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異世界転移!  作者: 中原
2章 初仕事は迷い猫探し
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3話

 ジョンさんの情報を頼りに街の広場に行くと、デーンっと黄色い大きなテントが目に入った。

 移動サーカスのテントによく似たそれがゲイリーの店らしい。


「入りましょう」


 テントの前には受付の人がいて、中に入るには入場料が必要と言われた。

 意外と高かったのか、アリアさんが少し渋い顔をした。

 自分の分は出世払いという事でお願いします。

 入場料を払い、テントの中へ。

 この世界でも動物園は人気なようで、家族連れからカップルまで多くの人で賑わっていた。

 あまり目立つ行動は取りたくないので、人の流れに乗って動物を見て回る。

 檻の中には、体長2mほどの双頭のトカゲといった大型の個体から、ハムスターほどの小型の動物まで多種多様に揃えていた。

 ジョンさんが言ってたウサギは……いた。

 星模様のウサギが2匹檻に入れられていた。

 片方のウサギには大きな星マークが頭としっぽの部分にあった。

 もう1匹の方は星マークはあるが、模様の位置や大きさは全然違っていた。

 個体差って奴だろう。

 確認が終わったところで、再び普通のお客さんのように動物を見て回りながら、他に怪しいところはないか探る。

 ただ、動物達全てが地球では見ることができないので、思わずここに来た理由を忘れ楽しんでしまいそうになる。

 いかんいかん。ここにはペットを攫っている証拠を掴むために来たんだ。楽しんでる場合じゃない。

 邪念を払おうとしていると、


「イオリ、向こうで動物に触れるらしいわよ!」


 動物とのふれあいコーナーを見つけ、はしゃぐアリアさんが寄って来た。

 俺より楽しんじゃってるけど、何しに来たか忘れてるわけじゃないんだよね。

 そんな目で見ていると視線の意味に気がついたのか、ハッとなった。


「もちろん仕事の事は忘れてないわよ! ただせっかく高いお金払ったんだし楽しまないとと思って!」


 アリアさんは早口で弁解する。


「そう! 高いお金払ってるのよ! 楽しまないと損じゃない!」

「まあ……」


 お金の事を言われると弱いな。

 全部出して貰ってるんだし。


「まずはここを楽しみましょう。仕事はそれからでも遅くないでしょ」

「うーん……わかった。じゃあ仕事は一旦忘れるよ」

「なら触れ合いコーナーに行きましょう! 色んな動物に触れるみたいよ!」


 どんだけ触れ合いたいんだ。

 ……まあいっか。



 一通り動物園を満喫した俺らは、他のお客さんの邪魔にならないよう隅の方に移動した。


「どう。何か怪しいところはあった?」

「ないわね。普通の動物園と一緒」

「だね。でもジョンさんの言ってたウサギはいたね」

「あー、そういえば片方だけ尻尾と頭のとこに大きな星マークがあったわね」


 そういえばって。


「できればゲイリーという人に会いたいね」

「会えないか聞いてみましょう」


 ちょうど係のお姉さんが近くを通り掛かったので、アリアさんは話しかけた。


「すみません」

「はい。なんでしょうか」

「オーナーのゲイリーさんという人に会いたいのですが、会えますか?」

「オーナーにですか? 何か不手際でもございましたか?」

「いえ! そんなんじゃないんです! ただ、その……」


 オーナーに会いたい理由が思いつかないのか、アリアさんはキョドッている。

 不審に思われる前に俺は助け舟を出した。


「あのー、こういうのよくないとは思うんですけど、展示している動物に欲しい動物がいて。お金ならある程度出せるんですが……」

「ああ。そういう話でしたらこちらです」


 言うと、奥のスタッフルームにある一室に案内された。


「オーナーが来るまでお掛けになってお待ちください」


 一礼してから係の人は部屋を出て行った。

 言われた通り椅子に腰掛け待っていると、金の刺繍がふんだんに入れられた丈の長い上着に過剰なジュエリーを身につけた、所謂成金ファッションの男が入ってきた。


「いやー、おまたせしました。私がオーナーのゲイリーです」

「伊織です」

「アリアです」

「何でもうちの動物に目をつけられたようで……」

「はい」

「どれでしょうか?」

「尻尾の付け根と頭に大きな星のあるウサギなんですけど」

「ほう……アレに目をつけられましたか。お目が高いですね」

「購入とかって可能でしょうか」

「ええ。可能でございます」

「いくらくらいになりますか?」

「そうですね……だいたいこれくらいは」


 サラサラっと紙に値段を書き手渡された。

 隣のアリアさんが目を飛び出させて驚いているとこを見ると、かなり高いのだろう。


「あ、このくらいでいいんですね。これなら明日までに用意できそうです」


 別に払う気はないので適当にそう言った。


「左様でございますか。いやー、お若いのにいい趣味をしてらっしゃいますね」

「いやいや、こちらの動物園こそいい趣味してますよ。あんな目立つ場所に大きな模様のあるスターラビットなんてなかなか見つかりませんよ」

「そうですね。そもそもが珍しい固体ですのであのような模様は他にいないと思います」


 ゲイリーさんはニコニコと商売人の顔だ。


「ですよね。いやー、良かった。実は少し前に友人の家からいなくなったペットも、同じ種類で同じ位置に星マークがあったんですよ。かなり大事にしてたからいなくなって憔悴してたんです。いやー、でもあの子をプレゼントすれば絶対元気になりますよ。本当にそっくりですもん」


