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異世界転移!  作者: 中原
15章
56/67

1話

 入間は空を飛んでいた。

 剣を使い自由自在に風を操り飛び回る。

 しかし幼い入間でもこれが現実ではないことに気付いていた。


(だって僕が空を飛べるはずがないんだから)


『……さすが。もう空も自由に飛べるね』

「当たり前だよ! これは夢なんだからなんでも思うがままだよ」

『……そう夢だ。でもその内現実になる』

「ははは、そんなわけないよ。こんな楽しい事が現実になるなんて」

『……本当だよ。でもそれはもう少し先の事。今日はこれでお終い。じゃあね。今日も1日頑張ってね』


 パチリ。

 夢から醒めた入間は目を開けた。


(なんだか夢を見てた気がするけど、どんなのだっけ……? 楽しかったと思うけどよく思い出せない)


 目覚めた入間はすでに夢の出来事を忘れていた。

 けれどそれを気にも留める事もなかった。

 往々にして夢とはそういうものであるから。それよりも。


「……はぁ。今日も学校か」


 今日1日が始まった事が憂鬱であった。







 とある小学校の放課後。


「入間、今日もプロレスごっこやるぞ!」


 入間がランドセルに荷物を詰めていると、小太りの男がやって来た。

 彼はこの学校のガキ大将的存在で傍若無人な振る舞いをするので、取り巻き以外から避けられていた。


「あ、あの……僕もうプロレスごっこやりたくないんだけど……」


 入間がガキ大将の顔色を伺いながら言うと、彼は眉をつり上がらせた。


「知らねえよ。俺はやりたいんだよ! さあ行くぞ!」

「えっ、ちょ……」


 入間はガキ大将に近くの神社へと無理矢理連れて行かれる。

 けれどそれを咎めるものは誰もいなかった。というより自分じゃなくてほっとしたようだった。






「行くぞー! 喰らえー!」

「ぐっ」


 ガキ大将の勢いに乗った飛び蹴りを喰らい入間は地面に伏した。

 痛そうに腹部を押さえる入間を見て、ガキ大将とその取り巻き達はゲラゲラ笑い声を出した。


「どうした? もう終わりかよ!」

「うぅ……」

「チッ! しゃーねえな。お前ら帰っぞ」


 入間が立てないのを見ると、ガキ大将は遊べないと判断し、笑いながら帰って行った。

 神社には入間だけが残された。


(痛い……こんな事して楽しいのかな。僕は全く楽しくないや)


「……明日もやるんだろうな」


 明日も続く、というのが幼い入間にとっては永遠のように感じられ、急に人生がつまらないもののように思えた。


(なんかもう疲れたなあ。消えたいなあ)


 明日に絶望し、生きる意味を見失っているときだった。

 突如身体中が眩い光に包まれた。

 そして襲いかかる頭痛と目眩。

 今まで感じた事のないほど酷い頭痛と目眩に、入間は呻き声を上げながら膝を着いた。


(僕、死ぬのかな……まあそれもいいか)


 不安をよそに徐々にそれらは弱まって行き、目を開けた。

 そこには見慣れない景色が広がっていた。

 やけに近い空。目に染み入る緑の木々。吹き荒れる強い風。


(ど、どうしてビルの屋上に!?)


