


 二人とも、無理をせずに一緒に来てくれたらいいけど……ただ、紗月に関しては以前使った凄まじいスキルは普段から使っていないので、まだ余裕はあるか。


 先輩は…………相変わらず楽しそうに魔法を撃つし、魔物が強くなればなるほど嬉しそうにしてるしな。


 はぁ……リーダーって本当に難しいな。


 僕は結論を出せないまま、次の日を迎えた。




 翌日。


 みんなと一緒にショッピングに向かった。


 本来なら荷物持ち――――と言いたいところなんだけど、僕達はみんなマジックパックを持っているから荷物持ちはいらない。


 みんな強いからと言っても女性なので、ボディーガード的なポジションだって言われて連れて来られた。でも僕自身もみんなと時間を過ごすのが楽しい。


 ダンジョンに通って体力が付いたと思ってたけど、三人のショッピングには中々ついて行けず、気が付けば、ショッピングモールのベンチに座った。


「「はあ…………」」


 ため息を吐いたら隣からも聞こえてくる。


 見るからに強そうな筋肉ムキムキの大男がベンチに座り、ため息を吐いていて、僕と目があった。


 これって……何ガンつけてるんだって喧嘩売られるあれじゃないよな……?


 じっと僕を見た大男が口を開いた。


「少年。何か悩みか?」


 意外と紳士! 身構えていて損した。


「あはは……姉さん達とショッピングに来たんですけど、中々ついていけなくて」


「そっか。それは大変そうだな。でも姉さんは大切にしないといけないぞ?」


「もちろんです。今は女性物を買いに行ってるから、その間休んでいるんです」


「そうか。でもそんなことよりも違うことに心配している顔だな?」


 大男さんに言われた通り、僕はいまだ昨晩の姉さんとメンバーのことで悩んでいる。


 悩んでいても答えは見つからないし、みんなを信じて走るのみだけど……でもやっぱり心配というか。


「えっと……探索者をやってるんですが、リーダーになってしまって……リーダーって難しいなと思いまして……」


「おお、気が合うな。俺もちょうどそう思ったところさ。がーははは…………はあ……」


「お兄さんも悩んでるんですか?」


「ああ。メンバーが一人抜けてた。何とか見つけて説得しようかなと思ったが、どこにいるのやら……派手だから一瞬で見つけられると思ったが、一週間探しても見つかりやしねぇさ」


 あ……振られた男みたいなオーラってそういうことか。


「まあ、メンバーに抜けられた俺が言うのもあれだが、メンバーとはよくよく話し合うことだ。変に遠慮してお互いのプライベートを尊重しすぎると、いつの間にか抜けたりするのさ。そう。俺みたいにな」


 哀愁漂うその姿に妙に納得してしまった。


「そう……ですね。やっぱりしっかり話します。みんなに無理して付いてきて欲しくないので」


「ああ。それがいい。しっかり目を見て話せば、嘘かどうかすぐ分かるはずだ」


「はい。ありがとうございます。姉さん達が終わったようなので、僕は失礼しますね」


「おうよ~頑張れよ、少年」


 軽く挨拶をして女性下着店から出てきた姉さんの元に向かった。






「はあ……この街のどこかにいるはずなんだよな……ちくしょ……まぁ見つけたとして説得できるかどうか……」


 大男はいつも豪快に笑いながら弟自慢をする赤い髪の女性を思い浮かべながら溜息をついた。

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