2話
「皆さん。スズイミが見えて来ましたよ」
御者さんの声を聞き俺は窓から顔を出した。
やっと目的地に到着だ。
「ここまでありがとうございました」
「どういたしまして。君らも気をつけてね」
「はい!」
お世話になった御者さんに別れを告げ、俺たちは街の中に入った。
スズイミはカイナに比べるとかなりオシャレで、映画のセットのような街並みだ。
道路が石畳みだったり、広場には大きな噴水があったりした。
『スッゲエな! メッチャオシャレじゃん! いやーたまには外に出て見るもんだな!』
『うるさいぞ。少しは落ち着け』
炎の剣は素っ気ない感じを出そうとしているが、どこか嬉しそうだ。
そりゃそうか。なんせ2人は1000年振りに会ったのだから。
『いやこんなん落ち着いてられないよ! やっぱり進歩してるんだな』
『それはな。だからお前も少しは進歩しろ』
『それは無理!』
仲良いな。
俺らは一通り街を散策してから、宿屋に入った。
俺は部屋の床の上に地図を広げる。
「次の剣があるのはここなんだよね」
俺は海岸沿いにある印を指差す。
「そうよ」
「ここさ。海じゃない?」
「そんな訳ないでしょ」
アリアさんは地図に目を近づけ、じっくり見始めた。
地図から目を離し、コッチを向く。
「イオリ」
「何?」
「コレ、海に印あるわよ」
「でしょ?」
アリアさんも認めた。
「じゃあどうします? 海を泳いで行きます?」
「それはちょっと危険じゃない? 海の魔物に襲われたら逃げれないわよ」
「そうですね。私、泳げませんし」
「元からダメじゃない!」
わかってはいたが、泳ぐのはなしだな。
「どっかで船とか借りれないかな?」
「海沿いの街だし船はあると思うけど借りれるかしら」
「聞くだけ聞いてみようか」
「そうね」
船乗り場に行く事が決定した。
「あ、船乗り場に行くんですか? だったら情報が来るかもしれないんでここで待っときますよ」
「はいはい。わけわかんないこと言ってないでジルも行くわよ」
「うう。長旅で眠たいのにぃ」
馬車の上で寝てたじゃん、と俺は思った。
「ダメだ」
「そういう観光的な仕事はしてないんだ」
「悪いが他を当たってくれ」
船場にいた漁師さん達に手当たり次第聞いて回ったが断られ続けている。
「やっぱりそうそう貸してくれないわね」
「そうだね」
そりゃそうか。商売道具だもんね。
見ず知らずの俺たちに貸してくれるはずないか。
「船が借りれないとなると買うしかないね。船っていくらくらいするの?」
「ピンキリですね。手漕ぎボートでいいなら今あるお金で買えると思いますよ」
「でも手漕ぎボートで魔物に襲われたら一溜まりもないわよ」
「じゃあやっぱり大きな船じゃないとダメか」
「大きな船となると今のお金じゃ全然足りませんね」
「ならお金を稼いで買うしかないか……」
「陛下に連絡すれば買ってくれると思いますよ」
「でもそれだとお金が来るまでに2週間以上かかるわよ」
それは時間がかかり過ぎる。
「一度ギルドに行ってみましょう。高レベルの仕事があれば、一気にお金が稼げるわ」
「なるほど。じゃあギルドに行ってみよう」
アリアさんの提案に乗りギルドへ向かう。
この街のギルドも盛況で、屈強な男達がたくさんいた。
受付に並んでいると俺らの番がきた
「すいません。あのー、仕事が欲しいんですけど」
俺は受付のお姉さんに言った。
「はい。どのような仕事をお探しですか?」
そっか。色んな仕事があるのか。
この世界にどんな仕事があるのかよくわからない俺は、諸先輩方に聞いた。
「どんな仕事がいい?」
聞くと、すぐにジルさんが答えた。
「楽でお金が大量にゲットできる仕事がいいです!」
それを聞いた受付のお姉さんは困り顔だ。
見かねたアリアさんが俺に言う。
「この3人だし、魔物退治とかでいいんじゃないかしら? 多分それが一番簡単に稼げると思うわ」
「魔物退治か……」
『まだ無理か?』と炎の剣に聞かれた。
(いや、大丈夫)
心の中で言って、俺は受付のお姉さんのほうを向き直った。
