2話
オリバさん達は家に帰る途中だったようで、家の近くで見つかった。
「アレ、アリアちゃん! もしかしてティガちゃん見つけたー?」
ミアちゃんが無邪気な声で聞いてきた。
「ごめんね。まだなの。でももしかしたら見つかるかもしれないわ」
「ホントー!?」
「本当よ。それで教えて欲しいんだけど、ティガちゃんはオス?」
「うん。オスだよっ」
やっぱり。
俺らは顔を見合わせる。
オリバさん達にお礼を言って、少し離れたところで話し合う。
「あなたの予想通りオスだったわよ」
「だね。あとはオスの三毛が貴重かどうか。そういうのに詳しい人はいる?」
「ギルドに行きましょう。あそこの受付に動物好きの人がいたわ」
ギルドというのは仕事や情報を提供してくれる場所で、屈強な男達が仕事を探しに集まっていた。
俺達は彼らの後ろに並び、しばらく待つと順番が来た。
「珍しいですね。アリアさんがギルドに顔を出すなんて」
受付のお姉さんはアリアさんと知り合いのようで親しげな声で話しかけてきた。
「少し聞きたい事があるの」
「何でしょう? 私がわかる事ならいいんですけど」
「三毛猫のオスって珍しいか知ってる?」
聞くと受付のお姉さんは少し考えてから答えた。
「そういえば三毛のオスはいないって聞いた事ありますね。確か突然変異でしか生まれないとか」
アリアさんがこっちを向く。
「あとは誰が盗んだか、ね」
「そうだね。ちなみにその三毛猫のオスが珍しいっていうのは有名なんですか?」と俺は聞く。
「いえ、そんな有名ではないと思いますよ。一部の猫好きな人くらいしか知らないと思います」
「この街にそれを知ってそうな人っている?」
「そうですね。何人かは」
「その中で誰が1番熱心?」
「西区に住んでいるジョンさんですね」
「その人の家を教えて貰える?」
アリアさんが言うと受付のお姉さんは紙にジョンさんの家までの地図を書いてくれた。
「どうぞ。くれぐれも悪用しないでくださいね」
「わかってるわ。ありがとね」
早速ギルドを出た俺たちは、地図を頼りにジョンさんの家へ。
「ここみたい」
表札を見てアリアさんが言う。
本当にティガはいるのだろうか。
あまりにトントン拍子に事が進み不安になって来た。
コンコンコン。
そんな俺の気など知る由も無いアリアさんは、ドアをノックした。
扉の向こうから歩いてくる音がして、ガチャリと扉が開く。
「……何?」
ドアの隙間からボサボサ頭の男が顔を出した。
寝起きなのかすごく不機嫌そうだ。
「ちょっと聞きたいんだけど、この家に三毛猫のオスはいないかしら?」
「……何で?」
「知り合いの家の猫が消えたの。ここで預かってないかと思って」
「預かってねえよ」
「念のため中を確認させて貰っていいかしら?」
「ダメだ」
「どうして? 確認くらいいいじゃない」
「あんたは得体の知れない人をホイホイ家に入れるか?」
「あら。私のこと知らない?」
「知らねえよ。誰だよ」
「アリアよ」
「アリア……もしかしてあんた、個人で魔物退治とかしている人か」
「知ってるじゃない」
「顔は知らなかったんだよ」
「じゃあ中を見せてくれる?」
「ダメだ。さっきも言ったように俺はアリアって人の顔を知らないんだ。あんたがアリアを騙る別人かもしれないだろ」
ジョンさんはどうしても家に入れたくないようだ。
アリアさんの交渉は続く。
「つまり私がアリアであると証明できれば中を見せてくれると」
「ああ」
「だったらハイ」
アリアさんが手に収まるほどの大きさのカードを見せた。
「私の身分は国が保証するわ。これで満足?」
「……」
「入るわよ」
ジョンさんがいいと言う前に、アリアさんは強引に扉を開けて中に入った。
「あ、ちょっと待て!」
ジョンさんもアリアさんを追って中へ。
「失礼しまーす」
外で待ってても仕方がないので、2人の後に続く。
すると部屋の奥からアリアさんの声がした。
「いたわ!」
