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異世界転移!  作者: 中原
1章 異世界転移
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3話

歩き始めて数10分。体が急に重くなってきた。目眩もする。

 そんなに歩いてないのにどうしたんだろう。


「大丈夫?」


 自分の異変に気がついたアリアさんから聞かれた。


「ちょっと目眩が……」


 ここに来る前も目眩がしたが、どうもそれとは種類が違う。

 今のはマラソンを走りきった後、疲れで目が眩んでいるような感じだ。


『少し休憩した方がいい。おそらく魔力を使ったことによる反動だろう。初めて使うのに盛大に使ったから体がついて行かないのだろう』


 よくわからないけど、初めてするスポーツの後、決まって筋肉痛になるようなものだろうか。

 まだ街は見えないし、少しだけ休憩させて貰おう。


「ごめん。ちょっと休憩していい?」

「ええ。そうしましょう」


 彼女から了承を得たので、俺は地面に腰を下ろした。

 丁度いいタイミングでグー、とお腹が鳴った。

 この世界が何時かはわからないが、地球では昼前くらいのはず。

 俺はリュックのジッパーを開け中から弁当を取り出した。


「何それ?」


 アリアさんが隣から弁当を物珍しそうに覗き込んできた。


「弁当だよ」

「へー、随分小洒落た容器に入れるのね」

「そう?」


 飾りっ気のないプラスチック製の弁当箱なんだけど。

 俺は弁当のフタを開ける。

 今日のおかずはウィンナーに卵焼き、ほうれん草とベーコンの炒め物だった。

 それに俵形のおにぎりが3つ。


「いただきます」


 食べようとして、横からの視線を感じてやめた。

 隣を向くと彼女が目を輝かせながら弁当を見ていた。


「うわぁ……なんかおいしそうね」


 俺にとっては見慣れた弁当だけど、アリアさんにとっては違うらしく興味津々だ。


「……食べみる?」


 自分だけ食べるのも気が引けたので、一応聞いてみた。


「いや、別に食べたいわけじゃないのよ。でもそうね。異世界の食べ物は気になるわね。いただこうかしら」


 アリアさんが選んだのはウィンナーだった。

 ヒョイと口に入れる。

 1回噛むごとにみるみる笑顔に変わっていく。


「おいしー!」


 感嘆の声をあげ、蕩けた顔になった。


「こっちも美味しいのかな」


 そう言っておにぎりに手を伸ばす。

 また美味しい! と感激し、さらにどんどん口の中に入れて行く。


「ちょ、ちょっと……」


 俺の制止も虚しく、弁当はどんどん彼女の口の中へ吸い込まれていく。

 アリアさんの手と口の動きが止まったのは弁当が空になったあとだった。

 俺は空の弁当箱を見て、次に彼女を見て言う。


「……山賊?」

「誰が山賊よ!」


 俺は無言で空の弁当箱を見せた。


「しょ、しょうがないじゃない! 美味しかったんだから!」

「そこで逆ギレ!?」

「わかったわよ! 街についたら私がごはん作るからそれでいいでしょ!?」

「え、料理できるの?」

「もちろん。それとも私の作る料理じゃ不満かしら」

「別に不満はないけど……」

「だったらいいわね。この話はコレで終しまい! 充分休憩もできたでしょ。そろそろ行きましょう」

「そうだね」


 この世界の料理を食べてみたかったので折れる事にした。

 目眩も良くなり、俺たちは再び歩き始めた。

 10分ほど歩いたところで、アリアさんが


「あれが私の住んでいる街よ。と言ってもここからじゃ壁しか見えないわね」


 と、指差した。

 城塞都市ってやつかな。街全体が高い壁に囲まれているようで中が全く見えない。


「へー。凄い高い壁だね」

「凄いでしょ? あれ1人で作ったのよ」

「1人で!? どうやって?」

「魔法でよ」

「魔法!?」


 やっぱりこの世界はそういうファンタジーな世界なんだ。


「もしかしてアリアさんも魔法使えるの?」

「ええ」

「見せて貰ってもいい」

「別にいいけど……」


 アリアさんが手のひらを上に向けると、小さな氷の玉ができた。


「おお!」

「もっと水があれば大きな氷を作れるんだけど、ここではこれが限界ね」

「凄い。本当に魔法が使えるんだ」

「そんな珍しいものではないと思うけど」

「こっちではそうかもしれないけど、俺がいた世界には魔法なんてなかったからすごく珍しいよ」

「魔法がない? それってかなり不便じゃない?」

「そうでもないよ。代わりに科学が発展していたから」

「へー」


 さらに街に近づくと街の様子がわかって来た。

 ここから見る限り、入り口は1つで跳ね橋を渡らないと街の中にはたどり着けないようになっていた。

 戦争中とかには橋を吊り上げ、城門を閉じるのだろう。

 今日は橋は掛かっているし、門も開いていた。けれど門兵がいて誰でもは入れなさそうだった。


「門兵いるけど、俺入れる?」


 自分で言うのもなんだが、この格好は不審者に見えると思う。


「そうねえ、通行証を発券すれば通れるけど、身分を証明できるものはないのよね」

「学生証ならあるよ」


 俺は学生証を見せる。


「向こうの世界のが使えると思うの?」


 ほんの冗談のつもりだったのに、厳しい目で言われた。


「ですよね」


 俺は学生証を仕舞う。


「でもどうしよう。商人には見えないし……」


 アリアさんは俺をじっくり見て作戦を考えているようだ。

 と、何か思いついたようで顔を明るくした。


「あ、いい事思いついた!」

「ホント?」

「ええ。とりあえず門兵に顔を見られないよう俯きながら歩いて」

「わかった」


 作戦に自信があるようで、アリアさんは自信満々だ。

 俺はよくわからないまま言われた通り俯いたまま跳ね橋を渡り城門に近づく。

 アリアさんが門兵に話しかける。


「通ってもいいかしら?」

「はい。アリアさんは大丈夫ですよ。ですがそちらの方は……」


 やはりと言うべきか、門兵は俺を見て難色を示した。

 さて、アリアさんは一体この場をどう切り抜けるのだろう?


「ああ。彼は私が捕まえた山賊の一味よ」


 (ど、どういう事?!)


 頭を下げたままアリアさんに小声で聞く。


 (作戦よ。いいから話を合わせて)


