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異世界転移!  作者: 中原
14章
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1話

「ないですね」


 ぽつりとジルさんが呟く。


「ないね」


 俺は返事をした。


「もしかして騙されたんでしょうか?」

「それはないと思うけど……」


 騙してるような感じじゃなかったし。


「そもそもこの地図があいまい過ぎるのよ! こんな地図でわかると思う?」


 アリアさんはエイデンさんから受け取った地図をバシバシ叩いた。

 地図というにはあまりに簡単だ。方角も書いてなく縮尺もわからず、森とゴイサという街の中間辺りに “この辺にアジト” と書かれている。

 この辺が広すぎて結構探しているんだけど見つからない。


「思ったんだろうね……」


 変わった人だったし、さもありなん。


「あ、なんか街みたいなのが見えて来ましたよ。とりあえず休憩にしましょうか」

「へー。この辺りにも街があったのね」


 吸い込まれるように街へと向かう。

 どこか懐かしさを覚える街並み。というかこれ……


「なんか不思議な街ね。異世界っぽいというか」


 とアリアさん。

 そう。そうなんだ。この街の家がどれも地球にあるようなデザインなんだ。


「いつの間にか異世界に飛ばされたんですかね」

「それはないと思うけど……あ、すいません」


 前を通りかかった街の人に俺は話しかけた。


「ここって何て街ですか?」

「ん? あんたら旅人かい?」

「はい」

「そうかい。ここはイリマ街だよ」

「「「イリマ(ですか)!?」」」


 3人合わせて大声を出してしまった。


「入間って言うのは……」


 俺はまさかと思い街の人に尋ねた。


「見えるかなあ? 向こうの方にデカイ塔があるだろ。あそこに住んでる人の名前だよ。あの人がこの街を作ったんだ」


 街の人が遠くにそびえ立つ大きな塔を差した。

 あの塔。俺達がクレスに連れて来られた場所だ。

 俺らはお礼を言うと街の人は手を挙げて応え、どこかに行った。


「どうやらあそこに入間がいるみたいだね。行こうか」


 すぐにでも乗り込んで入間を止めたい俺は、塔に向かって歩き始める。

 数歩歩いたところで服を掴まれた。


「何?」

「今日は休みましょう」

「いや、でもすぐに乗り込むって話じゃ……」

「長旅で疲れたのよ。ジルもそうでしょ?」

「……そうですね。確かに疲れました。今日は休みましょう」


 そんなに疲れてるようには見えないけど、体調に不安があるなら休んだ方がいいか。


「ほらジルもそう言ってるわ。体調に不安があって勝てる相手じゃないでしょ。今日は休んで体調を整えましょう」

「わかった。じゃあ今日は宿屋に行って休もうか」

「さすがにそれは速いわよ」

「じゃあどうするの?」

「街の人の歩き方見た感じ普通の人みたいだから危険はなさそうだし、みんなで街を散策するというのは?」

「まあいいけど」


 この戦いが終われば地球に帰るんだし最後にこの世界を見ておくのも悪くないだろう。

 ……まああんまり異世界っぽくない街並みだけど。


「ジルはどうする?」

「宿屋で寝ときます……と言いたいところですが、せっかくですし私も街を散策します」

「あら、ジルが付いてくるなんて意外ね」

「2人きりの方が良かったですか?」

「そ、そんな事ないわよ! ただ本当に意外と思ったから言っただけで……」


 顔を真っ赤にしてムキになるアリアさん。

 今回の旅で何度も見た光景だ。


「ちょっと何笑ってるのよ!」

「いやー、まさかアリアさんが俺と2人きりになりたかったとは知らなくて。ごめんね。気付いてやれなくて」

「違うって言ってるじゃない!」


 真っ赤な顔で怒るアリアさんはいつもより子供っぽく見えた。

 アリアさんをからかうのはその辺でやめ、3人で街を歩く。

 ずっと一緒に旅を続けて来たけど、こうして3人揃って街を散策するのは初めてで新鮮な感じがした。

 特に行く当てもなく街を歩く。誰かの興味がある店があったら入ってショッピングを楽しむ。

 そうやって気の向くままに街を散策しながらあーだこーだ笑いながら話していると、あっという間に時間は過ぎ、夜になった。






 宿屋に行き、俺は2階のテラスに出て入間がいる塔を1人眺めていた。


「物思いに耽ってますね」


 ジルさんがやって来て言う。


「あ、まだ起きてたんだ」

「起きてましたよ。アリアさんといいイオリさんといい私をなんだと思っているんですか」

「いや、だって寝てばっかだったじゃん」

「女性に対して失礼な人ですね」


 私は怒っていますよ、とアピールするように頬を膨らました。

 でもどうみても怒っていないし、どこか楽しそうだ。


「楽しそうだね」

「あ、バレました?」


 そりゃ。1ヵ月も一緒にいればね。


「そうなんですよ。自分でも意外です。ここ最近楽しいんですよ」

「それまで楽しくなかったの?」

「そうですね。私は小さい頃から魔力が強かったので同年代の人と何かするという事はなかったんです。学校も飛び級でしたし、卒業後すぐに王国騎士団に入りましたし。だから今こうして2人と旅ができてすごく楽しいんです。それこそ夢の中にいるより」

