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不思議なダンジョンで1000回救える風来の異世界大冒険  作者: 野介
エルフ、不退転を強いられる
8/30

不思議なシステム④

「はあ、今日だけで一ヶ月分の食べ物食べましたよ。顎がだるっ…」

愚痴を言っても、男はテキパキと先へ進み相変わらずこちらの言葉など聞こえていない様子だ。無視ではなく、相変わらずダンジョンに夢中になっている。この奇妙なシステムの何が面白いのだろう。

 敵の攻撃は激しさを増していっているようだが、不思議と回復魔法の機会は少なかった。男がにやけながら武器や盾を壺に入れたり、怪しげな草をこそこそ食べていたので、恐らく何かしらの対処をしているのだろう。聞きたくもあったが、話がものすごく長くなりそうなのでやめておいた。

「そろそろ30階か。底には近づいているんだろうが」

「普通はそのくらいの階数に変換されるんですか?」

「いや、元が低難度のダンジョンなら、もっと浅い。せいぜい20階とかかな。でも出てくるモンスターのランクを見ていくと、もっと深いように感じられていた。コロニーに属する魔物が多いし、その成体も出てきたが、より強力な魔物が控えていてもおかしくはない」

男の話を聞いて、私はダンジョン主の存在が頭に浮かんだ。この男の魔法は、主の部屋が隠蔽されていたとしても、「不思議のダンジョン」の一室として普通に進めてしまうのではないだろうか。もしそうであれば、私にとってこの男は手放せない価値がある。ダンジョンの情報を流しておけば勝手に壊滅させてくれるかもしれない。

「ふふふ…」

私が裏でそう画策しているのも知らずに、男は楽しげに階段を降りていき、私もそれについていく。降りた先は、今までと様子の違う通路だった。趣味の悪い内臓のようなオブジェが等間隔で飾られており、今までの小部屋や通路とは違う、ちゃんとした構造になっている。

「いかにもボス部屋だな」

男はやや不機嫌そうに呟いた。

「驚かないんですか?ここのダンジョンはコミューンってギルドの説明にもあったはずなのに」

「前に一度だけあった。大方、共生型コミューンのふりをして冒険者達から逃げているってところだろ」

「知ってるんですか?それって––」

「いるぞ」

部屋が開けた。広く、意匠付の石柱が立っている。天井も高い。ダンジョン主の魔力の強さを表しているようだ。男に言われずとも、奥の祭壇のような場所から大きな魔力を感じる。

「まさか人が来るとはな。どうやって紛れ込んだ?」

奥の方から声が聞こえる。白く神々しさすら感じる壇の上に龍人が鎮座していた。

龍人が大きな雄叫びを上げると、ドラゴンタイプのモンスター達が四方から駆けつけてきた。10匹以上はいる。男の魔法システムでのターン制とやらは、一対一の場合はその効果を発揮するが、囲まれると八方のモンスターのうち一匹しか一ターンに攻撃できないので、残り七匹から袋叩きの地獄絵図になってしまう。もっともそれは、この魔法システムに限らず通常でも同じであるのだが、魔物の隙間を塗って逃げたりと言った事ができないため、それは浮き彫りになる。

「このまま引きつけるぞ」

そう言うと、男は素振りを始めた。一振り一振り、モンスターに詰め寄られる。

「策があるんですか?」

「策?アイテムを使うだけさ」

モンスターが後一歩、と言った距離になった時、男は「炎上のスペル」を唱えた。あたり一面が火に包まれる。男の場所だけ、台風の目のように炎がないが、その他のモンスター、そして隣接している私も燃え出した。

「ぎゃあああ!!」

「はは。モンスターの鳴き声かと思った」

「死ぬ死ぬ!」

「悪い。これしか範囲攻撃の手段がなかった。回復魔法を使って凌げ」

男は安全地帯からそれだけ言うと、炎に耐えて近接してきたモンスター達を斬り伏せていった。炎が全然消えないので、私も焼かれながら回復し、杖でモンスターを殴る。モンスターは炎で弱っており、追撃を受けないまま倒す事ができた。