 正確にはビルではなく塔の屋上に入間はいた。

その中央には波打った剣が刺さっている。


『……大丈夫?』


 どこからか聞こえた声に入間は体をビクつかせた。


「だ、誰っ!?」

『……そんなに驚かなくても大丈夫。危害を加える気はないから』

「だから誰なの!? どこにいるの!?」

『……僕はここだよ』

「ここ?」

『……そう。僕は君の目の前に刺さっている剣だ』

「ウソ!?」

『……ホントだよ』


 入間は剣に近付き、じっくりと観察する。

 鈍い光を発する剣は一見して普通の剣ではないことがわかった。


『……信じてもらえたかな』

「い、いや……」


 頭の中に直接響くような声が剣から発せられてるとはどうしても思えなかった。


『……そう』


 残念そうに風の剣は呟く。


「で、でも他に誰もいないから君は剣なんだね!」

『……よかった。信じてくれて』

「それでここはどこなの? どうして僕はこんな所にいるの」

『……君は異世界に転移したんだよ』

「てんい?」

『……別の世界に移動したってこと』

「ええっ! どうして!? 帰れるの?!」

『……驚いたよね。でも安心して。元の世界には帰れるから』

「そ、そうなんだ」


 帰れると聞き一安心する入間。


『……ただもう少し魔力が回復しないと帰れない』

「それはどれくらいで回復するの?」

『……わかんない。だから一旦下に降りよう。ここに居ても仕方ないし』

「うん。いいよ」

『……じゃあまず僕を掴んで』

「わかった!」


 入間は剣を掴む。

 すると剣はひとりでに抜けた。

 抜けた剣に入間は自然と魔力を集めていた。


(なんだろうこの感覚。いつだかこの剣を使ったことがある気がする)


 入間は風を操り、体をフワリと浮かせる。


『……じゃあ行こう』

「うん!」


 風を自在に操り入間は思うがままに空を飛んだ。


( 凄い! まるで夢だ! ……あ、どこかで聞いた事ある声と思ったら夢の中で聞こえる声だ)


 それに気がつくと今までの夢が一気にフラッシュバックする。


(景色も夢で見たのと同じだ。そういえば夢の中でも剣を使って飛んでた事があった。……そうかコレも夢なのか)

『……夢じゃないよ』


 剣が言った。


「本当!?」

『……本当』

「そっか。夢じゃないんだ!」


 はしゃぎながら入間は猛スピードで空を駆ける。


『……けど、あんまり魔法を使い過ぎない方がいいよ。慣れてないから反動が来るかも』

「ん、わかった」


 入間は素直に言うことを聞き、地上へと降りた。

 すると後ろからはしゃぐ声がした。


「す、すごいっ! 空から人が降って来た!」


 入間は振り返る。

 そこには入間と同じくらいの歳の男児が、高揚した顔で立っていた。


「すごいねキミ! 僕とそう変わらないくらいなのにもうそんな魔法が使えるんだね!」


 嬉しそうに話しかけてくる男児に入間は狼狽えた。

 ガキ大将みたいに殴ったりして来るのではないかと身構える。

 そんな入間の心情など知らず、男児はグイグイと話しかけてくる。


「ねえ、魔法のコツ教えてくれない? 僕上手に使えないんだ!」

「ええと……」


(コツって言われてもよくわからないや。でもちゃんと答えられないと殴られるかもしれないし……)