「あー、それでジルさんはよく寝てたんだ」


 ジルさんがよく寝るのはそんな過去があったからだったんだ。

 1ヶ月一緒にいたとはいえ、まだまだ知らない事だらけだな。


「それは単純に眠いというのが大きいですが」


 やっぱりそっちが大きいのか。


「でもそんな楽しい時間も今日で終わりですね」

「どうして?」

「だってイオリさんは明日の戦いが終わったら向こうに帰るんですよね」

「……うん」

「ですよね」


 ジルさんは視線を下に落とす。


「ま、よく考えたら元の生活に戻るだけですね」

「そうだね。でも俺がいなくなっても楽しい日々は送れると思うよ」

「そうでしょうか」

「そうだよ。だって俺がいなくなってもアリアさんはいるんだし、元の生活とは違うよ」

「あれ? 連れて帰らないんですか?」

「連れて帰らないよ!」


 何故連れて帰ると思ったんだ。

 犬や猫じゃないんだからそんなホイホイ持って帰れるものじゃないだろうに。


「そうなんですか」


 ジルさんは冗談じゃなく俺がアリアさんを連れて帰ると思ってたらしく、キョトンとした顔だ。


「そうだよっ」

「よかったです。2人とも遠くに行ったら悲しいですから」


 俺はジルさんっぽくない台詞に少し驚いた。


「なんですかその意外そうな顔は」

「その通り意外だったから……」

「それくらい2人との旅が楽しかったんです。だからアリアさんを連れて帰らないなら私を連れて帰ってもいいんですよ?」

「え?」

「ただし連れて帰ったのならちゃんと責任を取って私の世話をしてくださいよ! 私、家事も仕事もしませんから!」


 ジルさんの宣言に思わず俺は笑ってしまった。

 ドキッとすることを言ったかと思ったが、いつものジルさんだった。


「うーん、やめとく」

「ど、どうしてですか!」

「そんなニート宣言をしてる人を連れて行く人はいないよ」

「くっ、向こうなら楽に暮らせると思ったのですが」

「残念でした。そうはいかないよ」

「ま、いいです。明日彼らを倒せばこっちでも楽に暮らせるでしょうから」


 ホントいつものジルさんだ。


「じゃあ私は行きます。後がつかえてるみたいなんで」


 1歩1歩遠ざかるジルさんの背中。部屋に入る直前でこちらを向いた。


「あ、いい忘れてました。明日は絶対勝ちましょう」

「もちろん」


 俺がそう答えるとジルさんは笑顔になり、部屋の中へ帰っていった。


「……で、そこにいる人は何をしているのかな?」


 俺はテラスへの入り口で息を潜めているアリアさんに言った。


「バ、バレてた?」

「うん。ていうか隠れる気あったって感じ」

「そこまで下手じゃないでしょ」

「下手だったよ。出てくればよかったのに。そんなに2人きりになりたかったの?」


 アリアさんはすぐに否定しようと息を吸い込み、飲み込んだ。


「ちがっ……くないけど」

「え?」


 予想外の反応。

 今日はどうしたんだ2人して。

 俺をからかいたいのかな。

 火照った顔が冷めたアリアさんが横に来た。


「いよいよ明日ね」

「うん。緊張してる?」

「少し。イオリは?」

「全く」

