3話
教えてもらったように廊下を右に曲がると他よりも豪華な装飾がされた扉が出てきた。
ここか。
俺はノックもせずに中に入る。
中は書斎のような造りで、正面にある大きな机には細身で髪の長い男が座っていた。
何か作ろうとしているのか、机には大きな岩が乗っており、それをジッと見つめている。
今までのシュバルツナイツの人達と明らかに違う雰囲気。
この人が指揮官……? なんかこの建物にいた人達と違って悪そうじゃない。
「少し待って下さい!」
部屋に入ると大声を出された。
男の剣幕に驚いた俺は言われた通り待つ事に。
「……はっ! 閃いた」
男が岩に手を触れると一瞬でそれは羽の生えた馬の彫刻に変身した。
「……ふぅ」
男は一仕事終えたと言わんばかりに息を吐き、額の汗を拭った。
「珠玉の出来ですよこれは。すごくいいものが出来上がりました」
できた作品をいろんな角度から眺めながら悦に入っている。
どうやら俺の存在は見えていないようだ。
仕方ないので話しかけてみた。
「あのー……」
「ん? ああ、そうでしたね。来客があったのでした。すみません、お待たせしてしまって」
「いえ」
「それで私に何の用ですか?」
「えーと……」
な、何だこの人?
捕まえるために来たのだが、あまりの毒気のなさに面食らってしまい、上手く言葉が出てこない。
「おや? あなたはシュバルツナイツの一員ではないですよね。お名前を教えて貰ってもいいですか?」
「佐伯伊織です」
「サエキイオリ……?」
男が怪訝な顔つきに変わった。
来るか!?
……と、思ったら今度は顔を明るくした。
「おー! サエキイオリ! イリマ様から話しは聞いています!」
椅子から立ち上がると詰め寄られ、握手をされた。
な、何? 一体どうなってるの!?
「そうですか。あなたがあの有名なイオリさんですか。いやー会ってみたいと思っていましたが、まさかイオリさんから訪ねて来られるとは」
目を輝かせながら歓迎された。
「えーと、貴方は?」
「あ、私の自己紹介がまだでした。私はシュバルツナイツ四天王の1人。土の芸術家、アリストです」
シュバルツナイツの四天王ってことはこないだ王都を襲ったのはこの人……なんだよね。
とてもそうは見えないけど。
確認のため俺は聞いてみた。
「ひとつ聞いてもいいですか?」
「はい。なんでしょう」
「この前、王都を襲ったのはあなた達ですよね?」
アリストさんは質問の意味がわからないといった感じに首を傾げた。
「王都が襲われたのですか?」
「え? はい」
「もしやイリマ様が言ってた敵ですか……」
何やらボヤきながら考え始めるアリストさん。
「あなた達が襲ったんじゃないんですか?」
「ええ。我々は王都を襲うなどしませんよ」
「なら昨日は何をしてましたか?」
「昨日はここで作品を作っていました」
真っ直ぐな瞳に嘘や偽りは感じられない。
本当にこの人は王都を襲ってなさそうだ。
「なら他の人達はどうしてました?」
「さあ? 私は一日中ここにいましたので……そういえば怪我してた人が何人かいましたね」
「それ絶対王都を襲撃に来てた人でしょ!」
「そんなはずありませんよ! ここにいる人は皆んないい人です!」
「でもシュバルツナイツって世界征服を目論んでる集団ですよね?」
「世界征服? ハハハイオリさんは面白い冗談を言いますね」
冗談と思われてしまった。
どうもアリストさんはシュバルツナイツが世界征服をするとは思ってないようだ。でもどうしてだろう?
まさかと思うが、騙されて入団したとか?
