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ヴァンパイア・ヴァケーション!2

 約束の日。かくしてヴィンセント家の一族は、わいわいと連れ立って城の建つ崖の下のビーチに向かった。

 夏の嵐はとっくに過ぎ去ってビーチは穏やかな様相を見せていた。夜のモノクロの世界の中、海には穏やかな白い波が立ち、空には大きな入道雲が浮かんでいる。

「ここへ降りてくるのも、何だか随分と久しぶりねぇ!」

 アナベラはエイダ、ノリス、キャスリーンの義母や小母達三人と一緒に、日傘を差してはしゃぎながらビーチを歩く。夜中ゆえに日傘はまったくの飾りではあったが、レースとフリルのふんだんにあしらわれた大きな日傘を差す彼女らの姿は、なんとも優雅で涼しげだった。

「いやはや、五日間とはかくも短いものか!」

「こういうことならば、もっと準備をしたかったものだなぁ」

「我々には時間が、それこそ幾らでもたっぷりとあると言うのに!」

 パーシー、ピーター、フィリップの三兄弟がそう口々に言い合っているところに、甥にあたるブレンダンとギルバートが声をかける。アロハシャツを着るだけには飽き足らず、二人は頭にハートや星型のサングラスなんてものまで乗せて、まるで何か仮装のように浮かれ切った格好だ。

「まあまあ叔父さんたち。僕らの時間が無限でも、この夏は待ってくれないからね」

 それもそうだなと、三人は城の倉庫から引っ張り出してきたウクレレを手に手に構えた。ビーチにウクレレの陽気な音色と手拍子とが響く。

 一族の列の一番後ろを歩いてビーチまで来たユージーンは、よっこらせと、肩にかけていた大きく重たそうな木製の保冷箱を砂浜に下ろし、自身もその前で屈み込んだ。そのオールバックの頭に、おチビのトニーとニーナの手を引いた祖母ローザから声がかけられる。

「良かった、ユージーン。あんた、ちゃんと来てくれて」

「ええ、そりゃあ、まぁ。ジョーゼフ大おじい様たってのご希望でしたしね」

 それに今日の夜はそんなに暑くなくて良かった、とつぶやいて、ユージーンはゆっくりと木箱の蓋を開いた。それをローザの手を引っ張って覗き込むトニーとニーナ。その途端。

「あーっ、パパぁ、ぼくそれしってるぅー!」

「わぁーっ、アイスクリームだぁーっ!」

 ビーチに子供達の歓声が響いた。祖母ローザは感心したように言う。

「毎日、几帳面に台所で何か混ぜているなぁとは思って見てたけど、それだったのねぇ!」

「ビーチでパックをすするのも味気ないでしょう。それに、夏を楽しむと言うのなら断然冷たいものが良いですが、あれは凍らせちゃあ駄目ですし。であれば、牛の乳を凍らせたものくらいなら我々も口にできる。……まぁ、栄養には何もなりませんが。でも、ほら」

 そう言いながら、目をキラキラ輝かせているおチビの双子を見やる。そしてその二人に、白く丸く輝く、カップに入ったアイスクリームを手渡した。二人の目が一段と明るく輝く。

「子供達も、喜ぶでしょう?」

 言いながらユージーンは保冷箱からもう一つアイスを取り出し、祖母ローザに差し出す。にっこりと笑って祖母はそれを受け取った。

「もちろん、大人達もね」

 どすどすと砂浜を走る足音が聞こえる。従兄のダグラスがその腹を揺らして、犬のラッキーとじゃれ合いながら駆けてきた。

「おーぅい、ボクは、これを持ってきたぞぅ!」

 従兄が掲げる何かの玉。彼の腹回りのように丸々としている。その表面には縞模様。

「ウォーターメロンか!」

 ユージーン達の前に、ダグラスはその縞模様の玉をドッカリと置いた。

「東の島国の夏はこれで遊ぶそうだぞ! こうやって置いて、誰か一人が目隠しをして、棒で叩くんだってさぁ。えーと、棒、棒は……」

 そう言ってダグラスが、ビーチをきょろきょろと見回す。

 ぐるるるるるぅ……

 その時、どこかから唸り声が聞こえた。犬のラッキーの方を見る。しかし彼はきょとんとした顔をして砂浜に大人しく座っていた。その視線がジッと、目の前の縞模様の球体に注がれている。

 ザッと音を立てて、何とその玉は高く宙へと跳び上がった。そしてそれは空中で踵を返しておチビの双子達に向かって躍りかかり、そして――すっぽりとニーナのその腕の中に収まって、満足げに喉を鳴らすような甘えた声を上げた。

「きゃーっ、かあいいーっ!」

「ぼくもだっこするぅー!」

 ユージーンは呆れた顔をした。

「おいおい、だいぶ古くなったのを持って来たな? どこぞの畑に残っていたものだ? もうすっかりヴァンパイア化しているじゃないか」

「ハッハッハ! まぁ、どのみちおチビたちの遊び相手にはなったんだし、良いだろう? ハッハ!」

 ダグラスはいつの間にやらちゃっかりとアイスを手にして、腹を揺らしてそう笑った。

「おなまえつけるの! ええと、そう、スーリィ!」

「ラッキー、ほら、あたらしいおともだちだよぉ!」

 ラッキーは立ち上がり、ぱたぱたと尻尾を振った。そうして子供達と犬、ウォーターメロンの玉はキャッキャと砂浜を駆けていった。

 その様子を見送って、じゃあアイスでも配って歩くかとユージーンは再び木箱を担いだ。その目が、とある人影を捉える。曽祖母のブリジット大おばあ様と二人連れ立って波打ち際を歩く曽祖父、この企画の言い出しっぺの姿を。その肝心のジョーゼフは何故だか気もそぞろといった風に、海と空の方をしきりに首を伸ばすようにして眺めていた。

 どうしたと言うのだろう、ジョーゼフ大おじい様は。いくら夏の夜が短いと言っても、今から日の出の心配をしているわけではあるまい。アイスを手渡すついでだとばかりに、ユージーンは曽祖父母達の元へと足を運んでいった。その時。


長い間放置されたウォーターメロン(スイカ)は、ヴァンパイアになるという言い伝えがあるそうな。

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