2話
王がレベル5の1人だと聞き、クレスは少し驚いた顔を見せた。
「なるほどね。陛下がレベル5の1人だったのか。ちょっと計画ミスったかな」
「これからもっと狂うさ」
「いや、次に狂うのは君の計画さ」
クレスの体から電気の線が走る。
攻撃の前兆だ。
「お前ら! 電撃が来るぞ! 構えろ!」
セシルが兵士達に指示する。
次の瞬間、クレスから広範囲の電撃が放たれた。
「ぐあああああ!」
高威力の電撃が辺り一面を駆け巡る。
電撃は兵士達のガードをやすやすと貫き、次々に倒れて行く。
ジルはその電撃を喰らわぬよう最大限のバリアを張り、セシルは分厚い土壁で周りを囲み防いだ。
「ふぅ」
電撃が止まりクレスが一息つく。
「結局、残ったのは2人だけか」
立っているのはジルとセシルだけだった。
100人ほどいた兵士達は1人残らず地面に沈んでいた。
「……腕利きの人達を集めたんですよね?」
「ああ。全員レベル4だ」
「ですよね……」
精鋭達が赤子に見えるほど、クレスの実力は特出していた。
「魔力の量はお前と同じくらいか?」
「今のでどれくらい魔力を消費したのかわかりませんが、おそらくまだ十分残っているでしょう。そう考えると私の倍以上あるのではないでしょうか」
「化け物め」
セシルが冷や汗を流しながら呟く。
「さて、2人とも。準備はいいかな?」
クレスに言われセシルは手を地面につけた。
すると土がセシルの身体中を纏い、土の鎧が完成した。
「なるほど。あの時は本気じゃなかった……と」
「そういうことだ」
「手強そうだね」
しかしクレスから焦った様子は見られない。それどころか余裕のようなものが感じられた。
ジルは自分の周りに展開しているバリアを薄くし、攻撃特化の態勢に。
「2人とも準備は良さそうだね。じゃあ……行くよ」
クレスが電撃をジルに向け放った。それに反応したジルは光線をぶつける。
2つは押し合いの末、霧散した。
「やるねえ」
爆風で髪をなびかせながらクレスが言った。
「余裕を見せてる場合か?」
「!!」
続け様にセシルの攻撃が。
地面が隆起し、土槍がクレスを襲う。
「面倒な2人だ」
クレスが数多の土槍を避けながら呟く。
防戦一方のクレスにジルも光線で攻撃する。
2人の息のあった波状攻撃をクレスは横に飛び、身を捩り皮一枚で躱す。
「ホント、面倒だ……」
避けるのを諦めたのか、クレスは体の力を抜き動きを止めた。
「もらったァ!」
セシルはここぞとばかりに複数本の土槍で攻撃する。
「ハァ!」
ジルも幅広い光線を出す。
「スゥ……」
クレスが息を吸い、吐き出すと同時に体から電撃を放った。
ジルの光線を相殺し、セシルの土槍を砕きなお、その勢いは止まらず2人のところへ。
「くっ!」
「ぐぅ!」
ジルはバリアに魔力を集中させ、セシルは腕で顔を覆いガードする。
たった一撃で形勢は逆転した。
2人がガードに集中している隙に、クレスがセシルとの距離を一瞬で0にしていた。
「チィ!」
2人による肉弾戦が始まる。
速く、重みのある拳がセシルの急所を狙い次々打ち込まれる。
セシルはそれを去なすので精一杯だった。
クレス優勢に戦いが進んでおり、ジルは援護をしたかった。
しかし2人は接近していて光線は打てない。かといって肉弾戦に加わることもできない。
(多少威力は落ちますが、仕方ありませんね)
ジルは無数の小さな光球をクレスの周りに展開し、セシルに当たらないよう操作する。
「弱い」
クレスは近づいて来た光球全てを体から電撃を出して消し飛ばす。
(やはり無理ですか……)
「セシルさん! 彼から離れられませんか!?」
「少し待ってろ!」
セシルは逃げようとバックステップを踏む。
しかしクレスは逃さないようついて行き、鳩尾を打ち抜く。
「ぐっ……」
土の鎧があるとはいえ立て続けに攻撃を受けダメージは蓄積している。
鳩尾を殴られセシルはたたらを踏む。
クレスは戦いを終わらせようと右腕に魔力を集中させた。
それを見たセシルはニヤリと口の端を持ち上げた。
クレスの左右から手の形をした土壁が現れた。
「!?」
「この状態なら手をつけずに魔法が使えるんだよ」
合掌。
クレスは土の手に押しつぶされる。
もちろんそれでクレスが終わるはずはなく、すぐに土の手を壊し飛び出して来た。
「今だ! 打て!」
「はい!」
クレスが出て来た瞬間、ジルから輝度の高い光が噴き出す。
光線がクレスを呑み込み彼方へと吹き飛ばす。
地面には地平線まで光線の跡が伸びていて、威力の高さを表していた。
「やったか?」
「完璧に捉えました。おそらく立てないでしょう」
(アレをまともに喰らって立てるとは思いがたいです)
祈るように2人は地平線を見る。
人影が見えた。
クレスだった。
服についたホコリを払いながら歩いてくる。
「まさか地面に手を付かなくても土魔法が使えるとはね。その鎧が擬似的に地面となってるのか。なるほどね」
無傷。
これにはジルも目を丸くして驚いた。
「さっきのは1番威力の高い攻撃か?」
「はい……いえ、魔力を溜めればもっと高威力のが使えます。ただ、少し時間がかかりますが」
「どれくらいかかる?」
「3分……いや、2分ください」
「あの化け物相手に2分か」
「厳しいですか?」
「いや、それくらいどうにかしよう」
「そうですか。お願いします」
ジルはバリアを解き、その場で力を溜め始める。金色の粒子が身体の周りから立ち昇る。
一方セシルは1人、クレスの方へと走り出した。