そう思い、俺は質問した。
「えーと、どうしてアリストさんはシュバルツナイツに入団したんですか?」
「入団の経緯ですか?」
「はい」
「あれは私がスランプに陥っていた時のことです」
アリストさんは入団の経緯を話し出してくれた。
2年前。王都にあるアトリエにアリストはいた。
「どの作品もイマイチですね」
出来上がった作品を見ながらアリストは呟く。
他にもアトリエには数百を超える作品があったが、どれも物足りなさを感じていた。
「これがスランプというやつですか。もどかしい」
作れど作れどいい作品は生まれない。それどころか作れば作るほど悪くなって行っている気がする。
「ここは一旦彫刻から離れますか」
どうにも行かなくなったアリストは、一旦作品を作るのをやめ、アトリエから外に出た。
何かいいアイデアは落ちていないかと王都を練り歩く。
「やあ、アリストさん。最近の調子はどうだい?」
名前も知らぬ老人から話しかけられた。
アリストは弱々しい笑顔で答える。
「それがさっぱりです」
「そうかい。まあ焦らずいい作品を作ってくれよ。ワシはあんたの作品が好きだからね」
「ありがとうございます」
礼を言ってまた歩き出す。
「あらアリストさん。調子はどう?」
今度は若い女の人が話しかけて来た。
「全然です」
「そうなの。辛いだろうけど頑張ってね」
「ありがとうございます」
「あ、アリストだー!」
そして今度は子供に。
「やあ。今日も元気ですね。何をしているんですか?」
「今から友達ん家に行くとこー。アリストも来る?」
「いえ。私は遠慮しときます」
「そっか。んじゃあな。お前も頑張れよ」
「はい。では」
アリストは王都中に名が知られるほど有名な芸術家だった。
道を歩けば老若男女問わず話しかけられる。
それは別に嫌ではない。だが、スランプの今、みんなの期待が重たかった。
(ああ。どこか誰も私の知らない場所へ行きたい)
王都を彷徨った末、たどり着いたのは人が少ない閑静とした公園だった。
なにをするでもなくベンチに1人座っていると、
「あんたがアリストか?」
また、話しかけられた。
見上げると、知らない青年だった。
(作品の依頼でしょうか)
「はい、そうです。ですがすみません。作品の依頼なら今は受け付けてません。ちょっとスランプでして」
「その話は聞いている」
「では何の用事でしょう?」
「環境を変えてみないか? 俺が作品作りのための最高の環境を整えてやる」
「最高の環境ですか……」
「ああ。例えば俺のとこにはこんな本がたくさんある」
1冊の本をアリストに渡す。
「これは……!」
本を見て、アリストは震えた。
そこにはアリストが見たことのない斬新な芸術作品が多数載っていたからだ。
「どうだ。参考になるか?」
「これは……はい」
「俺についてくればもっと色々な本を見せてやる。一緒に来ないか?」
「いいのですか?」
「ああ。だがタダでとはいかない」
「お金ならいくらでも払います!」
「金はいい」
「なら、私は何を?」
「俺には敵が多くてな。それを倒すのに協力して欲しい」
「わかりました。貴方のお名前は?」
「入間だ」
「それが私がシュバルツナイツに入団した経緯です」
「あ、怪しいとか思わなかったんですか?」
「はい。イリマ様は素晴らしい方ですから」
どうやら入間の事を全く疑っていないようだ。
入団後も気付かなかったって事は上手く情報操作されていたのだろう。
「それよりイオリさん。王都が襲われたのですよね?」
「はい。そうですけど……」
「一度王都に行ってみましょう。もしかしたら敵が近くにいるかもしれません」
敵は近くどころかここにいるんですけど。
「本当はイリマ様に外を出歩くなと言われているのですが、緊急事態ですからね」
露骨に情報操作されてた!
