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プロローグ

たぶん続かない!!!

 異世界転生、異世界転移。

 これらが我々の住むこの地球で世間一般に広く知れ渡るようになって久しい。

 ある者は神の娯楽として。またある者は世界を救う希望として。またある者はその悲惨な人生を憐れまれて。またある者は運命の悪戯で。

 そうして数多の魂魄が、時空を渡り異世界へ移ろっていった。

 ほら、今日もまた。神の娯楽目的でトラックに轢かれた哀れな少年が、異世界へ転移する手続きを受けている。




「――それじゃあ、これで手続きは終わったね」

「はい、ありがとうございます」

「何か質問はあるかい?」

「いえ、特にはありません」


 おやっ。神は内心驚いた。

 今まで10は下らない魂たちを異世界へ運んできたが、チート能力を強請(ねだ)ってこないのは初めてだ。

 まさか、異世界転移について知らない訳もあるまい。


 彼は日本に住んでいる、人並み以上にアニメやゲームといった娯楽に興じるオタクと呼ばれる人間だったはずだ。最近、地球の日本で流行している異世界転生モノを目にする機会がなかったわけがあるまい。


 …………単純に、無欲?

 いやいやまさか。そんなことはない。人間が如何に強欲で自分本位な生物か、私は嫌と言うほどこの目で見てきたじゃないか。


 まあ、何にしてもチート能力の1つや2つ渡しておかないと現代人ってのは其処ら辺ですぐに野垂れ死ぬからな。それじゃあ娯楽にもなりゃしないし適当にさっさと渡して転移させてしまおう。


「そうだ、忘れていたよ。キミが欲しい力を何でも1つ、あげるんだった」

「なんでも……ですか?」


 そら来た。思わずほくそ笑む。目の前で餌をチラつかせたらすぐに喰いついたぞ。どうだ見ろ、あの欲望にギラついた目の色を。


「ああ、何でもだ。不老不死でも、世界最大の魔力保有量でも、何でも願うと良い」

「はい。決まりました」

「好きなだけたっぷり悩むと良い。時間はいくらでも――――は?」

「決まりました」

「そ、そうかい。ではその願い事を教えてくれるかい?」


 早くない? 神はまたもや驚いた。1日に2回も驚いたのはいつぶりだろうか。

 まあいい。退屈な時間を過ごさずに済んだと思おう。やはり彼はチート能力が欲しかったけど、自分から言い出すのが恥ずかしくて我慢していただけなんだな。

 チート能力を与えて異世界に放り出す。そして調子に乗って人生最大の見せ場を迎えたところで与えたチート能力を取り上げる。

 そして絶望しながら人生の奈落へ落ちていく様を見るのだ。神は内心で数年後の楽しいクライマックスを思い浮かべて笑い転げた。




「ツルハシ(・・・・)をください」




 ……………………は?


「つ、つるはし?」

「はい。ツルハシをください」


 なんだそれは。そんなもの異世界に行ってそこら辺の街に行けばいくらでも手に入れられるだろうが。


「そ、そうか。神器としてのツルハシが欲しいんだね?

「いえ。普通のツルハシをください」

「そ、それじゃあアレか。つるはしを使うと発動するチート能力が欲しいんだね?」

「いえ。ツルハシだけで結構です。能力? とかいうのは大丈夫です」


 何を言っているんだコイツは!?

 もはや驚くとかそういう次元ではない。神を目の前にしてわざわざ一束いくらとかで買えるつるはしを要求する馬鹿がどこにいるんだ。

 大慌てで目の前のコイツに関する過去の映像が見える球体を取り出す。何度も行った儀式だから慣れていてしっかり目を通していなかったのだ。


 球体に映っていたのは、フローリング床の1室で椅子に座りパソコンモニターに向かう少年。モニターに映っているのは、世界的に大人気なブロックで出来た世界でサバイバル生活を送る自由度の高いゲーム。

 建造物を造ったり、のんびり農耕したり牧畜したり。地下に潜って冒険したりモンスターと戦ったり。10年以上前に発売されてから今でもなお世界中にプレイヤーがいる伝説的なゲーム。


 そこで少年はツルハシを持っていた。そしてただ目に付くモノを掘り進めていく。

 それが木であろうと土であろうと関係ない。敵であろうがNPCであろうが関係ない。目に付く全てをツルハシで破壊していく。

 それを延々と繰り返す。ただひたすらに繰り返す。一言も発さず黙々と繰り返す。


 そしてとうとう、ゲームの世界には破壊不可能なブロックを残して全てがなくなった。

 少年は再び、新しい世界を生成する。そしてまた、ツルハシで破壊できないモノ以外の全てを破壊していく。

 それが2度、3度と繰り返される。延々と同じ映像が繰り返される。


 神は途中で見るのをやめた。代わりに見たのは目の前で首を傾げる少年。


「狂ってる……!」

「よく言われます」


 思わず出てしまった一言。しかしそれを聞いた少年はどこか困ったような苦笑いを浮かべただけ。

 もういい。つるはしでもツルハシでも、なんでも与えて早く転移させてしまおう。

 得体の知らない怪物を見たかのような恐怖に襲われた神は、早口でまくし立てる。


「分かった、ツルハシだね。はいどうぞ、これでいいかい? じゃあ転移させるよここからはキミの2度目の人生だ自由に生きてくれバイバイもう二度と会わないだろうけど元気でねキミの幸運を祈っているよ!」

「はい。何から何までありがとうございます。お世話になりました」


 手にツルハシを持って礼儀正しく頭を下げる少年が光に包まれて消えていくのを見届けて、神はため息をついた。


「今回だけは、見るのやめとこうかな……」


 何もない空間で、神の声がむなしく響いた。


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