1話
長い長い螺旋階段を駆け登った先に、屋上へと繋がるドアがあった。
この先に入間がいる。
緊張とも高揚感とも違う妙な感情を覚えながら俺はドアを開けた。
屋上は飛ばされそうになるほど強い風が吹き荒れていた。
入間はそんな強風に吹かれながら、屋上の真ん中で腕組みをして立っている。
「まさかここまで来るとはな」
俺の姿を見て微笑みながら言った。
「何言ってんの。入間が俺を通すよう指示したんでしょ?」
「ここは、な。だがここまで来る道は決して平坦ではなかったはず。四天王やガーディアンとも戦い、勝った」
「それは俺だけの力じゃないよ。みんなが力を貸してくれたからだよ」
「違いないな。だが、たった1ヶ月で四天王と大差ない奴らを仲間にできるとは。大したものだ」
「運が良かったのかな。それとも入間を止めろと世界が導いてくれたのかな」
「ふっ」
入間が鼻で笑った。
「どちらでもないだろう。それが伊織の資質だ。お前には人を集める力がある」
「どうも」
「だが、残念だったな。ここまで登って来るのに仲間を費やしてしまった」
「それがどうかした?」
「俺の言いたい事がわからないようだな。1対1じゃお前は俺に勝てない」
「そんなの戦ってみないとわからないよ」
「わかるさ。確かにお前の仲間を集める才能は認める。それは俺にない才能だ。だが、俺には今多くの仲間がいる。どうしてだと思う?」
「さあ」
俺は肩を竦めた。
入間は力を込め拳を作る。
「力があるからだ。力があると信仰するものが増える。俺はこの5年間力だけ求めてきた。そんな俺にコッチに来てたった1ヶ月の貴様が勝てると?」
「長くいるから強いわけじゃないさ。だってその理論だと俺は力を求め続けた5歳児には勝てないだろ?」
「俺が5歳児と一緒と」
「そうだね。目指しているものは変わらないんじゃない。世界征服なんて」
「ふっ。そうかもしれんな。世界征服なぞ子供の描く夢物語の定番だ。だが決定的に違うのは、ただの幻想ではなく現実のものとしてすぐそこにあるという事だ。伊織も一緒に来い。子供の頃描いた夢がすぐそこまで来ているんだ」
入間が誘うように手を伸ばして来た。
「……入間はどうしてそんなに世界征服がしたいの?」
「前に言わなかったか。この世界に俺の欲しいものがあるからだ」
「欲しいものって言うのは賢者の書?」
入間は伸ばしていた手を引っ込めた。
「何故それを知っている」
「その様子だと図星みたいだね」
「伊織はどこまで知っている?」
「入間が賢者の書を使ってリアムって子を生き返らせようとしている事」
「なるほど。全部知っているみたいだな。まあ、そういう事だ。正直賢者の書が手に入り際すればいいから、別にこの世界を悪いようにはしない。なんなら全て伊織に譲ってもいい。だから一緒に手伝ってくれないか?」
「悪いようにはしない? 今入間のせいで色んな人が戦って苦しんでるのによくそんな事言えるね」
「……今他人の話は関係ない。伊織が手伝ってくれる気はあるかないかを聞いている」
「どんな甘言で誘われても、どんな理由があっても、手伝う気は一切ないし、もし世界征服をやめないなら全力で止める」
「そうか。友達だと思っていただけに残念だ」
「友達だから止めるんだ! 友達が間違った事をしているのに止めないわけにはいかない!」
「間違っているかどうかはお前が決める事ではない! 俺が決める事だ!」
入間が凄むと風が吹き荒れた。
入間の剣は細く刀身が波打っている。
あれは間違いない。風の剣だ。
「俺を止めると言ったな! 止めれるかどうかお手並み拝見といこうか!」




