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イーハトーブの約束  作者: サーム
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第十章

第十章


 * 小岩井農場 8757時間30分後*


 「サチ〜! サチ〜! どこにおるんや!」農場に入って、いろいろと探し回ったが見当たらない。農場内は、この後行われるイルミネーションの点灯式を楽しみにしている観光客であるれかえっていた。人混みを掻き分けながら、ユウジは、農場の施設を探し回った。その間にも、時はどんどんと進んでいき、辺りはすっかり夜の闇に包まれていく。

 「あぁ! もう真っ暗で何も見えへんわ! もうイルミネーションの点灯式も始まってしまうやんか! 人は多いし、こりゃもう探しようがないわ!」

 ユウジは、走り回って疲れ果てて、農場の芝生の上で大の字になってしまった。「サチ! もう会われへんのか! サチ! どこ行ってしもうたんや!」

諦めと悔しさで涙が溢れてくる。最後まで情けない、ドンくさい終わり方やなぁ、と思うと涙が止まらなくなってしまった。そして、すべてが終わったと思い、諦めて目を閉じて、サチの顔を思い浮かべながら最後のお別れをすることにした。「サチ! ありがとう! 俺は、君に会えて幸せやったで! もうちょっと一緒に楽しみたかったけど、ほんまドンくさいことしてしもて、ごめんな! 先に天国行ってるから、空の上から...、君を...、」ユウジは、そのまま深い眠りに落ちていった。


 * 小岩井農場 ユウジ、サチ 8758時間後*


 ユウジは、深い眠りからようやく目を覚まし、目を開けた。

 すると、サチの笑顔が目の前にあった。

 「あれ? 今岡さん? やっぱり入って来たんですか? こんなところで寝っ転がって、何してるんですか?」

 あぁ! 会えた! サチに会えた!

 ユウジは、神様に感謝していた。

 「いや、あぁ、星が綺麗だなあって思って...」

 「えっ? お星様?」と言って、サチは空を見上げた。

 そこには、数えきれないほどの満天の星が輝いていた。

 「すっごく綺麗! さっきまでは、こんなに見えなかったのに、今岡さんに会ったら、なんか急に空が澄んで、こんなに綺麗に星が見えてる!」

 サチは、一年前の事故の時、夢の中で銀河鉄道に乗って見た、あの夜の星たちを思い出していた。そして、ユウジの隣で見た星たちやお月様を。いつの間にか涙で星が滲んでいる。

 ユウジは、サチが星空を見上げて、泣いているのを見て、もう、これで終わりにしようと思った。ここで、自分がユウジだと打ち明けて、最後のお別れをしてたいと、そう思った。

 「サチ! サチ! 俺だよ! ユウジだよ! 俺は、ユウジなんだよ。見た目は違うけど、ユウジなんだ。」

 サチは、最初は、何を言ってるのかわからなかった。冗談で言うことではないし、でも、なんとなく怖くなって、何も言えず黙って、ただ今岡の姿をしたユウジを見つめていた。

すると、今岡だと思って見ていた目の前の男が、一瞬であのユウジに、星野勇次に変わっていた。

 「あの事故が起きてしまって、俺は先に天国に行くけど、ミユのことやら、後は頼みます。ごめんなさい、こんなことになってしまって...。俺は、あなたと出会って、結婚して、一緒に暮らせて、本当に幸せでした。いままで、ありがとう!

... ...さよなら!」

 サチは、また夢を見てるのかと思ったが、目の前にいるのは、正真正銘のユウジの姿をしている。会いたくて会いたくて仕方のなかった、あのユウジが目の前に居る。

 「いやだ、あなたが本当にユウジなら、先に天国に行くだなんて言わないで! 何言ってるのよ! なんで先に死んじゃうのよ! 私は、後に残された私は、どうなるのよ!」

 「ごめん。本当にごめん。」

 「それから、私が、何で今日ここに来たのか、わかってるんでしょうね! あなたは、約束したでしょ! 一緒にイーハトーブに連れて行くって! だから、あの約束が忘れられないから、私たちの結婚記念日の今日、ここに来たんでしょ!

 私を、早くイーハトーブに連れてって!」

 「ちょっと待ってくれ。俺、ユウジの姿になってんのか?」ユウジは、サチのスマホのカメラで自分の姿を確認して、今岡じゃなくて、ちゃんとユウジに戻っているのを見た。

 「あぁ、そうか、もう誓約破って正体見せてもうたんか! もうすぐ召されてまうんやなぁ。ちくしょう! もうこうなったら最後までやりたいようにやらしてもらうわ!」

 「何言ってるの? ユウジ、私の話聞いてるの?」

 「サチ、わかった! 約束したんやったな! よっしゃ! こっち来い!」と言ってユウジは、サチの手を掴んで、農場の真ん中の方へ走り出した。


 その頃、トイレから出てきたミユは、待ってるはずのサチが見当たらなくて、探して歩いていたが、その目の前をユウジとサチが手を繋いで走って行くのを見て、何故か"やっぱりそうだったんだ!"と思い、二人のことを笑顔で見送っていた。

 そして、横の背の高い若い男に肩を抱かれながら...。

 「よかった。これでお父さんにも見せてあげられるわ。」とその男の耳にそっと囁いて微笑んだ。二人は、頷き合いながら、走って行くユウジとサチを見つめていた。すると、二人の後ろから、追いかけて走る一人の男が見えた。


 「おーい! ちょっと待てや! 何しどんねん! お前、正体バレたら終わり言うたやろが!」

 その男は、あのおっさん、神様の代理のおっさんだ!

