16
「埋めるんですか?」
埋めるという発想はなかったので、驚いて先生をみた。
「昨日旧校舎裏に大きい穴掘った。」
先生が指差したのは、旧校舎裏の山へと続く道。ここからだと穴はみえない。
「死体埋める犯人と同じ心理だね。」
浅葱君はニコニコとして楽しそうだ。
「焼いたらバレそうだし。」
用務員小屋の脇には焼却炉もある。しかし、あまり動いているのは見たことがない。今時、焼却炉で燃やすものもないのだろう。
「先生も発想普通じゃないですよ。」
思わずそう言う。
「ふふ。穴まで運ぶの手伝ってあげる。」
浅葱君は袋を持ち上げようとしている。一度、スカッと通り抜けた。何度か慎重に袋に触れ直すと、ゆっくり持ち上がった。浅葱君の細い腕がプルプルとしている。
「チトセ運べるのか?」
「大丈夫…。」
あまりに必死な顔に先生は笑った。
「いいよ。これぐらい軽いから自分で持つ。」
そう言って軽々と袋を持ち上げた。
「じゃあ応援してあげるね。」
フレフレと節をつけて歌うと
「紅林と見張り頼むわ。お盆だから人いないけど一応な。」
と言って優しく微笑み、ドアへ向かって行った。
穴に袋を投げ入れている先生をみてツキのことを思い出した。
「夏休み明けにツキが変な噂広めてそう。」
ツキは口が軽い。しかも面白おかしく話すのが得意なので、すぐに生首のことは広まってしまうだろう。
「あーたしかに。」
浅葱君は苦笑いをした。
「なんの話?」
先生がスコップで土をかけながら聞く。
「昨日、学校一のおしゃべり女子が、旧校舎で生首みたらしいですよ。」
一瞬、間があって、そして思い至った先生が
「あーやべぇな。」
と頬をかいた。
「落とした人体模型だわそれ。」
「ツキのことだから都市伝説風に広めるだろうな。」
この学校の怪談はほとんど出どころがツキだ。1を100に広げる発想を持っているので、物音一つからこの世に未練を持つ少女の霊を生み出すのだ。
「うわー。肝試しとかはやりそうだな。」
先生は、手を止めて考え込んでいる。しかし、焦っているようには見えない。
「人集まったらすぐ埋めたのバレちゃうんじゃない?」
浅葱君が首をこてんと倒した。穴のところだけ、明らかに色が違う。見つかれば掘りだす生徒もいるかもしれない。
「まずいよなー。」
まるで他人事のようだ。
「あ、じゃあいい方法があるよ。」
浅葱君がにっこり笑った。