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異世界転移!  作者: 中原
13章
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1話

 シュバルツナイツの拠点を1つ壊滅させ、王都には平和が訪れていた。

 それでも首謀者である入間は捕まっておらず、居場所もわかっていないので油断はできない状況だ。

 今は他の拠点の情報待ち。要は暇ってヤツだ。

 暇といえどやる事が全くないわけじゃない。

 俺には夕飯を作るという仕事があるため、買い物をしに街を歩いていた。

 すると前から見知った顔が歩いて来た。


「やあ」


 手を挙げ気さくに挨拶して来たのは、クレスだった。

 俺は剣に手を掛け警戒を強める。

 そんな俺を見てクレスがフッと笑みをこぼす。


「そう警戒しないでよ。こんな街中で戦う気はないから」

「じゃあ何しにこんなところに?」

「そりゃあイオリ君に話しがあるからだよ」

「話し?」

「立ち話もなんだし、そこの店にでも入ろうか」


 クレスは近くの喫茶店を指差す。

 俺は逆らわず、クレスの後について喫茶店に入った。

 席に座るとフリルがついた服を着たウェイトレスさんが注文を受けに来た。

 何がいいかわからなかったのでクレスが注文した物と同じのを頼んだ。

 ほどなくして注文した飲み物が運ばれてきた。

 コーヒーに似た見た目の飲み物。

 カップを手に取り口に運ぶ。

 苦っ。

 味もコーヒーだった。


「どうかな。口に合う?」

「うーん、ちょっと苦いかな」

「ならこれを入れるといいよ」


 机に置いてあった小瓶を俺の方に寄せた。


「毒じゃないよね」

「毒じゃないよ。ホント僕を信用しないね。今まで嘘なんて言った事ないのに」

「だからって素直に信頼できないよ。そうやって信用させといてどこかで大きな嘘をつくための伏線かもしれないし」

「ハハハ、確かに。そう言われたら何も言い返せないな」


 けど中身が毒じゃないのは本当だろう。俺を殺す気ならもっと方法はある。

 例えば最初からコーヒーに毒を入れておくとか。

 俺は小瓶から砂糖を1掬いして入れた。

 飲むといい感じに甘みを感じた。


「で、話しって?」


 このままじゃただのコーヒーブレイクになってしまいそうなので自分から切り出した。


「今後の事……かな?」


 クレスがカップをソーサーに置いた。


「イオリ君。悪い事は言わない。僕らの邪魔をするのはやめた方がいいよ」

「イヤだ……と言ったら?」

「死ぬよ。今度はイリマ君も手加減しない」


 いつも人を食ったような表情をしているクレスが真顔で言った。

 それだけでハッタリではないのがわかった。

 けど。


「それでもやめるつもりはないよ」


 俺はクレスの目を真っ直ぐ見据え、はっきり言った。

 悪いけどこの考えを変える気は一切ない。


「君もバカだねー。僕やイリマ君に勝てる確率がどれくらい低いかわかってるでしょ?」

「でもゼロではないよね」

「ほとんどゼロだよ」

「それでも……ね」

「論理的じゃないなあ」

「かもね」

「ふぅ……君も頑固だねえ。向こうの人ってみんなそうなの?」

「そんなことはないと思うけど」

「うーん、君なら説得できると思ったんだけどなあ。その目をみると無理そうだ」

「まあね。ていうかクレスって敵だよね。どうしてわざわざこんな忠告をしに来てくれるの?」

「君がどう思っているかはともかく、僕は敵だと思っていないからね」

「それがよくわからないよ」

「まあ、僕は君達にも死んで欲しくないって事さ」

「なら世界征服なんて辞めてよ」

「イリマくんが首を縦に振るならいつでもやめるよ。さて……」


 クレスは残りを飲み干すと席を立ち上がった。


「じゃあ僕は帰るよ」

「どこに帰るの?」

「教えると思う?」

「いや。でもポロッと言わないかと少し期待した」

「それは残念だったね」


 クレスは店員さんに勘定を済ませて出て行った。

 俺は1人ゆっくりとコーヒーを飲み干してから店を出た。








「おかえり。遅かったわね」


 夕飯の食材を買って帰るとアリアさんに言われた。


「うん。ちょっとクレスと会ってね」

「へー……ってクレス!?」

「うん」

「どうしてクレスが!?」

「俺らを止めに来たって。このまま戦っても死ぬだけって言われたよ」

「何それ。脅し?」

「脅しというより警告だね。最終決戦は近そうだ」

「そうね」


 俺らが深刻な顔をしているとジルさんがその気配を感じてか、隣の部屋からやって来た。


「おかえりなさい。ご飯はまだですか?」


 ……違った。夕飯の催促に来ただけだった。


「イオリ」

「何?」

「夕ご飯をお願い」

「……はい」


 アリアさんまで。

 明日の戦いより今日のご飯のが重要なのか……






 クレスに会った次の日だった。

 オーカンが脱獄したという話が入って来たのは。


「昨日クレスに会ってもう今日そんな事があったか」

「動くの速いわね」

「それだけ向こうも焦ってるのかも」

「むぅ……罠の可能性が高いですね。どうします?」

「行こう。たとえ罠だとしても放置してたらカイナが襲われるかもしれない」

「そうね」

「ですね」


 2人も同じ意見だったみたいだ。

 カイナへ行くと、まだ襲われていないみたいで、変わらぬ街並みだった。


「よかった。まだ無事みたいだ」

「街はそうですね。ですがあそこに見えるアレは何でしょうか?」


 ジルさんが街の西側に何かを見つけた。

 そこは火が燃えているようだった。

 火事? でも向こうに家はないはず。

 俺たちはゆっくりとその場に向け足を踏み出した。

 平野に篝火がズラリと焚かれていて、その横で赤い髪の男が足の筋を伸ばしたり準備運動をしている。


「何しているんですかね。あの人は?」


 ジルさんが疑問を口にした。


「準備体操のように見えるけど」

「何の準備体操かしら?」



「そりゃあお前らを殺すためのに決まってんだろっ」


 背後から声。

 振り返る間も無く俺は風に巻き上げられ準備運動している男の方に吹き飛ばされていく。

 目の端でアリアさんが俺とは違う方向に飛ばされて行っているのが見えた。

 俺は首を捻り誰の攻撃か確認する。

 あいつは……四天王の1人のオーカン!