「本当!?」
まさかこんな簡単に見つかるとは思ってなかったので、驚いた。
「ほら!」
アリアさんが三毛猫のお腹を見せるように両手で抱えながらやって来た。
すごい本当に三毛のオスだ。初めて見た。
「……でもなんか色違うくない?」
俺が言うと、アリアさんは猫が見れるように抱き直した。
「……そうね」
「顔つきも違うよね」
「そうね」
「そりゃそうさ。そいつはあんたらの探している猫じゃないからな」
ジョンさんが言った。
「まったく。散らかってるから人入れたくなかったっていうのに」
「ティガはどこ?」
「知らねえよ。俺は盗んでない」
ジョンさんがアリアさんから猫を取り返した。
ジョンさんが頭を撫でると、猫は嬉しそうに目を細めた。
「んで、コイツが探してる猫じゃないってわかったみたいだけどどうすんの? まだ探すか?」
「念のため探させて貰ってもいいですか」
俺は聞く。
「どうぞ」
家主の許可を得たので、2人で手分けして家の中を見て回る。
家の中には多種多様な猫達が放し飼いにされていた。
わからないけど多分珍しい種類なんだろう。
けれどその中にティガはいなかった。
「いないみたいだね」
「そうね」
部屋を全部見たけど、他に三毛猫はいなかった。
「だからいないって言っただろ」
「本当だったみたいね。疑ってごめんなさい」
アリアさんが謝ると、ジョンさんはフンと鼻を鳴らした。
「別にいいよ。疑われてもおかしくない趣味してるからな。まあ、俺の疑いが晴れるまでしっかり探してくれよ」
「どうするアリアさん。まだ探す? 」
「もう十分でしょ」
「そうだね」
探せる部屋は全部探した。
残念ながらここにティガはいないようだ。
「もういいのか。じゃああんたらに依頼を頼みたいんだが」
「依頼?」
「ああ。まさか無理矢理部屋に押し入るとか迷惑掛けといて断るとかないよな」
「うっ……依頼の内容次第ね」
「ゲイリーという奴の調査をして欲しい」
「誰、それ?」
「今、広場で移動動物園を開いている奴だ」
「どうしてその人の調査を?」
「友人のペットを盗んだ可能性があるからだ」
「それって……」
今の状況と重なる。
「そうだ。あんたらが探している猫もゲイリーが奪ったのかもしれない」
「そのゲイリーって人があなたの友人のペットを盗んだって証拠はあるの?」
「消えたペットと瓜2つの動物がゲイリーの店にいたんだよ」
「それだけ? 単なる空似じゃないの」
「かもな。だが同じ種類でも大きさや顔つき、模様とかには個体差があるもんなんだよ。あんたらがコイツが探している猫じゃないとわかったようにな」
ジョンさんが猫の頭を撫でながら続ける。
「あんたらスターラビットって知ってる?」
「いいえ」
アリアさんが答えた。当然俺も知らない。
「名前の通り星模様があるうさぎなんだが、あの種は模様に個体差が出やすいんだよ。友人の飼っていたうさぎの特徴はしっぽと頭に大きな星マークがあるのが特徴だったんだが、それと同じ模様のが、ゲイリーの動物園にいたんだ。それも友人の家から消えた後にな」
「なるほどね。少し気になるわね」
「1度見に行ってみよう。他に情報もないんだし」と俺。
「そうね。そこに行ってみましょう」
無駄足の可能性もあるが、他に有力な手掛かりはないんだ。
行ってみてもいいだろう。
「ゲイリーなら広場で店を開いている。ただ、気をつけろよ。噂じゃ屈強なボディガードを連れてるらしい」
「よく知ってるわね」
「俺なりに情報を集めたからな」
「他に知ってる事はある?」
「そうだな……表向きは動物園だが、裏の顔は希少種を高額な値段で売って儲けているらしい。恐らく人のペットを盗むのはそのためだろう。俺が奴について知ってるのはそれくらいだ」
「動物園を隠れ蓑にした盗賊団ってわけね。ありがとう」
「それで報酬はいくらだ?」
「うーん……要らないわ。むしろ情報提供して貰ったくらいだし」
「そうか。それは助かる」