不思議な魔法(システム)①
この世界のダンジョンには、成り立ちから2つの種類がある。多くは元々モンスターにとって住みやすい環境にコロニーが出来、ダンジョンが自然発生する同居型というパターン。もう一つは、強い魔力を持つモンスター、もしくはアイテムが核となり、その魔力源をエサに下位モンスターを配下にする形で出来上がる意図的に作られた支配型のダンジョンだ。どちらが危険という事は一概には言えないのだが、割合としては圧倒的に後者の支配型が凶悪な力を持つことが多い。
この中級ダンジョンは同居型という事で登録されている。しかし、知恵のあるモンスターが核となった場合は、同居型に擬態し、危機が及べば逃げることを繰り返して力を蓄え続ける事もある。
擬態した支配型を見分けるのは困難だが、モンスターの種類や挙動を見れば判断できる場合もある。
このダンジョンの場合、気になるのはドラゴン種のコドモドラゴンだ。支配型ダンジョンに多いドラゴンの中では比較的寛容なモンスターであり、同居型のダンジョンにいてもおかしくはないのだが、ここが「不思議なダンジョン」になる前に見たコドモドラゴンは普段よりもやや好戦的に見えた。不思議なダンジョンになってからは「システム」に基づいて動く為、その機微は見えなくなってしまったが、あれは何らかの後ろ盾があっての影響ではないだろうか。
「おい、回復魔法を頼む!」
「もう食料ないじゃないですかあ!」
「大丈夫!ここを乗り切れば一つくらい落ちているはずだ!」
目下交戦中なのだが、今私たちは狭い通路の中におり、その先の部屋には恐ろしいくらいの密度のモンスターが押し寄せてきていた。とは言え、隙間を見て突っ込んでくるわけではなく、お利口に、順番を守り、彼に倒されてはもう一匹と、正面に出てくるのを繰り返している。彼も被弾がゼロではない。通路の脇のモンスターが弓を打つ場合は当てられているし、どこからともなく投石が飛んでくることもある。私もすでに回復魔法を1度使わされた。次で2度目になる。
「得意の立ち回りはこれで良いんですか?」
「後ろに人がいるとここで粘らないとならないんだよ!ほら!」
男がそう言ってこちらに向かうと、何か不思議な力でくるりと場所が入れ代わり、私が前線に立つ形になってしまった。
「わああ!」
こちらが構える隙なく、サイクロプスが棍棒を振り下ろす。私のHPはいきなり半減した。
「死ぬ!死にます!」
そう訴えると、「わかったか」と言いながらまた男は入れ替わり、私と同じ様に攻撃を食らった。
「早く回復だ。じゃないとまたやるぞ」
男にそう言われ、私は考えることをやめて回復に徹した。いつの間にか敵の数はゼロになり、私はまた腹の音を響かせた。
「食べ物ありますか?」
今しのいだこのモンスターだらけの部屋はモンスターハウスと言うらしく、モンスターや罠がぎっしり詰まっているが見返りとしてアイテムのドロップが多いらしい。部屋の外からは見えなかったが、確かに貧民街の道端のゴミの様に雑然とアイテムが転がっている。スペルカードがちり紙の様だ。
「あの、食べ物…」
「すまん。無さそうだな」
「あるって言ったじゃないですか!」
「あるかもしれないと言った」
「一つくらいはあるみたいなこと言ってました!」
「むう。エルフの記憶力か」
男は黙々とアイテム漁りをしている。床には紙や杖、草、あとは矢がいくつか束になって落ちていた。
「ホラあったぞ。これを使え」
手渡してきたのはスペルカードだった。
「何、これを食べるんですか?」
「違う。これはパンのスペルカードだ。仕方ないな」
そう言って、スペルカードに書かれた呪文を読み上げると、男の言った様に何かの草がパンになった。細長い形の中に、三つの切れ目が入っており、見たことのない種類だが美味しそうだ。
「対象を選択して使うスペルなんだが、誤って使ってしまうと、鍛えた装備や希少アイテムをパンに変えてしまうことがある恐ろしいスペルでもある」
男の解説を無視して、パンの大きさに感動した私は飛びついた。
「あれ、でも、おにぎりじゃない場合もあるんですね」
「ああ。僕も最初は慣れなかったが、不思議なダンジョンと言っても色々あるんでね。それらの要素が混在しているらしい。まあ、ここのダンジョンはこのスペルがあるから食事事情に関してはちょっと緩めのバランスになるかな。あ、まだ食べるなよ。なるべく0パーセントに近くなってからにしろ」
お預けを食った私は今度は絶対に腐らせまいと、懐に入れて罠を警戒した。この時に腐らせてしまったらおしまいだ。二度と腐ったものなど食べまい。エルフの血にかけて。
「だいぶ荷物がいっぱいになったのでは?持ちましょうか?」
「保存の壺が3つもあるからな。まだ問題ない」
保存の壺とは、彼が懐から度々出してくるよく分からない小さな壺のことだろう。あれは気味が悪い。入り口は明らかにあのおにぎりという食べ物よりも小さいのに、にゅるんと中に入っていくのだ。恐らく空間魔法か何かがかかったアイテムなのだろう。
「もともと、懐には20個のアイテムしか持てないようになっている。これはどの不思議のダンジョンでも大体同じルールだ」
「大きめのザックを背負えば良いのでは…」
「違う。そういう問題ではない。この装備品も含めた20個の中でやりくりし、保存の壺を拾いそれが拡張される喜びをしみじみ味わう。アイテムを使うのが肝のこのシステムにとっては、保存の壺こそ最強アイテムの一つだと言っても良い。元々20個しかアイテムを使えないバランスだからこその魅力だ。取捨選択を迫られた末に、あああの時あれを捨てていなければ、という後悔があるのも良い」
「嫌な気持ちになるだけじゃないですかそれ」
「その苦い思いも味なんだよ。あの一歩がなければ、あの一歩があればという核心の様なタイミングがこのシステムには存在する」
「普通の冒険にもそういう瞬間はありますが…」
「それを浮き彫りにするのがこのシステムなんだよ」
また自画自賛が始まってしまった。しかし、確かにこの条件下で生き残るには、フィジカルや体力はもちろんだが判断力によるところが大きいのだろう。そういう意味では、この不思議なダンジョンは全ての冒険者にとって平等に近いと言えるのかもしれない。単独の冒険者にとっては、モンスターの配置がムラなく点在していることが多いこのシステムの方が恩恵があるだろう。魔法中心に戦うタイプは私の様に空腹に苛まれるかもしれないが。
「改めて聞きますが、どうやって習得したんです、この魔法」
「僕がそれを話してもデメリットしか無い。手の内を知られる危険がある」
「もうだいぶ勝手に喋っちゃってるじゃないですか。あまりに異質ですよ。それに強力すぎる。魔物にも影響を与えて、スペルカードや武器が落ちているなんて」
「デメリットもあり、帳尻が合うようになってるんだよ。装備品を一切持ち込めないし、ダンジョンから出た時点で俺はレベル1に戻る。どのダンジョンも、最弱からのスタートをしなければならない」
「えっそれってかなりの弱点なんじゃ…。言って良かったんですか?」
男は額に青筋を浮かべてイラッとした目をこちらに向けたが、それ以上は何も言わなかった。この人の魔法のことはまだ分かりませんが、だんだんとからかっても許されるラインは理解してきたかもしれません。