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異世界転移!  作者: 中原
10章 水の剣
44/67

5話

「これはよくない状況です」


 伊織とリヴァイアサンが戦っているところを見ながらジルが呟く。


「どうやら水中では炎も土も上手く使えないみたいです」

「それかなりマズイじゃない!」

「ええ。モローさん、浮き輪はありますか?」

「ああ、あるぞ」


 モローは操舵室から浮き輪を取り出しジルに渡した。


「ありがとうございます」


 浮き輪を受け取ったジルはそれを持って海に飛び込む。


「待って! 私も行くわ!」

「大丈夫です。アリアさんはモローさんをお願いします」

「でもイオリがピンチなんでしょ?」

「大丈夫ですから」

「私が泳いでジルを連れて行く方が速いわ」

「来ないで下さいっ」


 ジルが珍しくというより初めて語気を強めた。


「え……?」

「すみません。けどもし水中でアリアさんが襲われれば、助けれる保証はありません。ですから船の上で待っていてください。お願いします」


 暗に力不足というジルの言葉に、アリアは反論する事ができなかった。


(そうか。私が行っても足手まといにしかならないのか……)


「ヤツに近付くなら船で行った方が速いぞ!」

「大丈夫です。船が破壊される心配があるので。アリアさん、モローさんをお願いします」

「……わかったわ」


 アリアはギュッと自分の手を握り、どうにか振り絞って言った。

 その言葉を聞き、ジルは1人海に飛び込みバタ足をしながらゆっくりと進んで行く。


「クソッ!」


 モローは自分の不甲斐なさに苛立ちを覚え、両手を手すりに振り下ろした。

 アリアは小さくなって行くジルの背中をジッと見つめていた。

 あまりの不甲斐なさに涙が溢れそうになる。


「……っ!」


 パンパン!

 呆然と立ち尽くしていたアリアは、自分の両頬を叩いた。


(戦闘では役に立たないけど、他に2人の役に立てる事がきっとあるはず!)


 アリアは2人の役に立てそうな事はないか考え、探す。


(きっと何かあるはず……きっと……)


 そんなアリアの目に飛び込んで来たのは、水の剣だった。

 それを見た瞬間、アリアは自分がすべき事がわかった気がした。

 アリアは瞳の端を擦り、モローに叫ぶ。


「モローさん! あの岩場に船をつけて!」

「え?」

「お願い!」

「あ、おう……」


 気圧されたモローはアリアの言う通り船を動かした。

 近づくと、アリアは船からジャンプし岩場に降り立った。


「モローさんは船と一緒に離れてて」

「大丈夫か? あんた1人で」

「ええ。私はレベル4よ」

「……そうか。頼んだぞ」


 船が遠ざかるのを待ってからアリアは岩場に刺さった剣を掴んだ。

 すると海水が津波となりドッと押し寄せて来た。

 やっぱり扱えないのね。でも!


「このくらいじゃ私は負けないわよ!」


 アリアは剣を握った手を離さない。





「イオリさん! 無事ですか!?」


 息を吸うため海面に出ていると、浮き輪をつけたジルさんがやってきた。


「うん! まだ大丈夫!」


 そう。まだ、だ。

 体はリヴァイアサンの衝撃波にやられ裂傷だらけだし、水中ではうまく動けず体力は減って行っている。


「魔物はどこですか?」

「あそこ」


 水面に見えている影を指差した。


「水中からの攻撃ですか。厄介ですね」

「せめて顔だけでも水面に出てくれれば対処のしようがあるんだけどね」

「泣き言言ってても仕方ありません。今はこの状況で勝つ方法を探しましょう」

「だね。とりあえず潜ろうと思うけど大丈夫?」


 泳げないジルさんに俺は聞いた。


「な、泣き言言ってても仕方ありませんから……」


 泣き出しそうな声をジルさんは出した。


「オッケー。潜るから俺に捕まってて!」

「はい!」


 ジルさんは浮き輪を外し、俺に捕まって海の中へ。

 そのタイミングでリヴァイアサンは攻撃を仕掛けてきた。


「ジルさん!」

「はい!」


 ジルさんが光線を出し応戦する。

 2つの攻撃がぶつかり合う。

 互角。両者の威力は互角だった。


「次いきます!」

「お願い!」


 間髪入れずジルさんは光線を撃つ。

 当たれ!

