不思議なシステム③
腐ったパンを再び乗り越え、口の中が粘つく気がして気持ち悪くなり私は何度かえずきながらも、生きる為に回復魔法を使い続けた。流石に、深層に行くにつれモンスターが強くなっていくのは仕様らしい。激しい猛攻の中でも、男は冷静でテキパキと仕事をこなし、私に回復の指示を出す。必要最低限の的確な指示であるので文句はないし、さすがに落ちているパンなど優先的にくれるようになった。
「久しぶりのパンだ、まともなパン…」
「落ちてたやつだけど」
男がボソッと言ったが、私はもう聞かなかったことにした。フカフカのパンだ。
「待て。それは大きなパンだ。まだ満腹度20はあるだろう」
「もう聞かない」
「待て」
「私は犬ではありません」
「そもそも、2回とも腐らせたのが運が悪すぎだ。確かに満腹度も大事だが、このシステムの魅力は食料の話だけではない」
「魅力って何ですか。腐ったものばかり…食べているのに…」
「まあまあ。おにぎりをつけよう。もし我慢するなら」
オニギリ。見た目だけでは味の想像はできないが、あの男が大事そうにしていた食べ物だ。
「でも、魔法使わないとはいえ良いんですか?私ばっかり食べてる気が」
そう言えば、この男が食べている姿を私は何度見ただろうか。同じだけ歩き回り、動き回っているはずなのに、満腹度はパラメーターの上下に違いがあるのか。いや、確か固定のターン数で1減る、と言うようなことを言っていた気がする。隠れて何か食べているわけでもないのに、魔法を使わないとはいえここまでの差が出るはずはない。
「もしかして、何かアイテム使ってません?お腹減らなくなるみたいな」
どうやら、男の不意を突いたようだった。ピクッと盾のついた方の腕が反応したのを私は見逃さない。
「ほんとなんですか!?」
「イヤだから、満腹度ばっかりがこのダンジョンのシステムではなくて」
「いいから!教えて下さいよ!」
男は仕方ないと言う顔をして、持っている皮の盾の説明をしだした。
どうやら、装備するだけで満腹度の減少を半分に抑えられる盾らしい。思えば、最初に中型のゴブリンから助けられた際も瞬間的に装備を変えていた。普段は皮の盾を装備し消費を抑え、攻撃力の高い相手と対峙したときは重い盾を装備するのがこのシステムの基本だと言う。
「何で私にその皮の盾優先させてくれないんですか!散々魔法使わせといて!」
「その分食料を優先的にあげてるじゃないか。トータルで考えたら、どっちが持っていても一緒だ」
「安心感が違いますよ!」
「多分あんたに持たせると盾を変えるタイミングが分からない。皮の盾を持っている時に高火力モンスターに叩かれる」
そう言って、男は口を尖らせた。この男、顔はかなり整っているのだが、表情がなんとも言えず不細工な時がある。折角眉目秀麗なのに、残念だ。
「ちょっと、食べ物のシステム取り敢えず全部教えてもらえません?」
システムについての説明を求めると、男は相変わらず割と話してくれる。満腹度を減りにくくする方法は皮の盾が代表的だが、ダンジョンによっては満腹度が全く減らなくなる指輪が落ちていることもあるらしい。
「その指輪、めっちゃ欲しいんですけど!」
「待て。皮の盾の話がまだある。これはプレイヤーでも中々意見の分かれるところで、何故皮の盾を装備することで満腹度の減りが少なくなるということだが、軽いから満腹度が減らないと言うならそもそも盾を持っていない状況の方がいいじゃないかだとか、装備しつつ囓っているから満腹度が減らないんじゃないかだとか日々熱い激論が交わされているんだが、こうやって実際手に取ってみると…」
「プレイヤー?あーもう、そう言う話はいいんですよ。他になんかいいアイテムはないんですか」
「この話の面白さが分からないとは…」
男は渋々と言ったように話を続ける。食料の調達方法としては、ダンジョン内で偶然見つけるか、パンの巻物でいらないアイテムを変化させる、後はアイテムを変化させるモンスターにおにぎりにしてもらう、などなどと長い説明をされた。
「アイテムを食べ物に変化させるモンスターですか?」
「ああ、まだこっちでは見てないんだが…。この世界で何か物体を変化させるモンスターはいないか?」
「うーん、幻覚を見せるのとは違いますよね。一応、ニンクルとかがいたずらで人の装備品をおもちゃに変えたりする魔法を使うとか…」
「なるほど。ニンクルか。それが出てこないから、パンの巻物でバランスを取っているのかもしれないな。出現率も多かったし」
「あ、そうだ私に食べさせたパンって元は何だったんです?」
いらないアイテムをスペルカードで変化させる、と言うことが気になって聞いてみたが、やはり何か後ろめたい部分があったようで、男は目を背けた。
「何ですか!?」
「いいじゃないか、あんなに喜んでいたんだから」
「喜んじゃいませんよ、結局腐ったんだから」
「食料の話はもういい。別の話をしよう。盾の防御力、そしてダメージの計算方法だが…」
そういって男は目を輝かせながら話を始めたが、私にはよくわからない上、一体何を食べさせられたのか気になって上の空だった。
だけど、そうして蘊蓄の量が増えるにつれ、私達はダンジョンの底に近づいて行ったのです。