 ユウジは、農場の一番広い草原の真ん中まで走って行って、サチと向かい合うようにして立ち止まった。

 そこへ、おっさんが追いついた。

 「お前、勝手に何してんねん! おこるで! もう終わりや。召されろ!」

 「えっ? 誰? あんたなんか知らんけど? ちょっと邪魔やからどっかいってくれるか! ていうか、さっきなんで出て来んかったんや! 駐車場で! 待っとってんぞ!」

 「神様の代理さんはなぁ、忙しいねん。お前の相手だけしとったらええんちゃうねん。まあええわ、あのな、私もいろいろ考えてあげてんねんから、ちょっと一回落ち着こうや!」

 「落ち着つきがないのは、おっさんの方やろ! 俺も正体バレたら召されるっていうのはわかっとるんや。でもな、サチと最後のお別れぐらいさせてえな! なぁ、それぐらいええやろ!」

 「ユウジ! 何喋ってるの? 誰と喋ってるの?」サチは、一人で大声で喚いているユウジを見て、何がなんだかわからなくなってきた。「あっ、ごめん。そうかサチにはおっさんが見えへんのやな。ちょっと待ってて、男同士で話つけて来るから。」そう言ってユウジは、一人で? 農場の奥の森の方へ走って行ってしまった。

 

 *小岩井農場の森 8158時間30分後*


 「おっさん、じゃなくて神の使い様、お願いします! もう一回だけ最後に銀河鉄道乗せてくれへんか? なぁ、最後の頼みや! お願いしまあーす!」

 「なんやて? 神の使い? 違うがな、神様の代理や! 使いは、使用人やろ、代理は、神様と同等ちゅうこっちゃ! 格がちがう! 格が!」

 「はい、はい、わかったから、早よ出して! あの機関車。お願いしまあーす!」

 「もう、アホか! お前は! まだわかってないなぁ、あれはやな、お前の頭の中のもんや。だから、わしもお前が生み出した人なんやで。勝手にやったらええがな。本当に一緒に行きたい人と気持ちを一つにすれば、なんでも叶うんやで! さぁ、サチちゃんと最後のデートでもなんでも行ってこいや。なぁ、そのかわり最後やからな! えーと、今日は、ほら、もうあと1時間30分切ったで! ほら、早よせんかい! 急げ!」

 「えっ? そうなん? お前も俺の作ったもんなんか、わかった! ありがとうな、おっさん! いろいろ世話になったなぁ! ほんだら、行くわ! 俺、サチと行ってくるわ! イーハトーブ! 行ってくるわ!」

 

 * こいわいステーション 8758時間40分後*


「サチ! ごめん、待たせて! 話ついたで。 イーハトーブに行きませう!」

 「いやだ! こんな時に"せう"だなんて! ムード台無しだわ。ねぇ、ほんとに行けるの? イーハトーブに!」

 「えっ? うーん、わかりませーん。もしかしたら、イーハトーブじゃないかも。」

 「なによ! イーハトーブじゃなかったら、どこ行くのよ!」

 「イーハトーブかもわからんけど、もしかしたら、"ええハトーブ"かもな!」

 「'ええハトーブ"って、なんやそれ! またふざけてる!」

 「ほら、早よせな! もう1時間しかないで! こっち、こっちや! 行くで!」

 ユウジは、サチの手をしっかりと握って、銀河鉄道の機関車が止まっている"こいわいステーション"に向かって走り出した。

 「サチ、会いに来てくれてありがとうな! 俺は、お前と約束したことも忘れてて、でも、なんか知らんけど、このまま天国行くのはちゃうやろと思とってん。サチが会いに来てくれんかったら、なんもわからんまま永遠に彷徨っとったらかもな。」

 「え? 聞こえないよ? なんて言ってるの?」

 走りながら話しているユウジの目からは、涙が溢れて、キラキラと光って風に流れて行く。

 二人は、あの売店のすぐそばの、あの時と同じ場所までやってきた。そこには、"銀河鉄道の切り絵"の機関車が、ちゃんと"こいわいステーション"に到着していた。それを見たユウジは、サチと自分の夢が一緒だったってことの証を目の当たりにし、心が震えた。そして、サチが愛おしくて、愛おしくて、思わず抱きしめた。

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