 どうすれば良いものかと困り果てていると、グゥー、と入間のお腹が鳴った。


「お腹が空いてるの?」


 聞かれ、入間は顔を赤くしながら頷いた。


「なら僕の家においでよ! 大したものはないけど、何かあると思うから!」

「え?」


 有無を言わさず腕を引っ張られ、連れて行かれたのは、家が数十軒並ぶだけの小さな集落のような場所だった。


「たっだいま!」


 ドアを蹴破るようにして入った男児は言う。


「お帰り、リアム。そちらはお友達?」

「うん! 彼は……名前何だっけ?」


そこで男児はまだ名前さえ聞いていないのに気付いた。


「僕は入間新」

「イリマアラタ? 変わった名前だね」

「君は?」

「僕はリアム。よろしくね、アラタ」

「よろしく。リアム」

「お母さん、彼はアラタ。それでお腹空いてるらしいけど何かある?」

「そうねえ。フルーツしかありませんねえ」

「フルーツでいい?」

「い、いいの?」

「もちろん! はい。どうぞ」


 リアムから黄色のフルーツを受け取り、戸惑いながら一口かじりつく。

 口の中に豊潤な香りと甘いまろやかな味が広がる。


「おいしい」

「ホント?」

「うん。こんなおいしい果物始めて食べた」


 入間はあっという間にそのフルーツを完食した。






「アラタってばすごいんだよ! 風に乗って空から降りて来たんだ!」

「へー。それはすごいわね」

「それで僕、アラタに魔法を教わるんだ! 今から行ってくるね!」

「今から? もうすぐ日が暮れるますよ」

「あ、そっか。アラタは帰らなくていいの?」


 リアムから水を向けられた。


『……もう魔力は大分回復したから帰れるよ』剣から言われた。


「そうだね。今日は帰るよ」

「ならまた明日ね! 絶対だからね!」

「うん」


 入間は風の剣があった場所まで戻ると、剣を突き刺し地球へ帰還した。






 数週間後、そこには夕方になると仲良く遊ぶ2人の姿が。


「こんな感じ?」


 入間から魔法のコツを習ったリアムが手のひらに魔力を集中させた。

 手のひらに魔力が少しずつ集まって行く。


『……うん。イイカンジ』

「いい感じだって」

「うわっ」


 リアムが少し気を抜くと集まっていた魔力は霧散した。


「くー。もうちょっとだったのに!」

「おしかったね」

「くそぉ。僕も風の剣が使えればよかったのに」

「ねー」


 一度リアムは風の剣に触れてみたが、カマイタチが発生し裂傷を負った。それ以来剣に触れるのを諦めていた。


「でも使えないから仕方ないや。少しずつだけどコツもわかって来たし、これで僕も強くなれるよ!」


 明るい笑顔を見せるリアムに対し入間は暗い顔をしていた。


「……どうしてリアムはそんなに強くなりたいの?」


 入間はガキ大将の事を思い出していた。


(リアムも強くなってあんな事やりたいのかな。だとしたら嫌だな)


 だがリアムは違った。


「決まってるよ! 困ってる人を助けるんだよ!」

「困ってる人を……助ける? 弱い人に暴力するんじゃなくて?」

「当たり前だよ!」

「……それ、いいね。僕も強くなりたい」

「一緒に強くなろう! 世界一強くなって困ってる人がいない世界に変えようよ!」

「うんっ」

「そのためには僕はまずイリマに追いつかなきゃね。よーし、頑張るぞ!」


 リアムは再び右手に魔力を集め出した。


「ぐぐぐぐっ」

「頑張れ!」

「「!!」」


 リアムの手のひらに小さなつむじ風が発生した。

 まだ頼りなくて弱いつむじ風。それでもリアムにとって大きな一歩だった。


「できたー!」

「おおっ! すごい!」

「よーし! この調子でどんどん強くなるぞ!」

『……イリマ、そろそろ戻る時間だよ』

(もう?)

『……うん』

「ごめん、リアム。もう戻る時間だって」

「そうなんだ。残念」

「また明日くるから。明日また遊ぼう」

「うん! また明日ね」






 次の日も入間は放課後になると一目散に神社へと向かい、異世界に転移した。


「じゃあ行くよ」

『……うん』


 風の剣に力を注ぎ、宙を飛んでリアムのいる集落へ向かう。

 集落に着き、やけに静かだと入間は思った。

 いつもなら子供が外で遊んでいるのに今日は誰もいない。


(どうしたんだろう?)