「そこのスペースの火が消えたから移動しろ!」

私は無我夢中で、男に言われるままそこに転がり込み回復魔法を使った。モンスターはもういない。炎に囲まれた男はその場で激しく腿上げし、ターン消費をして火を消した。床にはいくつか消え損ねた火がまだ燃えている。

「何だそれは。単なる火魔法ではないな。配下が羽虫のように炎に引き寄せられるとは。一体何を使った?」

「モンスターは原則プレイヤーを見つけたら最短距離で向かってくるのがこのシステムだ」

「システム?しかしその魔法、我に通じるかな!」

見栄を張ってるけどあいつ絶対何もわかってないだろ、と内心で突っ込む。龍人は立ち上がるとこちらに向かってきた。動きが普通のモンスターの速さではない。

「早!あいつにはこの魔法の縛り効いてないんじゃ」

「1ターンに2回行動できるんだろう。ボスにはありがちだ。さて」

そう言うと、男はスペルカードを取り出した。

「ちょっと待って。説明して。何のスペル?」

「『持ち帰りのスペル』だ」

「持ち帰り?」

「呼んで字のごとく、所持アイテムを持ったままダンジョンの外に帰るスペルだ」

私は男の言ってる事が分からなかった。猛然とこちらに向かって戦う気満々の龍人の立場はどうなるのか。

「それって勝てそうにないから逃げると言う事ですか?」

「いや、多分今の所持アイテムならいくつか勝ち筋はあると思うが。例えばこの鈍足のスタッフを振ったり」

そう言って、男は龍人に向かってスタッフを振ると、龍の速度が半減し、普通の速度になった。

「じゃあ何で倒さないんです!前に主と鉢合わせた時は倒したんでしょう?」

「ああ倒した。でも、魔力の中心であるボスを倒したらダンジョンが消えてしまうと分かった」

龍は特段怯まずに、こちらに向かってくる。残り一振り分と言うところで、男はまた違うスタッフを振って龍を吹き飛ばした。「ぐうっ!」とそれらしい声をあげている。

「じゃああなたも…。そういう考えなんですか?主を見逃して、ダンジョンを発展させて…」

「発展?ああ、もし、こいつがもっとダンジョンを大きくしてくれれば見逃し甲斐があるなあ。それに、このダンジョンは1プレイで消えてしまうのには惜しいし…」

「そんな…。次も見つけ出して、倒せるって保証は!?」

「場所が変わらなければ見つけられるし、倒せるだろ。多分」

私は男に、勝手ではあるが失望した。変なところばかりだが、何だかんだで私を助けてくれたし、魔法はおかしくても、「まともな」冒険者だと期待しすぎていたのかもしれない。

 龍の知能はかなり高そうだ。もし今回取り逃がしてしまうと、きっと次はもっと狡猾に身を隠し、勢力を伸ばしていく可能性がある。

「分かりました。貴方が帰るのであれば、もういいです。私は好きにします」

龍はもう近くに迫っており、火を吐いてきた。避けることはできない。コドモドラゴンの時のように飛んできた炎に被弾する。30ダメージは固定らしいが、他の龍族よりも強い。私は直線状にならないように右斜め前に進むが、直線上にないはずの位置に炎が追尾し、私に当たった。

「何でよ!?」

「龍系の炎はレベル上がると追尾する様になるんだよ」

「早く言ってください!」

「もういいって言ってた癖に…」

さっきの炎上のスペルからターンがさほどあいていない為、HPがあまり回復できていない。ステータスを確認すると30を切っている。やむを得ず私は回復魔法を唱えた。しかし、このままではジリ貧だ。被弾覚悟で、間を詰めなければならない。

「おーい、多分そいつ強いぞ。本当に倒したいなら、頭使え。ゴリ押しじゃ無理だ」

男はいつの間にかこちらと距離を取り、私に呼びかける。

「わかってます!そんな半端に距離取ってないで、遠慮なく帰ればいいじゃないですか!」

「僕が帰ったらシステム解除されて普通に負けるぞ」

私は一歩間を詰め、ターンごと焼かれながらも相手に近づく。しかし、相手への魔法が切れたらしく、相手は元の二倍速で動くようになり、炎を当ててくる。今までのモンスターのように、まっすぐこちらに向かってはこない。