「山賊の一味ですか?」

「ええ。直接引き渡したいから街に連れて行きたいんだけどダメかしら」


 まさかアリアさんの作戦ってのがこんなのだったなんて。

 商人に見えないように山賊にも見えないと思うけど。

 どうなることかと内心ハラハラしながら判決を待つ。


「なるほど。そういうことでしたらどうぞ」


 認められた。

 よかった……のか? 山賊に見えるなんて素直に喜べない。


「ありがとう。さ、行くわよ」


 俯き、門兵に顔を見られないようにしながら歩いて行く。


「ほら。うまくいったでしょ?」

「うん。よかった。けど……」

「けど?」

「本当の山賊は俺じゃないのに……」

「私だって違うわよ!」


 なんて会話をしながら門の中を通り抜け、街の中に入る。


「おお……」


 異世界の街を目の当たりにして感嘆の声を漏らす。

 地球より青く澄んだ空。それに映える純白の家々が規則正しく並んでいる。

 日本では絶対に拝むことのできない景色だ。


「綺麗な街だね」

「そうでしょ。私も気に入ってるわ。けど、似たような家が多いから始めのうちは迷うのよね」

「確かに。覚えられるかな」

「迷ったら街の人に聞けばいいわ。私の家なら結構な人が知ってるし」

「へー。そんなに有名なんだ」

「ええ」


 そういや門兵の人も知ってたみたいだし、有名人なのかも。

 しばらく歩いていると、家に着いたらしくアリアさんは足を止めた。


「ここが私の家兼事務所よ。依頼もここで受けてるわ」

「へー、ここが」


 やはり真っ白な家。

 他の家と外観に大きな違いはないけど門から近いし、覚えれそうだ。


「ちょっと散らかってるけど、気にしないで」


 謙遜を言いながらアリアさんがドアを開けた。


『これは……ヒドイな』


 剣が呟いた。

 散らかってるというのは謙遜じゃなかった。

 玄関から奥へと続く通路には、物が壁に沿ってこれでもかと置かれていた。

 冬の豪雪地帯で見られる雪の壁を思い出したほどだ。

 これは“ちょっと散らかってる”の範疇ではないよね。

 これからお世話になるから滅多な事は言えないけど。

 でも、質問ぐらいしてもいいよね。


「事務所も兼ねてるって事は、ここで依頼も受けてるんだよね?」

「ええ、そうよ」

「てことは、依頼主さんもここを通るんでしょ」


 俺は物の壁を見ながら尋ねた。


「いいえ。入らないわ」

「そうなの?」

「ええ。流石にこの中を通すわけには行かないでしょ。だから家に入れないで済ませる努力をしてるわ」

「片付ける努力をしようよ!」


 ドヤ顔で言うアリアさんに突っ込んだ。

 努力する方向を完全に間違えている。

 もしかしたら凄くダメな人に着いてきてしまったのかもしれない。


「だから感謝しなさい」

「何に?」

「この家に入れた事に。普通は入れないんだから」

「あ、はい……」


 ちっとも嬉しくないです。

 口には出さず物が左右に積まれた廊下を歩き、次の部屋へ。

 隣の部屋は幾分片付いていてカビっぽさはなかった。

 長方形の机とキッチンがあるからここは食事を取る部屋なんだろう。


「適当に座ってて」

「手伝う事ある?」

「温めるだけだから大丈夫よ」

「わかった」


