3話
「さあ、どんどん行くぜ!」
エイデンさんがまた炎を自分の周りに集め始めた。
あれが集まると攻撃が来る。その前に止めないと。
俺は炎の剣を横に振って、三日月状の衝撃波で攻撃する。
「はっ! そんな攻撃効かん!」
エイデンさんは衝撃波を避けようともせず腹で受け止めた。
衝撃で体がくの字に折れ曲がる。
「ぐっ……どりゃあ!」
曲げていた体を起こし、衝撃波を吹き飛ばす。
「効かん!」
完全に強がりだ。口から血を流しているし。
『一旦炎を溜めるの中断して避ければいいのに。アホだね』
土の剣が呆れた声を出す。
『だが、炎は十分集まったようだぞ』
エイデンさんを包む炎は先ほどよりも遥かに多い。
「さーて。反撃と行かせてもらおうか」
エイデンさんの企んだ笑みが次の戦闘の激しさを予感させた。
「行くぜっ」
右腕を突き出し炎を出す。
またあの技か。
襲いかかって来る炎を右に左に移動し、避けようと試みる。しかし炎はことごとく付いてくる。
クソ。避けきれない!
仕方なく炎の衝撃波で相殺しようと攻撃したが、それすら避けられてしまう。
『壁作って防いだ方がいいんじゃない?」
「ダメだよ。炎使いの戦いだからね!」
『ここにも馬鹿がいたか……』
だってさ。炎使いで1番にもなれない奴が入間やクレスに勝てるはずないじゃん!
両手に剣を持っていると動きにくい。どうせ使わないんだ。土の剣は鞘に収めとこう。
「カッカッカ! いいねえ! そうこなくっちゃ!」
土の剣を鞘に収めるとエイデンさんから賛辞が送られた。
あとはこの追跡してくる炎をどうにかしなくちゃ。
動きやすくなったとはいえこの追跡から逃れる事はできない。だったら……
俺は足を止め逃げ回るのをやめた。
その代わり炎の剣に全神経を集中させる。
「諦めたか!?」
炎が一直線に襲ってくる。
よし来た。
避けられるのは距離があるからだ。だったら近距離から衝撃波を出せばいい!
今だ!
炎が接近したところで剣を動かし始める。
「……んなわけないよな!」
俺に当たる直前。
炎の軌跡が上に変わった。
読まれてたか!
さらに炎の軌道は変化し、上に行った炎が俺目掛け落ちてくる。
「オラァッ!」
「くっ!」
急遽剣を動かす向きを上に変える。
間に合え!
「遅え! 貰ったァ!」
俺は落ちてくる炎に向け衝撃波を打つ。
炎と炎がぶつかり合い弾けた。
「チッ! 直撃は避けたか」
「つぅ……」
直撃は避けれたけど、かなり近い距離で爆発したので結構なダメージをくらった。
けどこれで攻撃できるっ。
俺はエイデンさんが次の攻撃に移る前に駆け寄る。
肉弾戦なら剣を持っている自分に分があるはず。
「肉弾戦か。嫌いじゃねえな!」
エイデンさんが炎を腕に寄せた。
俺は構わず剣を振り下ろす。
ガキン!
剣と腕がぶつかり金属音が響いた。
硬っ。本当に人間の腕かってほどの硬さだ。
いくら剣の腹部分での攻撃とはいえ、腕でアッサリガードされるとは思わなかった。
「どりゃ!」
「うっ!」
蹴りが横腹に入り、飛ばされる。
俺は飛ばされながら苦し紛れに衝撃波を出し、態勢を整える時間を稼ごうとする。
「そんなの喰らわん!」
エイデンさんが炎を纏った拳で三日月状の衝撃波を殴り相殺した。
そして間合いを一気に詰めてくる。
「セイヤっ!」
俺の頭部を狙った回し蹴り。
鋭い蹴りで躱すことが出来ず、左手でガードする。
ただ威力が高くガード上から頭部を揺らされた。
「まだまだぁ!」
蹴りとパンチの嵐に襲われる。
その全てが簡単に避けれるような甘いものではない。
一撃一撃が速く重く急所に正確に放たれる。
とてもじゃないが、避けきれない。
急所を突かれぬよう必死でガードする。
「どうした! その程度かよ!」
たまらずバックステップで逃げようとする。
だが向こうも逃がすまいと踏み込んで来た。
俺は炎の剣に力を込める。
剣が輝き出す。
「むっ!」
剣の輝きでエイデンさんの目を眩ませる。
チャンスだ!