「少し分かったぞ。この空間の要領を。学ぶことはいいことだな」

そう言った龍の目は笑っている。自分が絶対的優位に立ったことを確信したのだ。相手を追いかけるうち、私は自分の腹が鳴っているのが分かった。こんな時に!これで、回復魔法を使えるのは後一度になった。

「おい!本当に死ぬぞ!」

「まだいたんですか?」

私は精一杯強がる。

「わかったよ。合図したら、俺に向かってお前の持ってる財布を袋ごと投げろ」

「はあ!?」

「いいから!」

私にもう手は無かった。せめて、一矢報いれるかどうかと言うところだろう。それならば、と私は荷物に手を入れる。

「まだですか?」

「俺と直線上になるのを意識しろ。とりあえずは」

話している間にも、龍は火を吐いてくる。

「それしかないのか!利口な口を利いた割には、馬鹿の一つ覚えみたいに!」

悪態をつくが、龍には響かない。2回行動によるヒット&アウェイはこのシステムでは最強だ。

「今だ!投げろ!」

私は、八方位のうち、声のする斜め後ろを見た。男が杖を振ると、柱に反射して魔法弾が龍に当たった。瞬間、龍の位置と男の位置が入れ替わる。私は自分の財布を言われるがまま、龍に向かって投げた。しかし、龍は後退し財布は柱に当たって落ちる。

「ダメっ…!?」

「拾って、また投げろ!」

拾えったって、あと二回も炎を吐かれたら死ねる状況で、と思いながらも、どちらにせよ近接しなければ勝機はないので相手に近づく。死を覚悟して間を詰めるが、龍の挙動がおかしい。私はその隙をついて、難なく財布まで辿り着いた。龍は何かブツブツ言いながら頭を抱えている。相手は1ターンに2回行動できるので、中々直線上に照準が合わない。

「逃げようとしている?」

逃げる知恵がある、と言うことは、恐らくあの龍人が作ったダンジョンはこれだけではないのだろう。こちらの手の内を見られた以上、これを学習させる訳にはいかない。私は力を込めて財布を投げると、今度は間違いなく龍に命中した。すると、追撃しようとする間も無く、龍人は輝いて霧散する。他のモンスターと変わりなく、ダンジョンの中から消えていった。

「やった…?」

「ああ。ちなみにあのふらつきは、自分の真下に混乱の罠があったからそれを入れ替えで引っ掛けてやったんだ」

「そんなの知らないから、こっちは必死の覚悟でしたよ。と言うか、何で財布で倒せたんですか?突っ込む余裕もありませんでしたけど」

「金袋を投げ付けた際、入っている額の十分の一のダメージを相手に喰らわせる事ができる。基本、自分の所持金と統合してしまうと使えないはずだが、投げ付けられる形状をしていればいけると思った」

「じゃあ、私1万ルピア以上入れてたから、千ダメージ食らわせたって事ですかね。そりゃあ、一撃で…。あれ、それで投げ付けた財布は…」

「基本的にこのシステムでは、モンスターに当てたものは消えて無くなる」

私は男の言った事が耳に入ってこず、龍人が消えた跡に駆け寄り、床に這い蹲って財布を探した。無い。全財産が無い。

「あ…。あ…」

力が抜けて、私はその場に突っ伏した。

「いいダンジョンだったのになあ。バランスも良かったし、ドロップアイテムに珍しいものもあったし。あの龍人ダンジョン作りにセンスがあったんじゃ無いかなあ」

男は未練たらたらのようだった。「男らしく無いですよ」と言ったらムッとして口を閉ざしたが、私達は間も無く何かの光に包まれた。

「何ですか、これ!?」

「良かった。楽なパターンだ」

相変わらず男の言っている意味はわからない。


私は、あまりの眩しさに目を閉じざるを得ませんでした。

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