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異世界転移!  作者: 中原
10章 水の剣
43/67

4話

 5年前。スズイミの港は今よりも活気付いていた。



「どうだ! 凄え大物釣り上げたぞ!」


港に帰ってきた若い漁師が、獲物を吊るし上げ、自分と大きさを比較しながら言う。

 獲物の魚は人の3倍ほどの大きさだった。


「うわー、でけえな。この前のやつより大きくないか。なあ。モロー」


 大物を見上げながらベテラン漁師の1人、ビリーがモローに意見を求める。


「ああ。こっちの方がデカそうだ。よく捕まえたな」

「へへ! こんぐらい余裕よ!」


 褒められた若者は照れ隠しに鼻の下を掻いた。


「しかしこんな大物がこの辺りにいるとはな。一体どこで漁をしている?」

「いくらモローさんでもそれは教えられねえよ。商売敵でもあるんだから!」

「そうだぜ、モロー。若者が見つけた漁場を横取りしようなんてカッコ悪いぞ」

「そういう意味で聞いたわけじゃない。ただ……」


 言いかけてやめた。何を言ってもからかわれそうだったから。


「冗談だっての! そう深刻な顔するなよ」


 笑顔のビリーに小突かれた。


(……まあ。いいか)


 それからも若者達は大物を取って来た。

 ベテラン漁師達もそれに負けじと大物を取った。

 港がかつてないほど活気付いている時だった。

 事件が起きたのは。



 ある日、若い漁師の1人が血相を変えて港に乗り込んできた。


「助けてくれ!」

「どうした?」


 モローは青い顔をした男に尋ねた。


「仲間が魔物に襲われた! 船を壊されて海に落ちた!」

「何? それは本当か?」

「ああ! こんな嘘言わねえよ!」


 若者の表情は真に迫っていたので、演技ではないとモローは思った。

 何よりこんな嘘をつく意味がない。


「魔物の種類と数は?」

「1匹。種類はわかんねえ。見たことないやつだった」

「特徴は?」

「竜のように細長い体だった」

「大きさは?」

「馬鹿でかい。10メートルはあったと思う」


(10メートルある竜に似た魔物だと?)


「おーい、どうかしたか?」


 ちょうど漁から帰って来たビリーが2人の元へ船を寄せた。


「魔物に襲われて船が転覆したらしい」

「何!? 助けに行かないでいいのか?」

「もちろん行くさ。お前も来い。助けに行くぞ」

「了解!」


 若い漁師の案内で漁をしていた場所まで行く。


「ここを真っ直ぐ行った場所らへんで漁をしてたんだ」

「この辺って……」


 ビリーが言った。


「ああ。禁足地だ」


 その領域は、入ると生きては帰れないと漁師の間で伝えられ、禁足地とされている場所だった。


(やはりか)


 モローが漁場を聞こうとしたのはそれが理由だった。

 モローは睨むように若者を見た。


「禁足地には大きな獲物がいるんだ。それで……」


(最近、若者が大きな獲物を取ってきたのはここで取ってたからか)


 船はどんどん目的地へと進んで行く。


「あの辺りだ! あの岩場の近くで漁をしてたんだ!」

「どうだ。いるか?」

「いや、見当たらねえ!」


 3人が海面に漂う人がいないか、確認する。


「あっ!!」


 若い漁師が大きな声を出す。


「いたか!?」

「あ、アイツだ! 船を襲ったのは!」


 全員が若い漁師の方に移動する。

 その先には長い首を海面から出した怪物がいた。


「なんだアイツは……」


 長年漁に出ているモローやビリーですら見たことのない魔物。

 その魔物が口を大きく広げた。

 次の瞬間。

 魔物の口から大きな水弾吐きだされ、モローの視界は暗転した。







「……んで気がついたら俺は病院のベッドの上で、仲間達は死んだと聞いた。……要は俺の逆恨みさ。勝手に魔物のテリトリーに入って襲われた。そう考えるとヤツは何も悪くない。悪いのはこっちだ。わかってる。でもな、そう簡単に割り切れるもんじゃねえんだ」


 俺に大切な人を失った経験がないから、モローさんの胸中を推し量る事はできない。

 だから何も言えなかった。


「魔物退治はそういう理由だ。悪いな復讐につき合わせてしまって」


 復讐は良くない事だと思う。

 けど、俺にはそれがどう間違っているのか言葉にできなかった。

 アリアさんもバツが悪そうにして海を見ている。

 と、


「ん? あれ!」


 アリアさんが大きな声を出した。


「魔物がいた!?」と俺。

「いや、そうじゃなくて! あそこにあるの剣じゃない!?」


 俺はアリアさんの指差す先を追った。

 そこには海面から顔を出した岩に剣が突き刺さっていた。

 あの形には見覚えがあった。


「水の剣だ!」


 ここにあったのか。


「モローさん! あの岩場に船を寄せて貰っても……」


bモローさんの方を向くと、ワナワナと震えていた。


「モローさん?」

「この場所……間違いない。ここだ! あの魔物が出たのは!」


 モローさんが叫ぶ。

 なんだって? じゃあもしかしてモローさんの言う魔物って……


『剣を守るガーディアンだな』

(やっぱりっ!)