 しかしリヴァイアサンは長い身を捩りそれを躱した。


「躱されましたか。ならコレならどうですかっ」


 今度は無数の光線をリヴァイアサンに放った。

 これだけの数があれば身を捩ろうと全てを避けるのは不可能だ。

 予想通りかなりの数がリヴァイアサンに命中した。

 けれど。


「……ほぼ無傷ですね」

「みたいだね」

「レベル4クラスの魔物なら致命傷になるんですけど……。ゴーレム並みの硬さがあるみたいですね」


 それでいてゴーレムより素早いからタチが悪い。


「危険だけど近付いて攻撃するしかなさそうだね」

「それしかないですね」


 次の作戦が決まりリヴァイアサンに近付こうと画策していると、不思議な事に向こうから近付いてきた。


「手間が省けましたね」


 ある程度距離が迫ったところでジルさんが光線を出す。

 リヴァイアサンはそれをまたしても器用に躱した。


「危ない!」


 俺はジルさんを背中に隠し、炎の剣を構えた。

 しかしリヴァイアサンは襲って来ず、俺らをスルーしてそのまま泳ぎ去った。

 どういうことだ?

 状況を確認するため水面へ上がる。


「っは!」

「ぷはぁ!」


 水面から顔を出し、ジルさんと同時に空気を吸う。

 リヴァイアサンは?

 俺はすぐに位置を確認する。

 リヴァイアサンが泳いで行く先にはアリアさんが岩場で剣を抜こうとしているのが見えた。

 リヴァイアサンの狙いはアリアさんか!


「アリアさん! 逃げて! 魔物がそっちに向かってる!」


 ありったけの力で叫んだが聞こえないのか、アリアさんは逃げることも剣から手を離すこともやめない。

 追いつくはずないとわかっているが、ジルさんを抱えたまま泳ぎ始めた。


「イオリさん! 私に捕まって下さい!」

「どうして!?」

「いいから速く!」


 訳がわからないままジルさんに捕まった。

 俺が捕まるとジルさんは幅広い光線を手から後方に出した。

 その反動で水面を飛ぶように進んでいく。

 これは俺が泳ぐより全然早い。

 少し進んだところで再び叫ぶ。


「アリアさん剣から手を離して逃げて! 魔物がそっちに向かってる! 」

「イヤよ!」


 アリアさんからとんでもない答えが返って来た。

 そして一際大きな波がアリアさんを打ち付けた。


「アリアさん!」


 しっかりと剣を掴んでいて波に攫われてはいなかった。

 よかった、と胸を撫で下ろす。

 しかし何度となく波がアリアさんを打ち付けていて、楽観視できる状況ではない。

 しかもさらなる危険が迫っている。

 リヴァイアサンはアリアさんのすぐそこまで来ている。


「アリアさん!」


 何度目の呼びかけだろうか。ようやくアリアさんが剣から手を離した。

 よし。あとは剣から離れれば安全だ。そう思ったが、アリアさんは岩場を動かない。


「私が囮になるから! 魔物が水面から顔を出してる時に攻撃して!」

「何言ってんの! 危ないって! そんなのしなくていいから速く逃げて!」

「危ないのは百も承知よ! でも水中じゃ勝てないでしょ!?」


 それはそうだけど……だけど危険すぎる。

 そうこうしているうちにリヴァイアサンは岩場に到着し、長い首を水面から出した。



「シャアアアアア!」


 リヴァイアサンがアリアさんを威嚇する。


「何よ。やる気?」


 アリアさんが岩場に出来た水溜りに手をつけ凍らせる。


「言っとくけどただじゃやられないわよ」


 氷柱を作り出しリヴァイアサンへ投げつける。

 リヴァイアサンは首を振るだけでそれを砕いた。


「こんな攻撃じゃ全然ダメってわけね……」


 今度は氷柱を5本、自分の周りに展開し、一斉に射出。

 全弾リヴァイアサンにヒットしたが、目立った傷は見られない。


「ちょっと硬すぎでしょ……」


 逆にリヴァイアサンは口から水の衝撃波を吐き出した。


「くっ!」


 アリアさんは飛び込み前転で攻撃を避ける。

 元いた場所の岩が弾け飛ぶ。

 まだリヴァイアサンは口を開けている。もう一度衝撃波を出すつもりだ。

 しかしアリアさんは再び氷柱を作りだした。

 効かないとわかっているのになぜ?