空いた腹部に前蹴りを入れる。
「ぐふッ!」
鳩尾にクリーンヒットし、エイデンさんが空気を吐き出す。
続けて足を振り上げる。
だがその攻撃は手の平で防がれ、逆に足を掴まれてしまった。
「どりゃあああ!」
足を掴まれたまま振り回され、投げられた。
肩から落ち、急いで立ち上がる。
立ち上がるとエイデンさんはすぐそこまで迫っていた。
再び接近戦が始まる。
拳を放たれる。
ガードする。
今度は俺が剣で払う。
しかし向こうもそれを避け反撃に出る……
そうやって攻防を幾度となく繰り返す。
2人とも致命傷は避けているがダメージは確実に蓄積して行っている。
「ガッー!」
「ぐっー!」
同時に放った剣と拳がぶつかり合い、意図せず距離が離れた。
「ふぅー……カカッ! 楽しませてくれるねえ」
篝火がある場所まで下がったエイデンさんが言う。
「けど、これはどっちが最強の炎使いかを決める戦いだ。肉弾戦で勝負を決めるのはもったいないよな」
「ですね」
「いい返事だ。本気で行くぜ?」
またあの追尾してくる技か?
「!!」
いや、違う!
エイデンさんが両手を前方にかざすと篝火の炎が吸い込まれるように集り、球形をなして行く。
遂には直径2m近い火球ができ上がった。
火球はエイデンさんの前にふわふわと浮いており、明るさも相まって太陽のように見えた。
エイデンさんがニヤリと口の端を歪める。
「喰らいな」
火球を両腕で押し出すと加速しながら襲って来た。
俺は三日月状の衝撃波で応戦する。
だが火球は衝撃波が衝突してもまるでビクともしない。
これはさっきの炎のように甘いもんじゃない。 これくらいの衝撃波では止めれない。
俺は炎の剣を両手で持ち、剣先を炎球に向けた。
「ハァァァァッ!」
剣先にありったけの力を集める。
剣が煌々と光り始め、火の手が上がった。
「っけぇええええ!」
剣先から炎の渦を出し相手の攻撃を迎え撃つ。
「どりゃあああああ!」
「はぁああああああっ」
炎同士がぶつかり合う。
地鳴りが巻き起こる。
「くっ……」
「っ……」
互角のように見えるが、少しずつ火球が向こうに行っている。
「っ……まだまだぁっっ!」
エイデンさんが吠えると火球が押し戻された。
強い。でも俺はこんなところで負ける訳にはいかない。
入間を止めるんだっ!
剣と共鳴し、より強い光が剣から放たれる。
「何!?」
火球を押し返す。
そのまま火球はエイデンさんに向かって行き、衝突した。
「ぐああああ!」
炎に呑み込まれ、エイデンさんの叫び声がどんどん遠ざかって行く。
残されたのは地平線まで伸びる跡だけだった。
「はぁはぁはぁっ」
走ったわけでもないのに肩で息をしていないと呼吸が間に合わない状態だ。
「勝ったかな?」
『おそらくな』
『ていうか生きてる?』
「生きてて欲しいけど……」
跡を辿ると、途中でエイデンさんが仰向けの状態で寝ているのを見つけた。
寄っていくと足音で気がついたのか、エイデンさんはガバっと起き上がった。
まだくるか!?
「カッカッカ! いやー、ひさびさ楽しい戦いだったぜ!」
全身火傷だらけで笑えるような状態ではないのに、カラッとした清々しい笑顔で言う。
「ほらよ」
エイデンさんがポケットから紙を取り出した。
「いいんですか?」
「ああ。どうせ勝手な行動してるんだ。毒を食らわば皿までだ」
俺はエイデンさんから紙を受け取った。
「行くなら早い方がいい。今、部下達は出払っててそこにいないはずだ」
「わかりました」
そこまで言うと、エイデンさんは突然拳を突き出した。
「最強の炎使いの称号は一旦お前に預ける。だけどすぐに取り返してみせるからな! それまで絶対負けんなよ!」
「うん」
俺は頷いて、エイデンさんの拳に自分の拳を軽くぶつけた。
それがトドメの1発になったようで、エイデンさんは大の字になって倒れた。
さっきまでの元気が嘘みたいだ。
「ふー」
戦いが終わり一息いれる。
本当は1時間くらい休憩したいのだけど、エイデンさんの助言もあるしそうも言ってられない。
俺はエイデンさんの腕を首の後ろに回し、運んで行く。
飛ばされた場所まで戻ると、ジルさんが歩いて来ていた。
「傷だらけですね。大丈夫ですか?」
「うん。俺は大丈夫。ジルさんは……大丈夫そうだね」
「ええ。無傷です」
vサインをする。
さすがジルさん。
「あとはアリアさんか」
「呼んだ?」
振り返るとアリアさんがいた。
少し怪我をしているみたいだが、元気そうだ。
「そっちも終わったみたいね」
「うん」
「ここにイリマはいなかったわね」
「そうだね。でも居場所はわかったよ」
俺はポケットから4つ折りにされた紙を取り出した。
「それはなんですか?」とジルさん。
「入間達がいるアジトの地図だよ」
「それ本当なの?」
「多分。しかも今アジトは手薄らしい」
「……そこまでくると罠としか思えませんが、行ってみましょうか」
「そうね」
エイデンさん達を医者のところまで運んだ後、俺たちはすぐに旅に出た。
行く先はもちろん入間のところだ。