「さあ、行きましょう!」
「えっ、ちょっと」
アリストさんに腕を引っ張られ、俺達は部屋を飛び出した。
角を曲がり先ほど戦っていた廊下に出た。
そこにはあの大勢いた兵士達の姿はなく、俺にやられたマックスが横たわっているだけだった。
「マ、マックス!?」
アリストさんが俺の腕を離し、マックスに近づく。
「マックス! どうしたのです! 誰にやられたのです!」
俺です。
「……うっ」
アリストさんの呼び声に応え、マックスは薄眼を開けた。
「マックス! 大丈夫ですか!? 誰にやられたのです!?」
聞くと、マックスは震える手で俺を指差した。
「イ、イオリさんにやたれたのですか?」
マックスは頷き、そして気を失った。
「マックス!? マックス!?」
何度も呼びかけるがマックスは目を開けなかった。
……いや、死んだわけじゃないよ。
ちゃんと胸は上下しているから呼吸はしているし。
「……イオリさん。彼が言っていることは本当ですか?」
「えっと……はい」
俺は素直に答えた。
どうもアリストさんは彼らがやった事を知らなそうなので、それを話せば誤解は解けると思ったからだ。
「……イオリさんと彼の間に何があったのかこの際聞きません」
そこは聞いて欲しいです。
「ただ、部下を殺した落とし前はつけて貰います!」
「いや、殺してな……くっ」
言い終わる前にアリストさんが地面から四角い柱を出し、攻撃してきた。
俺は2本の剣をクロスさせ、柱による攻撃を防ぐ。だが、柱の勢いは止まらず廊下をものすごいスピードで飛ばされていく。
後ろを確認すると壁が迫っていた。
壁に激突させる気か!
俺は体を捻り、炎の剣から衝撃波を出す。
衝撃波により壁は粉々に砕け散り、壁に叩きつけられる事はなくなった。
「ふぅ」
しかしそうも安心していられない。
ここは2階。壁の向こうは外。そして外に出ると同時に止まる柱。
そう来たら次はもちろん……落下。
風を下から上に感じながら落ちていく。
地球なら怪我する高さだろうけど、コッチならたぶん大丈夫……かな?
「よっと」
スタッ。
俺は綺麗に着地を決めた。
上を見る。するとアリストさんは前方宙返りというアクロバットな技を決めながら、俺から距離を取った場所に着地した。
「さすが。イリマ様が言うだけのことはありますね。しかしマックスのためにも負けませんよ!」
「ちょっと待って! 話を聞いてください! アリストさんはきっと誤解してます!」
「いいえ! 誤解などしていません!」
アリストさんは力強く両手を地面につけた。
直後、地面が盛り上がる。
その盛り上がりはどんどん大きくなっていき、遂には巨大な女神像が出来上がった。
「話を聞いてください!」
『イオリ。残念だが奴の脳みそはハッピーで出来てやがる。話し合いは不可能だ』
(……みたいだね)
俺は戦う覚悟を決めた。
女神の形をした巨像がズシン、ズシンと地面を揺らしながら歩いてくる。
土の剣を取るときに戦ったゴーレムより動きは遅い。
巨像は無視してアリストさんを攻撃しよう。
一気に勝負をつけるため走り出そうとしたが、不思議な事に下半身が付いて来ない。
足元を見る。
靴が土に覆われていて、ガッチリと地面にくっ付いていた。
いつの間にこんな事を!
『イオリ、前を見ろ!』
「え?」
前では近づいていた巨像が腕を引き拳を振り下ろそうとしていた。
俺は足に目一杯力を込め振り上げ、土による拘束を外し、振り下ろされた拳を回避する。
拳が地面にめり込み巨像の動きが止まった。
反撃に出ようと炎の剣に力を集める。
炎の剣が光を発し始めたところで土の剣の声が飛んできた。
『イオリ! 後ろからも来ているよ!』
首を後ろに動かすと、岩槍が迫っているのが見えた。
それを身を翻して避ける。
岩槍が体ギリギリのところを通過して行く。
『マズイっ……』
炎の剣の声を聞き、今度は巨像の方を見た。
巨像は接近していて、蹴りを繰り出して来た。
避ける暇もなく蹴りをモロに受けてしまった。
「ぐっ!」
蹴り飛ばされた俺は家の壁に激突した。
それでも勢いは止まらず、壁を突き破り部屋の中に入ったところで俺は炎の剣を床に突き刺し止まった。
痛っ……。
凄い威力だ。
『大丈夫か?』
(何とか)
俺は少し体を動かし、怪我の度合いを調べてみた。
痛みはあるが骨折などはしてなさそうだ。
よし。行くか。
俺は走って外へ出た。
「アレを喰らって無傷とは頑丈ですね」
「無傷ではないですよ。体のあちこち痛いですから」
「ふっ。いいことを聞きました」
アリストさんがまた地面に手を付いた。
すると止まっていた像が俺に向かって歩き始めた。
それとほぼ同時に土槍が四方から飛んで来る。
俺は回転しながら2本の剣で土槍を叩き切る。
前には像が迫っていて、俺を踏みつぶそうと足を上げている。
チャンスだ!
