図書館には、夕焼けに照らされ人影が長く伸びている。
「さすがだなあ。まつりちゃんは。今武蔵ならぬ今明智って感じだな〜。」
綺麗な青い髪の青年が言う。
「褒めすぎだよ。」
赤い髪の少女が、照れたように眉を上下させた。
「そんなに当てられちゃったら怖いだろうねぇ。」
ニコニコと微笑むその顔は霞んでいる。
「探偵を怖がるのは犯人だけだよ。…他の人は気味悪がるだけだから。」
少女はどこか悲しそうだ。
「ふふ。そうは言うけどさ、僕はかっこいいと思う。」
青年の言葉に少女は少し驚いたように目を開いた。赤く吊り上がった猫目が大きくゆれた。ギラリと夕焼けを反射する目は本当の猫のようだ。
「だから、かっこいいまつりちゃんは好きなようにしたらいいんだよ。」
「うん。」
少女の声は掠れている。
「いつか探偵になったら僕を最初の依頼人にしてね。」
「そうしたいのは山々なんだけど、ごめんね。探偵にはなれないんだ。」
赤い夕焼けを背に、少女は膝に置いていた本をテーブルへと置いた。黒い影がその動作をなぞる。
「あれ?何か夢があるの?」
青年は、意外そうに片眉をあげる。
「うん。図書室の司書さん。」
キッパリとしたその答えに、青年は目を細めた。
「…。そっか。優しいなぁまつりちゃんは。」
机の本には、まだ少女の手がのせられている。その指は細く、不安定だ。
「優しくないよ。ただ友達と一緒にいたいだけ。」
青年の細めた目尻には皺が寄る。
「ありがとう。でも僕のために諦めなくてもいいんだよ。」
青年は指に手を伸ばした。しかし、触れない。
「私がそうしたいだけ。」
俯いたまま呟いた少女の声は独り言のように小さかった。
「そっか。」
しばらく、沈黙があった。考え込んでいた青年ははっと何かひらめいたように嬉しそうに目を開いた。
「じゃあ世界初の司書探偵なんてどう?
まつりちゃんならできるよ。」
少女もつられて嬉しそうに笑った。
「それはいいな。」