 俺の疑問を他所に、アリアさんは氷柱をリヴァイアサンへ放つ。

 放たれた氷柱は、リヴァイアサンの大きく開けた口の中へと吸い込まれて行った。


「グャアアアアア!」


 外は硬いが中は柔い。

 痛みに悲鳴をあげ、頭を左右に振るリヴァイアサン。

 しかし致命傷とまでは行かなかったようで、立ち直るとアリアさんに向け水の衝撃波を出した。


「くっ……!」


 氷柱を作り出し衝撃波にぶつけた。

 氷が砕け散り欠片が飛散する。

 アリアさんは破片が目に入るのを防ぐため、手で顔を覆いガードした。

 氷の破片がアリアさんの皮膚を切り裂く。

 あと少し。あと少し耐えて!

 今度は隙を作らぬよう、リヴァイアサンが小さな水弾を連続で吐き出す。

 小さいが威力は十分。被弾した岩場がどんどんめくれて行く。

 アリアさんは岩場を飛び回って水弾を避けつつ、氷柱で攻撃する。

 だけど敵も口の中に入らないよう首を上手く使って氷柱を払いのける。

 このままじゃ不利だ。岩場がめくれ徐々にアリアさんは逃げ場を失って行っている。

 それを感じてかアリアさんは一気に後ろに下がると水の剣に触れた。

 当然、波がアリアさんに襲いかかる。

 しかしその波を使って人よりも大きな特大の氷柱を作り出した。

 一気に勝負をつける気だ。

 それを見てリヴァイアサンも大きく口を開け螺旋状の衝撃波を放出する。

 氷柱と衝撃波が激しく衝突し合う。

 衝撃波により氷柱は割れて行く。


「くっ……あ……」


 氷柱は砕け散り、奥にいたアリアさんも衝撃で吹き飛んだ。


「アリアさん!」

「……」


 返事がない。衝撃波を喰らい気絶したみたいだ。

 ヤバイ! リヴァイアサンはすぐそこまで迫っている。


『イオリ! 自分を使って!』


 土の剣に言われ、アリアさんのいる場所が岩場だと思い出した。

 ここまで遠く離れた場所で岩壁を作った事はない。それでもできると信じ剣を振るった。

 届け!

 岩壁が出現し、アリアさんを守る。

 その壁にリヴァイアサンが頭突きをする。

 鈍い音が響くが、岩壁は壊れない。だがそう長くは持たないだろう。

 俺は岩場から多数の土槍を作り攻撃する。

 リヴァイアサンは岩場から遠ざかりながら衝撃波を吐き出し、土槍を砕いて行く。

 追撃をしたいがリヴァイアサンは土槍の届かない安全圏まで下がった。

 そこで大きく口を開けた。

 力を溜めて壁ごとアリアさんを吹き飛ばす気だ!


『イオリ!』


 今度は炎の剣の声。

 そうだ! リヴァイアサンは首を水面から出している。

 今なら炎の剣も使える!


「はあッ!」


俺は炎の剣を振り、巨大な衝撃波をリヴァイアサンに放った。

 首に命中し、上体が揺らいだ。

 リヴァイアサンがゆらりとこちらを向く。


「キシャーーッ!」


 邪魔をするなと威嚇。

 邪魔なのはそっちだ! そこにいたらアリアさんを助けられないだろ!

 俺は次に備え炎の剣に力を溜める。

 向こうも俺を殺そうと口を開けて力を貯めている。

 俺とリヴァイアサンとの距離がどんどん縮まって行く。


「すいません。あとはお願いします」


 リヴァイアサンとの距離が十数メートルに迫ったところでジルさんは休憩に入った。


「ありがとう、ジルさん。ここまで近付けば大丈夫だよ」


 衝撃波は剣から離れるほど衰える。

 そして剣に近いほど威力を発揮する。

 それは、こないだのゴーレム戦でよくわかった。

 だったら衝撃波を絶え間なく出し続けたらどうなる。

 多分威力を保ったままなのでは?