俺は剣を振り、女神像の顔面に炎の衝撃波を当てる。
像は片足を上げてたせいでバランスを崩しよろけた。
今度は土の剣を振り、アリストさんを土柱で攻撃する。
「くっ……土も使えるんですか!」
アリストさんが俺の攻撃を土壁を作り防ぐ。
「しかし、土の攻撃なら負けませんよ!」
壁を下ろすと同時にまた土槍が俺の周りから現れた。
それを回転しながら斬る。
しかし今度はそれでは終わらず、絶え間なく土槍が襲って来る。
土槍の雨あられ。
剣で斬るだけでは防ぎきれない。
俺は土の剣を使い周囲に壁を作った。
ドンドンドン! 土槍が壁を叩く音がこだまする。
壁にヒビは入っていないのでまだまだ耐えれそうだ。
しかしいずれこの壁は壊される。
かと言ってここから出れば土槍の餌食だ。
どうする?
考えていると土槍が壁を叩く音が聞こえなくなった。
諦めた? いやそんなはずないか。じゃあ……
次の瞬間、轟音と共に壁は砕かれた。
女神像の蹴りが壁を砕いたのだ。
俺は周囲に壁を作っていたせいで逃げれず壁ごと蹴飛ばされた。
「ぐっ!」
女神像の蹴りを左手でガードする。
衝撃で一瞬意識が飛んだ。
向こうにはこの攻撃があったんだ。
『イオリ。ぼーっとしている暇はないぞ』
俺はすぐに立ち上がり剣を構える。
ガードした左手がズキズキと痛む。
『強いねえ。近距離、遠距離どっちも隙がないや』
『ああ。だが、イリマやクレスはまだ強い』
『だね。頑張れイオリ』
(大丈夫。弱点見つけたから)
この土でできた巨大な女神像。これはアリストさんが地面に手を付いてから移動し始めた。
つまり巨像に自我はなく、アリストさんが操作している。
だったら……
「はぁっ!」
炎の剣を縦と横に振り、アリストさん目掛け十字の衝撃波を出す。
「そんなもの喰らいません!」
アリストさんは衝撃波が当たる前に壁を作り出し、直撃を防ぐ。
そうやって防ぐのは知ってた。だって避けるより速くて安全だもの。
でも目の前に壁を作ったら何も見えなくなる。
見えないのに巨像を正確に動かせるか?
見えないのに俺目掛け正確に岩槍を放てるか?
答えは両方Noだ!
炎の剣に力を集中させると真っ赤に輝き出した。
俺は巨像の頭上まで飛び、上から下まで縦に横に斬りきざんで行く。
「しまった!」
アリストさんが壁を下げたのは俺が巨像を切り裂いた後だった。
「勝敗はほぼ決したと思いますが……」
「いいえ、勝敗はまだわかりません!」
アリストさんに降参する気はないらしく、数多の槍が前方から俺目掛け放たれた。
進行の邪魔になる奴だけを剣で払いのけ距離を詰める。
前方から一際大きな槍が飛んで来た。
俺は炎の剣を振り、衝撃波でそれを迎え撃つ。
炎が土槍を砕き、その余波がアリストさんを貫いた。
「さすがですね。これほど差があるとは思いませんでしたよ」
アリストさんは炎の衝撃波の余波を喰らい、全身にダメージを受けていた。
「すみません、マックス。仇は取れませんでした」
言い終わるとアリストさんは糸の切れた操り人形のように後ろへ倒れた。
だからマックスは死んでないですって。
「ふぅ……」
疲れた。
俺はその場に座りこむ。
「アレ? イオリ?」
アリアさんの声。
振り返ると俺が開けた穴からこちらを見ていた。
「これイオリが開けたの?」
アリアさんが穴の縁を叩く。
「ああ、うん。あの人にやられてね」
俺はアリストさんを指差した。
「彼は?」
「ここのリーダーみたい」
アリアさんが穴から出て来て仰向けに寝ているアリストさんの顔を覗き込む。
俺も立ち上がり横に並ぶ。
「この人、アリストじゃない!?」
「知ってるの?」
「ええ。有名な芸術家ですもの。最近は王都から居なくなってたらしいけど、シュバルツナイツの一員だったなんて……」
