7/41
5
「いろんな本を読んでいるうちに、ある本で相手の靴の汚れや着ている服、持ち物から人物を予想する場面があって。」
それは緋色の研究という本だった。ミステリー好きには有名すぎる小説である。
「シャーロックホームズ?タバレ?デュパン?それともバンコランかな?紅林さんならどれでも読んでそうだけど…。」
「最初の出会いはシャーロックホームズだったよ。月並みだがね。まぁ、でもこれは使えると思ったんだ。」
「そっか。」
「実際に役に立ったことはないけど。最初は楽しんで読んでいたけど、羨ましくてずっとこんな世界に浸っていたら自分も同じように慣れる気がしたんだ。」
物語の探偵はいつも一人ではないから。
「羨ましい?」
「ああ。探偵にはいつだって助手がいる。」
「うん。」
「わたしにはいないから。」
私は静かに目を閉じた。浅葱君の後光が瞼越しに伝わってくる。目を開けなくても優しくこちらを見つめていることがわかった。