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 ガタガタと立て付けの悪い木造の扉は鍵が掛かっていない。扉を開けると、入ってるすぐ、右手の理科準備室から物音がする。臆することなく、浅葱君が中へ入り、そしてにこりと笑った。しーっと口に人差し指をあてて、手招きする。私も準備室を覗いた。

「武田先生!」

数学の武田先生。赴任して3年目の新米教師だが、ベテランの先生に諂わない。また、無気力でヤル気は感じられないが、顔が整っているため怠そうなのが逆におしゃれだと一部生徒に人気らしい。

「うおっ!!紅林何してんだこんなとこ…」

先生は相当に驚いたらしく、肩が大きく跳ねた。私の顔をみたあと、呆然とした顔で私の後ろをみている。

「先生。お盆休みじゃないんですか?」

「武ちゃん居残り?」

浅葱君に話しかけられた先生はしばらく黙ったまま、その顔をみていた。

「チトセ…」

「久しぶりだね。武ちゃん、こんな日にも居残りさせられてるんだね。」

浅葱君は楽しそうに笑う。

「居残りって…。チトセは元気そうだな。」

先生の目尻には皺が寄っている。なんだか眩しいものでも見るような顔だ。

「あれ?下の名前で呼ぶ仲なのか?」

泣き出しそうな先生に遠慮して、浅葱君の耳元で聞いた。

「うん、ご近所さんだから仲良しなの。」

えへへと笑う浅葱君は幼い子のようだ。

「ね!」

と浅葱君が先生に笑うと、先生もつられて笑った。

「ああ。」

「ふーん。で、先生休みじゃないんですか?」

我ながら子供だと思うが、仲の良さそうな2人に妬いて、少し冷たい声色になってしまった。

「あ、あぁ。休みだけど、昨日ちょっとしくっちまって。」

「口論になって一突き?」

浅葱君が笑顔で聞いた。先生はよくわからないというように首を傾げ、持っていた大きな黒のポリ袋を持ち上げてみせた。

「バレる前に片付けちゃわないとだから。」

セリフと相まって死体にしかみえない。

「片付ける?」

「殺人?」

2人で尋ねると、先生は片眉を持ち上げた。

「はぁ?ちげーよ。ほら、ちょっとバラしちまったから…」

空いた手で頭をガシガシ掻く。

「バラバラ事件ですか?」

「死体を解体したの?」

なんだか楽しくなって、浅葱君とふざけてみる。

「なんでそうなるんだよ。普通そんなこと思わないだろ。」

そうとしか思えないだろ、と釈然としない顔で浅葱君をみると、同じ表情で見つめ返してきた。2人が黙って見つめているのが、気になったのか、先生は小声で言った。

「内緒にしろよ。」

「はい。」

「約束する。」

先生はポリ袋を開けて、ツヤツヤした右足を出した。

「昨日、人体模型壊しちまって証拠隠滅に旧校舎のと入れ替えたんだよ。」

出てきたのはバラバラになった人体模型のパーツだった。ずっしりと重そうなそれは、意外と値がはるらしく、先生はバレたら怒られそうだからと子供のような事を言っている。そこで、旧校舎の倉庫に置いてあった人体模型と入れ替えてしまおうと考えたらしい。しかし、旧校舎のものは当たり前だが、古い。大丈夫かと聞いたら、磨けばいけると投げやりだった。

「馬鹿だねぇ、武ちゃんは。」

年下の浅葱君の罵倒にも怒らず、フンっと鼻を鳴らしただけだった。

「それにしても旧校舎に人体模型あったっけ?」

浅葱君がこめかみに人差し指をあてて考えている。前、探検した時は見つからなかったなぁ。と小さくつぶやいた。浅葱君は意外にも校舎を歩き回っているらしい。チヨとツキから聞いた、この学校の七不思議のうち、いくつかは浅葱君発祥なのかもしれない。


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