アリアさんは少なからずをショックを受けているようだった。
「うーん、どうもこの人は利用されてただけっぽいけどね」
「そうなの?」
「うん。とりあえず起こして誤解を解こう」
俺はアリストさんを叩いたり揺さぶったりするが、ペチペチ音が鳴ったり、首がガクガク揺れるだけで目を覚ましてくれない。
「ちょっと変わって」
アリアさんが言うので、俺はアリストさんを地面に置いた。
アリアさんは水の剣を抜き力を溜め、水の塊を顔に落とした。
「ッはぁ!」
あ、起きた。
上半身を起こし辺りを見回すアリストさん。
アリアさんの方を向くと、ピタリと動きを止めた。
「……美しい」
アリアさんを凝視しながら感嘆の声を漏らすアリストさん。
……どうも打ち所が悪かったらしい。
「もしや天使? そうか。私はイオリさんに負けて死んでしまったのですね」
「いや、生きてますよ」
突っ込む俺。
「あ、イオリさん。いたんですか」
「居ましたよ」
「では、天使じゃないとするとあなたは?」
「私はアリアと言います」
「アリア……美しい名だ」
この人は本当に何を言ってるんだろう。
「ど、どうも」
「して、どうしてあなたはこのような場所に?」
「 国王の命を受け、世界征服を企てているシュバルツナイツ一味を捕まえに来ました」
「ハハ、アリアさんまでそのような冗談を言うんですね」
「冗談ではないんです」
「本当ですか?」
アリストさんがアリアさんに確認を取る。
「はい。王都に行けばわかります。残念ですがあなたはイリマに騙されていたんです」
「……確かに今思えば怪しい部分はありました。そうですか自分は世界征服を手伝わされていたのですね」
いや、徹頭徹尾怪しかったと思うけど。
「過ぎた事は悔やんでも取り返せません。だからもし本当に悔やんでいるのなら今後は誰かの役に立つ事をしてください。あなたを待ってる人はたくさんいます」
「なんとお優しい方だ。貴女は心まで美しい。それでアリアさん次はどちらに向かいますか?」
「どうしてですか?」
「イリマ様を捉えに行くのでしょう? お供させてください」
「え、いやそれは大丈夫です」
「ぐはぁ!」
無碍にされ甚大なダメージを受けるアリストさん。
それでもすぐに復活した。
「な、なぜですか? 私はそれなりに腕も立ちますし、貴女をお守りできます!」
「だって必要ないですし……」
「必要ない!? つまり他に守ってくれる人がいるのですね? 誰ですか!?」
守ってくれる人がいるなど一言も言ってないというのに、アリストさんはそれが誰か教えてくれるまでテコでも動かないといった感じだ。
助けを求めるように一瞬アリアさんが俺の方を見た。
それがいけなかった。
アリアさんの目の動きを見たアリストさんの勘違いがさらに加速する。
「イオリさんですか? そうなんですね!」
「え!? いやっ」
「間違いないです! 確信しました!」
凄い速さでこっちに向き直り、俺を見る。
「イオリさん! 次は絶対に負けません! 」
「はぁ」
「こうしてはいられません。修行をしに行かねば!」
そう言うとアリストさんは明後日の方向へ走り去ってしまった。
「追いかけなくていいかしら?」
「いいんじゃない。変わった人だけど悪い人ではなさそうだし」
「でもイオリ、あの人に狙われることになるのね」
「人ごとみたいに言わないでよ。アリアさんのせいじゃん」
「ふっ……私も罪な女ね」
「まったく」
照れ笑いをするアリアさん。
まあでも俺でよかったかもしれない。
だって入間を倒せば元の世界に帰るから狙われる事もないだろうしね。
ドドドド!
何かと思えばアリストさんがすごいスピードで戻ってくる音だった。
「罪を償うのが先でした。イオリさん。私を王都まで連れて行って下さい」
……律儀な人だ。




