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「確かにな。」
「ふふ。でも、まだ泉鏡花は完全に理解できてないんだ。悔しいけど、時間はいっぱいあるから。」
時間はいっぱいあると言う浅葱君は、皮肉を言うイギリス人のように、片眉を器用に持ち上げた。洋画のような雰囲気に、私も打ち明けるなら今だ、と呑まれた。
「わたしは‥。」
「うん。」
浅葱君はゆったりと答える。シンとした準備室は、まるで教会の懺悔室のようだ。
「わたしは、明かしたい謎があったんだ。」
言ってしまうと大したことではない。しかし、私にとっては何年も澱のように積み上がった秘密であったのだ。
「謎?」
「ああ。」
「そっか。」
浅葱君の返答はそっけない。しかし、声からは優しさを感じた。
「最初はある本だけをひたすら読んだんだ。でも、分からなくて。」
はなびちゃんから貰った本。ポーの破滅の気配に満ちたその物語をなぜ私にくれたのか。
「それで本を読み始めたんだ。」
「うん。」