 現にジルさんの光線は距離があっても衰えない。

 俺は剣先をリヴァイアサンに向け、敵と同じように力を溜める。

 炎の剣が熱を帯びながら赤く輝き出す。

 もっと! もっと熱く!

 俺はさらに力を集中させる。


「はぁああああっ!」


 炎の剣から光だけでなく火の手が上がった。


「いっけぇええええっ!」


 俺は剣先からありったけの力を込めて炎を出す。

 燃え盛る光線がリヴァイアサンへと一直線に進む。

 対するリヴァイアサンも今までより数段大きな螺旋状の衝撃波を吐いた。

 海の真ん中で2つがぶつかる。

 互角か? いや、若干俺の方が弱い。

 徐々にだが押され始めている。


「くっそ……っ」


 ダメか……?


「オラあああああ!」


 モローさんの威勢のいい声。

 船でリヴァイアサンに近付いたモローさんが、銛をリヴァイアサンに投げた。

 その銛がリヴァイアサンの大きな目玉に刺さる。


「グギャアアアア!」


 苦悶の声を上げるリヴァイアサン。

 衝撃波が途切れ、悶えるように首を振っている。

 今だ!

 残っている力を全て注ぎ込む。

 炎の衝撃波が螺旋状の衝撃波を押し返す。

 炎はそのまま真っ直ぐ進んでいき、リヴァイアサンの上半身を貫いた。

 上半身が吹き飛んだリヴァイアサンは水面に倒れ、泡となって消えた。


「っはぁはぁ……」


 学校で走ったマラソンの比じゃないほど疲れた。

 けど、まだ終わりじゃない。ここで休むわけには行かない。


「大丈夫ですか?」


 心配そうにジルさんから聞かれた。


「どうにか。岩場まで泳ぐからそのまま捕まっていて」


 力を振り絞り岩場まで泳ぎ、ジルさんと2人で上がった。

 土の剣で岩壁を元に戻す。するとアリアさんの姿が見えた。

 剣の横で気絶している。


「おーい、アリアさーん」


 俺は寝ているアリアさんの頬をペチペチ叩きながら呼びかける。

 アリアさんはゆっくりと瞼を開け、目を覚ました。


「ん……イオリ? あっ! 魔物は!?」

「倒したよ」

「そっか……私役に立てなかったわね」

「そんなことないよ。アリアさんがリヴァイアサンを引きつけてくれたから勝てたんだよ。それがなかったら負けてたかも」


 俺1人じゃとても倒せる相手じゃなかった。

 ジルさんにモローさん、そしてアリアさんがいてくれたから勝てたんだ。

 1人でも欠けてたら負けてた。


「本当は水の剣を使って華麗に勝つつもりだっだんだけどね」

「そうだったんだ。まあ結果オーライだね。でももうあんな無茶はしないでよ」

「無茶したのはジルでしょ。泳げないのに海に飛び込んだりして」


 アリアさんはジルさんに目をやった。


「それを言うならモローさんでしょう。魔物に船で近づいて銛を投げたりして」とジルさん

「何を言う。最初に無茶したのは小僧だろ。俺を助けるため海に飛び込んで」


 岩場に船を寄せて来たモローさんが言う。


「ふ……あはははは」


 俺らはみんなで声を出して笑った。

 どうやら無茶をしていたのは全員のようだ。

 無茶もみんなでするならいいかな? ちょっとだけそう思ってしまった。

 ひと笑いして、俺はまだ仕事が残っているのを思い出した。

 1人水の剣に近づく。


『炎の剣さんに土の剣さんも。お久しぶりです』


 落ち着いた大人の女性の声が聞こえた。


『よう! 久しぶり!』

『久しぶりだな』

『一応聞きますが、2人はどうしてこんなところにいらしたんですか?』

『世界の危機だ』

『そうですか……私たちが一堂に会するなどそれしかありませんか……』

『残念だがな。手伝ってくれるか?』

『もちろんです。ですが同調は誰にしましょう?』

『イオリでいいんじゃない?』

『だがイオリはすでに両手に剣を持ってる』

『確かに』

(じゃあ1本は口で持つとか?)

