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ツキ「でも、バーコードリーダー粉粉にしたの私だし。」
チヨ「素手で粉砕って、ゴリラかと思ったわ。」
少し前に、バキッ!!と凄まじい音がしたのはそれだったのか。
ツキ「だって、いきなり冷たい風きてびっくりしたんだもん。」
僕は機械の操作が下手だ。先程、少し暑いなと思って準備室のクーラーを付けようとした際に間違えて色んな場所のクーラーを誤作動させてしまった。
チヨ「つっちゃん、都市伝説好きなくせに怖がりだよね。」
千代田さんが揶揄うように言った。
ツキ「いや、いきなりだからびっくりしちゃって。だって色んな場所から風来なかった?」
月岡さんが口を尖らせた。
チヨ「朝、届いた本準備室に運んだ後、クーラー消し忘れんでしょ。それか、窓閉め忘れてるとか?まぁ、建て付け悪いからいろんな隙間から風漏れてんだよ多分。」
月岡さんはそうかな〜?と納得のいってない様子だ。
ツキ「まぁいいや。でさ、あたしめちゃくちゃビビってたんだけど、バーコードリーダーは取りに行かなきゃ、まつりにバレたら怒られると思って。」
チヨ「まつりちゃん、図書室備品買う金あるなら全部本代に回したいってタイプだからバレたらやばいよつっちゃん。」
紅林さんは月に相当数の本を読む。(全てミステリーだが。)そのため、自費では到底足りず、毎月図書室にリクエストを出して新しい本を入れてもらっている。生徒数が少なく、本を読む学生も少ないのでリクエストは予算が許す限り殆ど通るのだ。そのため、紅林さんは図書室予算にとても厳しい。
ツキ「あたしは、パソコンあれば好きな話全部調べられるから、図書室の本代とか考えたことなかったわ。都市伝説の本は月に数冊ぐらいしか出ないし。」
チヨ「つっちゃん、都市伝説オタだもんね。なんで図書委員にしたの?」
月岡さんは毎日のように紅林さんと千代田さんに都市伝説の話をし、また他のクラスメートにもしつこく普及している。普通なら嫌がられそうだが、月岡さんの人柄の良さと語りの面白さで、この学校には都市伝説好きが増えているらしい。
ツキ「え?だって、図書委員なんてみんなホラー好きのオタクでしょ?都市伝説の話が合うかな?って。」
チヨ「偏見がすごい。」
実際、都市伝説好きの図書委員は多いらしく、図書室の利用生徒がいない間、図書委員はフリーメイソンの話などで盛り上がっている。
ツキ「ちーもよくわかんない絵巻をどっかの図書館のデータベースでみて満足してるじゃん。」
チヨ「妖怪の絵巻ね。本好きは総じて妖怪が好きだから。」
ツキ「それも偏見だってww」
これも結構な確率で当たっている気がする。月に一度出している図書館新聞では、千代田さんが妖怪についてのコラムを書いているのだが、これが毎回図書委員の間で話題になっている。前回は反魂香についてのコラムだった。紅林さんと後輩の女の子がその調香について話して、後輩の女の子が私調合わかりますよ!と自信満々に反魂丹の成分表を紅林さんに示していた。落語のようなオチに紅林さんは珍しく破顔していた。
チヨ「つっちゃんの好きな妖怪は?」
ツキ「すねこすり」
チヨ「ほらね。図書委員はみんな推し妖怪いるから。」
ちなみに、紅林さんはひだる神が推しだと言っていた。水木先生が描いたひだる神がスタイリッシュでかっこいいからね、と普段のクールな紅林さんには珍しくはしゃいでいた。やはり、図書委員には妖怪好きは多いのかもしれない。