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ミーンミーン
茹だるような暑さに、蝉の声が響いている。
人がいない図書館。入ってすぐに五山送り火や、灯籠流しなど夏の写真集が置かれている。貸出カウンターには壊れたバーコードリーダーが置きっぱなしだ。しかしそんな光景に目もくれず、冷気が漏れる部屋へと向かう。
ハリガネを使って鍵を開け、ガララと図書準備室のドアを開けると、空調の音がゴーと鳴っている。そして、室外機から水が漏れるコッコッと言う音が室内に静かに流れている。
「やぁ。紅林さん。夏なのにご苦労様。
中2の頃からだから3年目だね。」
綺麗なサラサラの髪がエアコンの風に靡いている。
「…。」
「僕もだけど、君も物好きだね。こんな時期に忍び込むなんてさ。」
壁にかけられたリモコンは20℃と表示されている。浅葱君は機械の操作が下手なのだ。操作して26℃まで設定を上げ、また考え込んだ。
「おかしい。」
「どうしたの?」
毎年この時期は裏口から忍び込んでいたのに、玄関の鍵が空いていた。
「うん?」
いつもの推理モードに入りかけていると、浅葱君は心配そうに話しかけた。
「大丈夫?」
「いや、まぁ気にしすぎかもしれない。」
浅葱君の困った顔をみて、ハッとする。
「気にしすぎ?」
「忘れてくれ。」
両手をヒラヒラとふる。浅葱君は話を変えように、後ろの段ボールを指さした。
「そういえば、一昨日準備室に大量のミステリー本が入ってきたんだけど。」