『絶対いやです』


 水の剣の冷たい声が響いた。


『俺も絶対嫌だ』

『自分も!』

(じゃあどうする?)

『クレスがこの場所を知っている以上ここに置いたままにするのは危険だ。とりあえず同調はせずに持って行こう。同調をどうするかは追い追い決めるとしよう』

『そうしましょうか』


 話がつくと、岩場から剣が勝手に抜け、俺の方へ倒れてきた。

 俺はそれをキャッチした。

 全てを終え、俺らは船に乗った。

 舵を握るモローさんの顔は晴れやかとは程遠い顔で、今にも消えそうなほど頼りない感じだ。

 リヴァイアサンを倒しても仲間のみんなが帰ってくるわけではない。

 敵討ちを果たしても残るのは虚しさだけなのかもしれない。


「……これからモローさんはどうするんですか?」

「さあな。これからの事なんて考えたことなかったからな」

「漁には出ないんですか?」

「出ない。というか出れないな」

「出れない?」

「言っただろ。俺はこの船に全財産つぎ込んだんだ。もう他の船を買う金なんて残ってないさ」


 そうか。仕事の報酬はこの船なんだ。

 けど剣が手に入った今、俺たちに船はもう必要なくなった。


「あのー……」

「言っとくが、報酬は要らないというのはなしだぞ」


 先回りされてしまった。


「お前さん達には本当に感謝している。その恩を返させてくれ。もし船が要らないというなら売って金にしな。それなら邪魔にならんだろ」

「……わかりました。この船はありがたくいただきます」

「ああ」

「でも、自分達はまだ旅を続けないといけません。そうなるとメンテナンスとかできないんですよね。船ってメンテナンスしないと悪くなりますよね」


 俺はモローさんの方を向く。


「というわけでモローさん、この船のメンテナンスをしておいてくれませんか?」

「ああ。それは別に構わ……」


 俺はモローさんの言葉を遮り続ける。


「勿論タダでしてくれとは言いません。自分たちが使う日までこの船、自由に使っていいですから。だから引き受けてくれませんか?」


 言うと、モローさんは目をパチクリさせた。


「いや、それくらい……」


 タダでやる、と言われる前に俺は言ってやった。


「まさか報酬は要らない、とは言わないですよね?」


 モローさんは口角を上げ笑った。


「……ああ。喜んで引き受ける! お前達が戻るまで最高のコンディションを維持しておく!」

「ありがとうございます」


 キラキラと宝石のように輝く海。それに潮風が鼻腔をくすぐった。





 一眠りしたアリアさんは、港に着く頃には1人で歩けるまで回復していた。

 しかしジルさんは未だスヤスヤと眠っているので、俺が抱えて陸に上がることに。

 疲れ切った俺たちを出迎えてくれたのは……


「やあ。また剣をゲットしたんだって? 随分強くなったみたいだね」


 クレスだった。


「ちょっと君らに用があるんだ。付いて来てくれる?」

「断る、と言ったら?」

「弱ってる人を痛めつける趣味はないんだけど仕方ないかな」


 クレスは手のひらに電気を集めた。

 バチバチっと稲妻のような火花が散る。

 満身創痍の状態でクレスと戦って勝てるはずはない。

 事実上、選択肢は1つだった。


「わかった。付いて行くよ」

「聞き分けがよくて助かった」


 俺らの会話を聞いてモローさんが身構える。


「あいつはお前達の敵か?」

「いいえ、違います。ちょっと会いたくない知り合いってヤツです。自分らの事は大丈夫なんで気にしないで下さい」


 モローさんを巻き込むわけには行かないのでそう言った。


「別に僕はイオリ君達を殺そうとか思っていませんから。安心していいですよ」


 クレスは毒気のない笑顔を見せた。


「……そうか」


 それでモローさんが信じたとは思わないが、退いてくれた。


「じゃあ行こうか。外に馬車を停めてある」

「わかった」


 俺たちはクレスの後をついて港を出た。

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