「くっ……」


 俺は空中でクルリと回転し、足から地面に着地。

 3人を分断したって事は何かあるはず。

 速く2人の元に行かないと。

 走り出そうと足に力を込めたところで横から火球が襲って来た。

 俺は上半身を仰け反らせそれを避ける。


「カッカッカ! おいおいどこ行こうっての!」


 火球が飛んで来た方から声。

 声の主はあの準備運動をしていた真っ赤な髪を逆立てた男だった。


「あなたもシュバルツナイツの一員ですか?」


 足を止め、尋ねる。


「ああ! シュバルツナイツ四天王の1人、炎使いのエイデンだ!」

「入間はいないんですか?」

「おいおい。こっちが気合入れて自己紹介してるってのに第一声に聞くのがイリマの事かよ」

「じゃあクレスは?」


 俺が聞くとエイデンと名乗った男は目を吊り上げた。


「そうじゃねえよ! これから訪れる俺との戦いに想いを馳せろよ!」

「ええ……」


 戦いに想いを馳せるって何?

 ヤバそうな人だ。出来るだけ関わらないようにしなきゃ。

 相手とは裏腹に俺の心は冷めていく。


「まあいいや。教えてやるよ。イリマとクレスはここにはいねえ。これはイリマの命令じゃなくて俺らが勝手に動いてやってる事だからなっ」


 そうか。あの2人はいないのか。

 ならジルさんとアリアさんは大丈夫だろう。


「質問には答えてやったぜ! これで安心して戦えるだろ!? さあどっちが最強の炎使いか決めようぜ!」

「その称号あげるんで戦いたくないんですけど」

「かぁー。つれねえな。でもお前がそう言うのも想定済みよ」


 そう言ってエイデンさんがポケットから紙を1枚取り出した。

 それを見せびらかすようにピラピラと振る。


「それは何ですか?」

「イリマがいるアジトの地図だ。お前が勝てばこいつをやろう。どうだい。少しはやる気がでたかい?」

「そりゃあ……もちろん!」


 できるだけ関わらないようにしようと思ってたけど、そんな人参を目の前にぶら下げられたら飛びつかずにはいられない。

 俺は炎の剣に力を込める。


「カッカッカ! やる気出して貰えて嬉しいぜ!」


 嬉しそうに笑うエイデンさん。その体の周りに篝火の炎が吸い込まれて行く。

 あっという間にエイデンさんの体は炎に包まれた。


「あ、熱くないんですか?」

「熱いぜ。体も心もな!」


 エイデンさんの眼光が鋭くなった。

 来る!


「どりゃあ!!!」


 エイデンさんが正拳突きの要領で腕を突き出すと、体の周りの炎が一直線にこちらに向かって来た。

 俺は抜刀と同時に三日月状の炎を出しその攻撃を迎え撃つ。

 2つがぶつかり合い衝撃で爆風が巻き起こる。

 互角か。強い!


「カッカッカ! いいね! そうこなくっちゃ張り合いがないってもんよ!」


 エイデンさんは楽しそうに笑っている。

 ちょっとおかしなところはあるが、この人も悪い人には見えない。

 もしかしたらアリストさんと同じで入間に騙されているのじゃないだろうか。


「エイデンさん! あなたは入間がやろうとしている事を知っていますか!?」

「ああ! 世界征服だろっ。カッカッカ! それくらい知ってるよ!」


 知ってたか。


「もしかして俺がアリストみたいに何も知らないと思ったのか?」

「少し」

「残念だったなっ! けどこれで心置き無く戦えるだろっ!」


 炎が渦を巻きながら飛んで来た。

 俺は当たる直前に横に飛び避けようとする。


「せいやっ!」

「!!」


 エイデンさんが拳をクイッと右に動かす。

 するとそれに呼応するように炎が進行方向を変え、俺の動きに付いてきた。


「マズっ……」

「どりゃあ!!!」


 炎とぶつかる。

 衝撃と熱が同時に襲ってくる。


「熱っ!」


 俺は一瞬で炎に包まれてしまった。

 速く消火しないと炭になってしまう。

 しかし周りに水はなく、アリアさんもいない。

 となると……俺は土の剣を使い自分の体を土で覆う。

 酸素を断たれた炎は鎮火に向かって行く。


「ふぅ……」


 消火完了。

 俺は体の周りの土を地面に戻す。

 よかった。なんとか消火できた。


「あ、てめえズリーぞ! 炎使いの勝負で土魔法を使うなよ!」

「知らないよ! ていうか使わないと死んでたじゃん!」

「炎使いなら炎に包まれて死ねるなら本望だろっ!」

「ええ……」


普通に嫌な死に方だと思うんだけど。


『アイツ頭わいてんな』

『だね……』


 これには剣達もドン引きだった。

 2人の相手もこんなヤバイ人たちなのかな。だとしたら早く行ってやった方がいいかも。

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