 ピキッ。

 ゲイリーさんの顔が一瞬強張った。

 ビンゴ……かな。

 だけどそれも一瞬で、すぐに笑顔を作り直した。


「……左様でございますか。それは奇跡ですね」

「ですね」


 俺はさらに揺さぶりをかける。


「あ、それとこの街にいる人で三毛猫のオスを飼っている人がいるんですけど、最近居なくなったそうなんですよ。それで凄い落ち込んでて。ここには三毛猫のオスはいないですか?」

「残念ですが、いません」

「そうですか。相当珍しいですものね。すみません長々と話しちゃって。では、お金は明日持ってきます」

「お待ちしております」


 話は終わったので、俺たちは動物園を出て家へと歩き出す。

 広場を抜けメインストリートに入ったところでアリアさんが小声で言う。


「付けられてるわね」

「こんなにすぐ刺客を送るなんて自分がやったと言ってるようなもんだね」

「イオリの言った事が図星で焦っているか、もしくは刺客が私たちを仕留めれると思っているんでしょう」

「そういやジョンさんが強いガードがいるって言ってたね。どうにか撒かないと」

「撒く? まさかそんなことしないわよ。戦って捕まえるわよ」

「本気?!」


 相手は強いって噂の人達だよ!

 徐々に人通りが少なくない場所へとアリアさんは向かっている。

 敵に気付かれないよう通りを曲がる時に、チラリと後ろを確認した。

 イカツイ2人組が自分達を見ていた。

 いや、絶対勝てないよ。


「そこの角曲がって路地に入ったとこ。そこで戦うわよ」

「え、ちょっ……」

「大丈夫。あれくらいなら勝てるわよ」


 本当かな?

 俺はアリアさんと並んで角を曲がった。

 まあ、適当に剣を振っていれば敵の腰が引けるだろうし、その間にアリアさんがどうにかしてくれるか。

 ……ん? 剣?

 俺は素早く両手を確認した。手ぶらだ。

 ペット探すだけと思ってたから持って来てない!

 マズイ! 俺はその事をアリアさんに伝えようとする。

 だけどそれより先にイカツイ男2人が路地に入ってきた。

 その内の1人はニヤリと笑うと、一目散に向かってくる。

ツルン! ガン!!

 しかし男は走ってくる途中で盛大にすっ転び、額を地面に強打した。

 地面をよく見ると、男が滑った箇所にだけ氷が張ってあった。アリアさんが作ったのだろう。

 敵が立ち上がる前にアリアさんは素早く駆け寄ると、男の背中を踏みつけ、首筋に氷で作った剣を当てる。

 勝負アリだ。


「イオリ! もう1人の方お願い!」

「ええっ!」


 今、剣持ってないんですけど!

 もう1人がアリアさんの方へ行こうとしている。

 くっ、行かせる訳にはいかない。

 俺は剣に教わった通り体に力を漲らせてから男の進路に割って入った。


「オラァ!」


 助走をつけた男の右ストレート。

 遅い。

 ふざけてるのかと思うくらいスローモーションに見えた。

 俺はそれを避けると同時にハイキックを喰らわせた。

 ガスッ! という嫌な音がして、敵はフラフラと力なく地面に倒れた。


「ほらできるじゃない。けど欲を言えばもう少し加減して欲しかったわね。それじゃ話が聞けないでしょ」

「ごめん。加減がわからなくて」

「まあいいわ。こっちの方から話し聞けそうだから」

「離せや! 殺すぞ!」


 チンピラ風な男が叫ぶ。


「状況がわからないみたいね。次勝手に喋ったら命の保証はできないわよ」


 そう言ってアリアさんは氷の剣先を男の首筋に食い込ませる。

 プツリと皮が切れ、剣先に血が滲んで行く。


「うっ……」

「誰の命令で私たちを襲ったの?」

「……」

「だんまりね。私も暇じゃないから3秒以内に答えて。答えなかったら……わかるわよね」


 氷剣を突きつけた敵の喉元からツーっと赤い血が流れている。


「3、2、1……」

「ゲイリーだ」


 男が口を開いた。


「あんたらが邪魔だから消せって言われたんだよ」


 俺とアリアさんは顔を見合わせた。


「これで決まりだね」

「ええ。すぐに戻りましょう」

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