「本当は?」

「自分でもびっくりなほど緊張してるよ」


 俺は自嘲気味に言った。


「でしょうね。じゃないとこんな寒空の下で塔なんて眺めたりしないわよね」

「だね」

「明日はいきなり戦う気?」

「……いや、少し話しをしようと思ってる」

「どんな?」

「世界征服をやめるよう説得する」

「説得、できればいいね」

「ほぼ無理と思うけどね」


 俺がクレスに説得されなかったように、入間も説得されないだろう。


「説得できなかったら戦うのよね。勝てる?」

「うん。勝てるさ」

「自信あるわね」

「そう言っとかないと不安になるからね」


 俺は苦笑いした。


「大丈夫よ。イオリは強いんだから」


 そう言ってもらえて緊張がほんの少しだけ和らいだ感じがした。

 しばらく塔を無言で眺めていると隣から視線を感じ、アリアさんの方を向いた。


「何?」

「ちょっとイオリに言っておきたいことがあって……」


 顔を夕日色に染め上げたアリアさんが言う。


「いい? 1回しか言わないからよく聞いてよ!」

「う、うん」


 なんだ? このアリアさんのテンションは。

 アリアさんがスーハーっと大きく深呼吸をした。

 俺はドギマギしながら次の言葉を待つ。


「あ、ありがとう。一緒に旅ができて楽しかったわ」

「……はい?」

「聞いてなかったの!? 1回しか言わないって言ったじゃない!」

「あ、ごめん聞いてたけどちょっと意味がわかんなくて」


 あんだけ緊張して言われたのがただの感謝の言葉とは。しかも何に対しての感謝かよくわかんないし。


「何よそれ」

「だいたいお礼くらいならわざわざ2人の時に言わなくてもいいことじゃん」

「だって恥ずかしいじゃない。改まってお礼を言うなんて。でも言わないと伝わらないし」

「まあね。でもそんなに恥ずかしいもん?」

「ええ。顔から火が出そうだったもの」

「じゃあもし他の人に聞かれてたら火が出てた?」

「ええ……ってまさかジル聞いてるの!?」


 アリアさんが辺りをキョロキョロ見渡す。

 覗きの趣味など持ち合わせていないであろうジルさんはもちろんいない。


「いないじゃない」

「うん。ジルさんはいないよ。でも……」


 俺は2本の剣を叩いてみせる。


「あ……」


 みるみる内に顔を真っ赤に染まっていく。まるで顔から火が出たみたいだ。


「うわー! どうしてあなた達黙ってたのよ!」

『逢瀬を邪魔するわけにはいかんだろ』

『そうそう。それに見てて楽しいし』

『ええ。微笑ましかったです』

「別にいいじゃん。告白を聞かれたってわけじゃないんだし」

「え? どうして私がイオリに告白しないといけないのよ?」

「冷静に言わないでよ」


 自惚れてたみたいで恥ずかしくなるから。


「ふふふふふふ!」

「はははははは!」


 俺らは大口開けて笑い合った。

 何がそんなに面白いのか説明しろと言われても困る。

 自分でも何がそんなに面白いのかわからないんだから。

 そんな風に決戦前夜は更けて行った。

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