3話
ギルドを出て地図の通り歩くと、古い小さな家からにたどり着いた。
「すいませーん」
俺はその家の扉を軽くノックした。
かなり古い家でとても大きな船を持っている人の住処とは思えない。
ここで合ってるよね、と不安になっていると、頑固そうな性格が顔にでた老人が出て来た。
「モローさんですか?」
「そうだが、お前らは?」
「自分達は仕事を受けに来たものです」
受付のお姉さんの指示どおり、ギルドでもらった紙を見せながら言った。
するとモローさんは紙を見るなり、舌打ちをした。
「チッ。ギルドにはレベル4以上のみを紹介してくれと言っていたんだがな」
「はい。彼女達はレベル4以上ですよ」
「はあ? お前達みたいな若造がレベル4の訳ないだろ」
蔑んだ目を向けられた。
「アリアさんとジルさん。見せてあげて」
先にアリアさんがカードを見せた。
それを見たモローさんは目を見開き、テンプレのような驚き方をした。
「レベル4だと!? こんな小娘がかっ」
「小娘とは失礼ね」
次にジルさんがカードを見せた。
するとモローさんはさっきよりもさらに大きく目を見開いた。
そのまま目が落ちるのではというくらいだ。
「レ、レベル5!? う、嘘だろ!? 偽物だよなっ」
「本物ですよ。偽物を作るなんてそんな面倒な事する人いませんよ」
少なくともジルさんはそうだろうね。
疑ぐり深いモローさんはカードを曲げたり、色んな角度から見たりして本物か確かめる。
「ほ、本物のようだな」
モローさんはカードをジルさんに丁寧に返した。
そして俺の方を向いた。
「お前さんは?」
まだカードを出していない俺は聞かれた。
「いや、俺にレベルはないです」
「なんだ。彼女らの世話人か」
「いえ、イオリさんの実力はレベル4はありますよ」とジルさん。
「まあいい。レベル5がいるんだ。さすがにヤツを倒せるだろう」
そう言ってモローさんは家から出てきた。
「着いて来い。退治に行くぞ」
言われるがまま後をついて行くと、船場に到着した。
船場にある船の中で一番大きな船にモローさんが乗り込んだ。
俺らもその船に乗る。
「行くぞ。振り落とされないようにしろよ!」
コックピットに入ったお爺さんが言うと、呼応するように強い風が吹いて船が動き始めた。
すぐに陸地は見えなくなり、360度オーシャンビューの景色に。
「うぅ……なんだか気持ちが悪いです」
そんなに大きく揺れるわけではないのに、ジルさんは船酔いしたらしい。
「モローさん。あとどれくらいで目的地に着きますか?」
「わからん」
わからん?
「この広い海の中、1匹を探すんだ。そう簡単じゃねえ」
ここに来てまさかのお知らせ。
海の中から1匹を探すなんて不可能に近くないか。
もしかしてこの仕事を受けたの失敗だった……?
「まさか今更断るとは言わんだろうな」
なんて考えていると、ギロリと鋭い眼差しで睨まれた。
「い、いえ。そんなことないですよ」
俺は笑顔で手を振りながら否定した。
だよね。そんな高価なものを簡単に譲るはずないよね。
「嬢ちゃん。船酔いしたなら中で寝てな。寝てたほうがなんぼか楽だぞ」
「……そうします。イオリさん。魔物が現れたら教えてください」
「わかった」
ジルさんは船の中へと引っ込んで行った。
そう言えば目的の魔物ってどんな奴なんだろう。紙には近海の主としか書いてなかったけど、ジルさんがいなくても勝てるくらいの魔物だろうか。
「目的の魔物ってどんなですか?」
「体長10メートルを超す巨大な魔物だ」
10メートル超えの魔物か。それは手強そうだな。
「10メートル超えの魔物ですか? 聞いたことないわね……なんて言う魔物かわかります?」
「わからん。長年海に出ているが、見たことない魔物だった」
「そうですか。突然変異とかかしら……?」
名前すらわからない大型の魔物か。しかもどこにいるかもわからない。
かなり厄介な仕事を引き受けたかもしれない。
結局その日は目的の魔物は見つからず、何の成果も得られなかった。
そりゃあそうだよね。海は広いもん。
「うぅ……明日も船に乗るんですね」
船酔いするジルさんは既に明日が憂鬱なようだった。
「ごめん。けど明日も付いて来てもらうよ」
魔物の強さがわからない以上ジルさんは必要だ。
「わかっています。寝てれば大分いい事もわかりましたし、明日は最初から寝てます」
「うん、そうしてて。でも、魔物が出て来たらちゃんと起きてよ」
「善処します」
そんな感じで何もなく1日が終わった。
そして次の日もその次の日も何もなく、成果があげられないまま数日が過ぎた。
この広い海を探すんだから魔物が見つからないのは仕方ない。
ただ気になるのは、ここまでクレス達の妨害が何1つない事。
まだここに来れていないのか、それとももうここにある剣を取ってしまって撤退したのか。
後者なら速く次の剣を探しに行かなければならないが、それを確かめる手段はない。
なのでまだ剣を取っていない可能性を信じ、今日もモローさんの船に向かった。
モローさんは既に船に乗っていて、いつでも出発できるようスタンバイしていた。
「来たか。行くぞ」
俺らが乗ったのを確認して船が動き始めた。
船は凄い速度で港を離れて行く。
他の船と比べて段違いに早い。
「いい船ですね」
船の良し悪しがそうわかるわけではないが、ここ数日乗っててそう思う。
大きいし、速いし。ジルさんは船酔いするみたいだが乗り心地もいい。
「だろ。何せ全財産叩いて買ったんだからな」
全財産……?
「じゃあ報酬の船ってもしかして……」
「そうだ。この船だ」
「ええ!」
まさかそんな大切な船が報酬とは知らずに、俺は素直に驚いた。
「なんだ? 不満でもあるのか」
「不満というか、いいんですか? そんな大事な船を貰って」
「ああ。俺はアイツさえ倒せればそれでいいからな」
「アイツっていうのは退治しに行ってる魔物の事ですよね?」
「そうだ」
それだけの覚悟という事は何かあったのだろう。
俺が何も言わないでいると、アリアさんが聞いた。
「何かあったんですか?」
「……」
モローさんは閉口した。
「は、話したくないような事ならいいんですっ」
口をつぐんだモローさんにアリアさんは慌ててそう言った。
「……まあ別に秘密ってわけじゃねえし、この街の奴らはみんな知ってるからな」
一呼吸置いて、モローさんはゆっくりと話し出した。
「魔物に……仲間を殺されたんだ」