「魔物退治の仕事とかありますか?」
「はい。ございます。ですがその前に何かご自身、またはチームの実力を証明できるものを提示してもらえますか?」
「えーと……」
そう言われ、はたと困ってしまう。
俺は地球から来たので当然この世界で実力を証明できるものなど持っていない。
「これでいいかしら」
そんな俺を横目にアリアさんがカードを受付の人に出した。
お姉さんはそれを受け取り、アリアさんの顔を見ては何度も確認した。
「あ、ありがとうございます。ではこちらが魔物退治の仕事になります」
3枚紙を渡され、アリアさんが受け取る。
「うーん。どれも一攫千金とはいかないものばかりね。この仕事じゃ全然船には手が届かないわ」
「だいたいどれくらいの報酬がもらえるの?」
「1番高いので船の値段の30分の1とかじゃないかしら」
「それはほど遠いね」
1番高給の仕事でそれか。
うーむ。稼ぐのも現実的ではなさそう。
そうなるとやっぱり国王陛下からお金をもらうのが1番速いのかな。
「レベル4の依頼とかはないのですか?」
受付のお姉さんにアリアさんが聞く。
「レベル4の依頼はここ数年ないですね。レベル3も稀にある程度ですので」
「そうですか」
稼いで船を買うというのは無理か。
諦めかけたその時だった。
「あの、先程船が欲しいというような会話が聞こえたのですが……」
オズオズと受付のお姉さんが言った。
「はい。そうですけど」
「中古の船でもよろしければ、丁度いい仕事がありますよ」
「どんな仕事ですか?」
別に海に出れればいいので中古だろうと構わない。
俺は話を聞いてみる事に。
「こちらです。どうぞ」
仕事内容が書かれた紙を見せて貰った。
……読めないのでアリアさんに渡す。
文字を読む勉強をした方が良さそうだ。不便だ。
「どんな感じ?」
「報酬は……かなり大きな船ね。仕事内容は魔物退治。けど討伐する魔物は近海の主と書かれているだけでどんな魔物かわからないわ」
「そちらは個人依頼の仕事になりますので、報酬や詳しい話につきましては依頼主にお願いします」
1発で船が手に入るし魅力的ではある。それだけに怪しい仕事だ。何か裏があるのかもしれない。
例えばクレス達の罠だとか。
「この仕事っていつぐらいからあるんですか?」
「1年ほど前からですね」
1年前か。ならクレス達の罠である可能性は低いか。
「2人ともこの仕事受けていい?」
確認を取ると2人とも頷いたのでこの仕事を受ける事に。
「じゃあこの仕事でお願いします」
「かしこまりました。こちらが依頼主のモローさん宅の地図になります。仕事の依頼を受けたいと、この紙を見せて言えば伝わると思いますので」
「わかりました」
「何か他に質問等はございませんか?」
「えーと、なんか剣が封印されてる場所とか知りませんか?」
「剣ですか? すみません。自分は聞いたことないです」
「そうですか。ありがとうございます」
受付のお姉さんにお礼を言ってからギルドの外に出た。
「やっぱり剣の情報はないか」
「ということはまだ敵も剣を見つけれていないのかもしれませんね」
「だね。そう言えばさっきアリアさんが受付の人に見せてたカードは何なの? かなり驚かれてたみたいだけど」
俺はアリアさんに聞いた。
「あれは私のレベルが書かれたカードよ。あれで受けれる仕事のレベルが決まるのよ」
「もしかして前にレベルが上がったって喜んでたやつ?」
「ええ。そうよ」
「ジルさんは持ってないの?」
「持ってますよ」
「レベル4?」
「いえ、5です」
「レベル5!? それって3人しか持ってない資格よね!」
驚きを隠せないアリアさんが声を大にして言った。
「はい。確かそんなのです」
「まさかレベル5の1人が私と変わらない歳だったなんて……」
ショックを受けているアリアさんに俺は言う。
「でもレベル4でも十分凄いんじゃないの?」
「凄いんだろうけど……ね」
レベルが違うと言いたげに笑うアリアさんだった。