 あのゴーレム並みに強い魔物がいるって事か。


「モローさんの言う魔物ってアレですか?」


 騒ぎに気がついたジルさんが船の中から出てきて言った。

 そちらを見ると10メートルはありそうな、細く長い影が海面に映っていた。


『水の剣のガーディアン。リヴァイアサンだ』


 炎の剣が言った。


『気をつけろよ、イオリ。海の中は向こうの土俵だ。船から落とされないようにしろよ』

(わかった)


「出やがったな!」


 モローさんは船の運転を放棄し、銛のような武器を持って魔物のいる方へ。

 俺たちもそちら側に集まり、各自臨戦態勢に入った。

 各々、魔物が海面から顔を出すのを待ち構える。

 そんな俺たちを嘲笑うかのように、海中から船に体当たりしてきた。

 衝撃で船が大きく揺れる。

 俺たち3人は手すりを掴み海に投げ出される事はなかった。

 しかしモローさんは銛を持っていたせいで、手すりを掴めず海に投げ出された。


「どわっ!」

「モローさん!」


 モローさんが海に投げ出された。

 マズイ! まだリヴァイアサンは近くにいる!


「俺に構うな! お前らは船の上にいろ!」


 構うなだって? そんなの無理に決まってる。

 俺はモローさんを追い、すぐに海に飛び込んだ。

 素早くモローさんを捕まえる。


「アリアさん!」


 俺は海中からモローさんをアリアさんに向け、投げた。

 アリアさんは空中でモローさんを受け止める。


「ナイスキャッチ!」

「イオリ! 後ろ!」


 アリアさんに言われ、振り返る。

 後ろからは鋭い歯をした龍のような魔物が迫っていた。

 魔物が凶悪な口を大きく開く。


「っく!」


 俺は2本の剣をクロスさせ、噛みつかれるのを防ぐ。

 だが魔物は構わず俺を押し、海底へと連れて行く。

 このままじゃヤバイ。海の底まで連れて行かれる。

 俺は炎の剣に力を込める。

 剣が輝き出し、熱を持ち始めた。


「ギャアアア!」


 熱さに驚いた敵は悲鳴を上げながら離れて行く。


「逃すか!」


 俺はその隙を逃すまいと、炎の剣から衝撃波を出した。

 しかしそれはみるみる間に萎んで行き、離れて行く魔物には届かなかった。


『俺、炎だから』

(水の中じゃ使えないって事!?)

『使えないわけじゃない。ちょっと威力が落ちるだけだ』

(今ののどこがちょっとだよ!)


 8割減ぐらいだったよ!

 水中じゃ炎の衝撃波は使えない。

 でも剣そのものが使えないわけじゃない。

 また今度奴が近付いてきた時に力を溜めて切ればいいんだ。

 水面に上がって行きながらそんなことを考えていると、敵が離れた場所から口を大きく開くのが見えた。

 まさか違うよね。やめてよ。フリじゃないからね。

 ドンッ!

 魔物の口から螺旋状の衝撃波が吐き出された。

 フリじゃないのに!


「くッ!」


 俺は剣を振り炎で応戦する。

 相手の水弾の威力は幾分減らせれたが、何割かは喰らってしまった。

 痛っ!

 カマイタチでも食らったように全身に切り傷ができた。

 ……遠距離からの攻撃となると炎の剣は役に立たない。

 なら頼りになるのは。


(ねえ! 土の剣! 君って水の中でも使える!?)

『そうだね……海底の土を持って来れれば使えるよ!』

(わかった! 実質無理って事だね!)

『申し訳ない』

『しかしマズイな。リヴァイアサンは今のイオリに取って1番相性の悪い相手だ。俺も土の剣も水中じゃ力を発揮できない』

『だね』

(冷静に分析してないで一緒に倒す方法考えてよ!)

『『……』』

(何もないの!?)


 ここまで離れてしまったら船に戻る事は無理だし、だからと言って水中じゃ勝ち目はない。

 どうすればいいんだ!

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