 不審に思いながら入間はリアムの家の扉を叩いた。


「こんにちわ。入間です」


 しばらくしてリアムの母が顔を出した。


「あ、イリマ君。ちょうどいいところに来てくれた。リアムが会いたがってたの。入って」

「失礼します」


 何故かいつもより元気のないリアムの母が促す通り、入間は家に入った。


「リアムー。入るよー」


 名前を呼びながらリアムの部屋に入る。

 入間は自分の目をうたがった。

 昨日まで元気だったリアムが全身を包帯に巻かれた状態で布団に横たわっていたからだ。


「あ、イリマ」


 消え入りそうな声でリアムは言う。


「リ、リアム……? どうしたの?!」

「ちょっと魔物にやられちゃって……それよりイリマ、こっちに来てくれない?」

「病院……病院に行こう。僕が飛んで運んで行くから! それならすぐつくよ!」


 入間は後ろにいるリアムの母の方を向いた。


「おばさん、病院にリアムを連れて行かなきゃ。ヒドイ怪我だよ!」

「もう大丈夫なの……だから近くに行ってあげて」

「ど、どうして!?」


 入間は目に涙を溜めながら言った。


『……イリマ。行ってあげて』

「くっ……」


 剣からも言われ、リアムのそばに寄った。


「ごめんね……イリマ……僕、約束守れそうにないや」


 息も絶え絶えなリアムが言う。


「約束?」

「ほら……この前世界一強く……なって困ってる人がいない世界に変えよう……って……言ったじゃん。僕は……無理みたいだ……」

「そんな事ない! 一緒に変えようよ!」

「ごめんね……」

「嫌だ! 僕はリアムがいなきゃヤダ!」

「イリマ……世界一……強くなって……」

「リアムッ?! リアム!」


 入間の呼びかけにリアムは眉一つ動かさなかった。


「ーーーーーーッ!!!」


 入間は声にならない悲痛な叫び声を上げた。







『……イリマ、帰らなくていいの?』


 もう帰る時間だというのに一向に帰る気配のない入間を心配して剣が声をかけた。


「いいよ」

『……そう。でもこの辺は魔物が出て危ない。別の場所に移動するか空を飛ぼう』

「いいよ」

『……イリマ』


 何かを目指すわけでもなく獣道を歩き続けていると、背後から低い唸り声が聞こえた。

魔物だ。


『……イリマ、魔物が近づいている。早く上に飛んで』

「いいよ」

『……よくない。リアムから託されたよね。世界一強くなって世界を変える夢を』

「無理だよ! リアムがいないと出来っこない!」

『出来るよ! だから早く逃げて!』


 背後から猛然とオオカミのような魔物が迫って来ていた。


(もういいんだ。どうせリアムはいないんだからもう……)


『……イリマ、リアムは生き返らせれる!』


 剣が言った。

 その言葉で入間の目に光が灯った。


「それ本当!?」

『うん! だから……』

「どうやって?!」

『それよりも早く逃げて!』


 気づけば魔物がすぐそこまで迫っていた。

 魔物が口を開けながら入間に襲い掛かってくる。


「邪魔だ!」


 一喝して入間は剣から風を出し、魔物を切り刻んだ。


「どうやったらリアムは生き返らせれるの?!」

『……この世界のどこかに大賢者が残した書がある。そこに死者復活の方法が書かれてる』

「それはどこに?!」

『……わからない。どこにあるのか誰が持って入るのか』

「わからないのか。なら探すしかないね」

『1人じゃとてもじゃないけど探せないよ。この世界は広いから』

「確かに。早く見つけるには人数は多い方がいいな」


 少し入間は思案して剣に尋ねた。


「前に剣を持った人が世界を救ったって話してくれたよね」

『うん』

「つまり自分にもそれくらいの力が得られるんだよね」

『うん!」

「そっか……」


 入間は口の端を吊り上げるようにして笑った。


「ならその力でこの世界にいる人達を使って賢者の書を探すか……」

『入間……?』






 翌日。

 入間はいつも通り学校に来ていた。

 そして放課後になりガキ大将達に囲まれた。


「入間、今日は逃さねえぞ! プロレスやるぞ!」


 教科書類をランドセルに詰め終わった入間はガキ大将を見上げた。


「いいよ。ただ、今日は反撃するよ?」

「はっ、入間のくせに面白いこと言うじゃん。いいぜ。神社行こうぜ」


 5人はあの神社へと移動した。


「最近放課後すぐに居なくなってたよな。どこ行ってたんだよ」


 入間はガキ大将の話を聞いていないのか、空を見上げていた。

 それを無視と捉えたガキ大将が青筋を浮かべながら突進してくる。


「弱いくせに無視してんじゃねえ!」


 バシ!

 ガキ大将の突進しながら放ったパンチを左手で止めた。

 入間は左手に込める力を強くし、ガキ大将の拳に指を食い込ませる。


「いて! いててて!」

「誰が弱いって?」

「痛いって! は、離せよ!」


 入間は左手を離した。


「な、なんだコイツ。やっちまえお前ら!」


 ガキ大将が言うと、取り巻きたち3人が入間へと駆け寄って来た。

 バラバラに攻撃してくる取り巻きたちを1発で倒して行く。

 倒れた3人を入間は冷ややかな目で見下ろした。


「「「う、うわあああん」」」


 取り巻きたちは恐怖を覚え、一目散に逃げ出した。


「あ、おい! てめえら待て!」

「どうした? もう終わりか?」

「クソぉ!」


 悪態をつきながら殴り掛かって来たガキ大将の腕を取り、入間は一本背負いで投げ飛ばした。

 ガキ大将は受け身も取れずに背中から地面に激突した。

 今まで経験した事のない衝撃を受け、ガキ大将は目に涙を浮かべた。


「く、くそーーー!」


 ガキ大将も泣きながら飛び出して行った。

 入間以外誰もいなくなった神社で空を見つめながら宣言する。


「リアム、少し待ってて。どんな手を使ってでも生き返らせるから」

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