 俺は剣を床に置いて椅子に座り、料理が出てくるのを待つ。


「お待たせー」


 しばらくするとアリアさんがご飯をお盆に乗せやってきた。

 俺の前に料理を並べていく。

 紫色したスープとトゲトゲした魚の煮付け。

 あまり食欲をそそられる見た目ではないけど、思い切って魚を1口、口に入れた。

 ズバッと頭に雷が落ちたくらいの衝撃が体を突き抜けた。

 な、何なんだこの味は。尋常じゃないほど辛い。もはや辛いを通り越して痛い!

 俺は何か飲む物を、と思いスープを口に含んだ。

 辛っ! 痛っ!

 スープも同じ味じゃん!


「ど、どうかな?」


 彼女は不安そうな瞳でこちらの様子を伺う。

 殊勝な女の子に向かってマズイと切り捨てるほど俺のメンタルは強くない。


「お、おいしいよ」


 額に脂汗を滲ませながら声を絞り出す俺。


「ホント!? よかった」


 ホッと一息吐きし、彼女は笑顔を見せた。

 ドキッ。その笑顔に俺の心臓が跳ねた。

 俺は嘘がバレないよう料理を一気に口の中へ放り込む。


「……ご馳走様」

「まだお代わりもあるわよ!」


 満面の笑みで死刑宣告をしてきた。

 毒を食らわば皿までだ。


「……頂きます」


 大量に出てきた料理を死ぬ思いで食べ切った。

 何故か食べる前より体力が減った気がする。


「よく食べたわね。そんなに美味しかった?」


 コクリ。

 声を出す体力も残っていない俺はどうにか首を縦に動かした。


「そっか。味見したけど、とてもじゃないけど食べれる味じゃなかったから困ってたのよね。捨てるのは食材に悪いし。異世界の人は味覚が違って助かったわ」

「失敗作だったの!?」


 それならマズイと言っても傷つける事はなかったんじゃ……

 やはり人間本音で生きるのが一番だな。


「ていうか料理失敗してたんだ。上手いんじゃなかったの?」

「あら私、料理が上手いなんて1言も言ってないわよ。できるって言っただけで」


 アリアさんは胸を張ってそんな事を言った。

 これはできると言えるのだろうか。

 ここにいる間は家事は俺がやろう。そう心に誓った。

 お腹がいっぱいになると、まだ太陽は高い位置にあるというのに眠気が押し寄せてきた。

 異世界に来たり、洞窟に穴を開けたり、虎のような魔物と戦ったりと忙しかったからな。


「あのさ俺が使っていい部屋ってある?」

「部屋ね。物置ならあるけど今はとても住める状態じゃないし……」


 そんなにヒドイ状態なんだ。


「アリアさんはどこで寝てるの?」

「私は上の部屋だけど……何? 私が寝たら何かする気!?」

「ち、違うよ! アリアさんがここを使わないんなら、ここで寝ようと思っただけだよ」

「そう言う事。それは別に構わないけど、ここでいいの?」

「うん。野宿するより100倍快適だよ。ソファーもあるし」


 正直今日はすぐに寝たい気分で、今から部屋の掃除をする気にはなれない。


「ならどうぞ」

「ありがとう」


 お礼を言って俺はソファーの上で横になった。

 横になると、すぐに眠気が襲って来て意識は遠くに追いやられて行った。

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