3話
「はあっ!」
セシルは走りながら土の槍を地面から出し、クレスに攻撃する。
それをクレスは拳で砕く。
「時間稼ぎか。その役目全うできるかな?」
「してみせる!」
セシルは土槍を作りだし、それを手に持ち駆ける。
「うおおおお!」
突進からの突きをクレスは当たる寸前まで引きつけ躱す。
そこから懐に入り込み、正確にセシルの鳩尾を打ち抜く。
「ぐはっ」
セシルは衝撃で呼気を漏らした。
しかし呼吸を整える事はせずに、反撃に出た。
「ラアッ!」
セシルは槍を振るうが、クレスは屈んで回避する。
ガラ空きの腹部にもう一度、クレスは拳を放つ。
寸分狂わず同じ場所を射抜き、土の鎧に亀裂が入った。
凄まじい威力のパンチを喰らいセシルは後方へと吹き飛ばされる。
そこにクレスは追撃を加える。
ドンドンドン!
次々とクレスの拳がセシルの体に入る。
「ぐっー!!」
(出し惜しみしている場合じゃないか)
セシルは残っている魔力であたり一面の土を隆起させた。
土が牙を剥きクレスへと襲いかかる。
今までとは比べ物にならないほど広範囲、高威力の攻撃。
クレスは一瞬で魔力を練り上げると、全身から雷光を放出し、一面へ広がって行く。
広範囲で出来ていた土の牙はクレスの攻撃により砕かれ、ただの平地へと戻って行く。
「むぅ……」
雷光がセシルがいる場所まで広がった。
しかしセシルは壁を作って防御する事はせず、最後の攻撃を仕掛けに雷が荒ぶく中を駆けだした。
電撃によりセシルを覆っていた鎧が徐々に剥げ落ちて行く。
それでもセシルは残った力を振り絞り雷光の中を駆ける。
近づくと、全身のバネを使い土槍でクレスを突き刺しにかかる。
先程と同じようにクレスは直前まで動かない。
槍がクレスの心臓に十数センチのところまで迫る。
「!!」
土槍が伸びた。セシルがほとんどない魔力を振り絞り槍を一瞬で長くした。
それを見てクレスは急いで横へ動く。
突きが速いか、避けるのが速いか……
勝負は一瞬。
「なるほど。いい攻撃だ。あの大技で魔力を全て使ったと見せかけ、実は槍を伸ばせるだけの魔力は残していたのか」
土槍の先端にはクレスの血が付着していて、地面に滴り落ちていた。
ドサ、っと人が地面に倒れる音が1つ。
倒れたのは……セシルだった。
雷光の中を走り抜けたダメージで、全身に深刻なダメージを負っていた。
クレスはというと、左腕に槍を受けてはいるが他に大きな外傷はない。
「さて、あと1人」
クレスは金色の粒子の包まれているジルの方を向く。
「降参するっていうなら攻撃しないよ」
「降参する気はないです。セシルさんが体を張って時間を稼いでくれたんです。それなのに私が何もせず諦めるわけにはいきません」
ジルがバリアを展開し臨戦態勢に入る。
「そう。まあ僕に女の子をいじめる趣味はないから一撃で終わらせるよ」
人の身体をゆうに包むほど大きな雷光をジルに向け放つ。
「く、あ……」
バリアが割れ電撃を喰らいジルは後ろに吹き飛ばされた。
受け身も取れず地面に叩きつけられる。
「ふぅ……」
クレスはため息つく。
「さて、倒れてる人達を運ぶか」
カサ。後ろで音が聞こえクレスは振り返った。
そこには足を震わせながらも懸命に立ち上がるジルの姿があった。
「驚いた。立てるとは思わなかったよ」
「……でしょうね」
「意外とタフなんだね。でも立ったところでどうするの? 僕には勝てないよ」
「そうかもしれません」
「じゃあ寝てなよ。見なかった事にするから」
「できません」
「どうして?」
「まだ戦えるからです」
「よくわからない理屈だな」
「でしょうね」
(私だってよくわからないですから)
「それって命より大事? 次喰らったら死ぬかもしれないよ」
「大事、なんでしょうね」
「……ならしょうがない」
ジルはバリアを張る。
(私が勝てるとしたら溜めた力をぶつけるしかない。でもこの距離からじゃ避けられるのは必至。どうにか隙を作らないと)
ジルはそう思い、クレスの隙を作ろうと光線を放つ。
並みの相手なら命を落としてもおかしくない威力のある光線。
それをクレスは電撃で難なく相殺した。
(くっ……やはりダメですか)
まるで隙を作れない。
(どうすれば……どうすれば勝てる?)
ジルは頭をフル回転させ作戦を練る。
(ダメですね。いい案は浮かびません)
一か八かこの離れた位置から攻撃を試みようとした時だった。
地面から土の手が現れ、クレスの両足首をガッチリ掴んだ。
「!!」
立ち上がる力すら残っていないセシルが最後の力を振り絞っての攻撃だった。
それによりクレスの動きが一瞬止まった。
(今です!)
「はあああああっ!」
ジルが黄金色をした光線を放つ。
「くっ……」
足をロックされ逃げ遅れたクレスは雷光で迎え撃つ。
だがジルの放った光線に押し込まれる。
やがてクレスは光線に呑まれ吹き飛ばされた。
「はぁっはぁっはぁ」
ジルは呼吸を乱しながら霞む目でじっと前を見る。
今度はさっきと違い人影は見えない。
(勝ったのでしょうか……?)
堪えきれずジルは崩れるように地面にへたり込んだ。
(休憩してる場合じゃありませんね。セシルさんを病院まで運ばないと)
ジルは立ち上がり、セシルを運ぼうと腕を引っ張る。
「……重たいですね。私1人じゃ運べません」
(命に別状はなさそうですし、イオリさん達が来るのを待ちますか)
ジルは塔を見上げながらそう思った。
「運べないなら手伝おうか?」
「!!」
優しげな声にジルは勢いよく振り返る。
そこには柔和な表情で近づいて来ているクレスがいた。
「……生きていましたか」
「ギリギリだけどね」
そう言うクレスの身体は全身傷だらけで光線の威力の高さを伺わせた。
「化け物ですね」
「君も十分化け物だと思うよ。ただ君とは超えて来た死線の数が違うからね」
「まさかここまで差があるとは思いませんでした。完敗です」
「降参してくれるの?」
ジルはフッと笑顔をこぼす。
「まさか。勝ち目はゼロですが、イオリさん達のためにも少しでも削ります!」
ジルは最後の力を振り絞り光線を放つ。
威力もスピードもなく、クレスは避けようと思えば簡単に避けれた。
しかし、クレスはあえて電撃で迎え撃つ。
2つがぶつかり弾けた。
光線が相殺されたのを見届け、魔力を全て使い切ったジルは気を失った。
「ふぅ。疲れた。まさかここまで削られるとはね」
クレスは塔を見上げ、大の字になって倒れる。
「さて、イリマくんの方はどうなっているかな」




