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異世界転移!  作者: 中原
1章 異世界転移
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2話

 足音に気がついたのか、2頭の虎に似た動物がこちらを向いた。


「グルル……」


 喉の奥から不機嫌そうな声を出す。


『お前、戦えるのか?』

「……いや」


 飛び出したのはいいが、一体全体俺はどう戦えばいいのだろう。


『さっき俺に力を集中させたように、今度は自分の体に力を漲らせろ』

「こう?」


 言われた通りにすると、体温が少し高くなった気がした。


『そうだ。戦う時は常にその状態を保て』

「わかった」

『次に俺に力を集めろ』


 俺は剣に力を込める。

 剣からぼんやりとした赤い光が漏れ出す。


『今だ。振れ』

「了解!」


 俺は剣を縦に振る。

 すると剣から三日月型の炎が放たれた。

 炎は虎達の間を抜け、後ろにあった大きな岩に当たった。

 ドガーン!!! と大きな音を立て岩は砕けた。

 虎達は砕けた岩を見ると、勝てないと判断したのか走り去っていった。

 地球の虎より頭が良さそうだ。

 俺は剣への集中を解き、女の子のもとに駆け寄る。


「大丈夫?」

「ええ。ありがとう。助かったわ」


 幸いな事に女の子は無傷だった。


「あなた強いのね。王国騎士団の人?」

「いやー……そういうわけじゃないよ。ははは……」

「そうよね。王国騎士団の人ならそんな軽装のはずないものね」


 言われて自分の服を確認する。学校指定の黄緑色のジャージ。それと背中には大きなリュックサック。

 この世界の騎士団員がどんな格好かわからないが、間違いなくこんな姿ではないはずだ。


「というよりどこの衣装? この国の服じゃないわよね」

「えーと……」


 どうしよう。

 俺が答えに困っていると彼女は、大きな瞳を鋭くした。


「まさか……不法入国者って事はないわよね」


 警察が犯人を見るような目だ。


「いや、そんなことないよ。じゃあ俺はもう行くから。気をつけてね」


 ボロが出る前にこの場を離れようとしたが失敗した。彼女が俺の腕を掴んだからだ。


「もしかしてあなた、本当に不法入国者?」


 不法に入国どころか不法に星に入って来てます。


『こうなったら異世界から来た事を言うしかないぞ』

「ちょっ! 何言ってんの!?」


 俺は剣を止める。

 そんな事言ったら不法入国を認めたと同義だ。


「え?」


 女の子が目を丸くして驚いた。

 けど反応から見て、剣の言葉に驚いたんじゃない。

 突然俺が大きな声を出して驚いた、と言った感じだ。

 ま、まさか剣の声って。


『俺の声は基本お前にしか聞こえないぞ』


 やっぱり!

 俺は慌てて取り繕おうとする。


「ご、ごめん! その、今のはちょっと口が滑ったというか。その……」

「口が滑ったというか、誰かに突っ込んだ風だったけど」

『もう無理だ。さっさと異世界から来たと言ったがいいぞ』


 それを言ったところで好転するとは思えないんだけど……むしろ悪化するまで考えられる。


『このままだと不法入国者として牢屋に入れられるぞ。異世界から来たと言えば状況が良くなるかもしれん』


 牢屋!?

 俺の頭に孤島に浮かぶ監獄のイメージがよぎった。

 それは怖すぎる!

 剣の言う通り、このまま捕まるよりも一縷の望みにかけて本当のことを言った方がいいのかも知れない。

 俺は覚悟を決めた。


「お、俺は別に怪しい者じゃないんだ」

「さっき意味不明なこと言ったばかりの人とは思えないセリフね」

「うっ……それは忘れて。でもこんな格好なのは仕方ないんだ」

「仕方ない?」


 少女が首を傾げた。


「そう。実は俺、異世界から来たんだ。だからこんなところでこんな格好をしてるんだ」


 シーン。

 風の音がうるさく感じる。

 それくらい静かな空間が出来上がった。


『ププッ。本当に言いやがった』


 騙された!

 剣は俺の事を心配してたんじゃなくて、面白がってるだけだった。


「……なるほど。あなたが怪しい人じゃないということはわかりました」

「本当に!?」


 丁寧語になったのが若干気になるが、信じて貰えたならよかった。


「ええ。あなたは怪しい人じゃなくて、ちょっとヤバイ人のようね」


 何もよくなかった。

 まさか異世界に来てまで厨二扱いされるとは。


「いや、確かにそういうヤバイ人もいるけど、俺は違うんだって!」

「じゃあ異世界から来たという証拠でもあるの?」

「証拠?」


 今持ってるのは、お菓子と弁当。それにスマートフォンくらいしかない。

 この中ならスマホが1番だろう。でも、もしこの世界の科学が地球より発達してたなら無意味だ。

 ただ、辺り一帯の緑豊かさを見る感じそれはなさそうだ。

 俺はポケットからスマホを取り出し、彼女に見せる。


「これ知ってる?」

「何? その四角箱は?」

「これはスマホって言って、これさえあれば大概の事ができるんだ。例えば……」


 俺はスマホを彼女に向ける。

 得体の知れないものを突然向けられた彼女は、ハトが豆鉄砲を喰らったような顔になった。

 その状態でパシャり。


「な、何したの?」

「写真を撮ったんだよ」

「シャシン?」

「これで君を写したんだよ。ほら」


 俺は言うより見たが早いだろうと、スマホの画面を彼女の方に向ける。


「……これのどこが私よ」

「え?」


 どういうことだ? もしかして異世界に飛ばされたせいで壊れた?

 俺は慌ててスマホの画面を見た。

 しかしそこにはバッチリと彼女が写っていた。


「私、そんな変な顔してないし」


 金髪の女の子は遠くを見ながら呟いた。

 確かにアホっぽい表情だけれども! でもどっからどう見てもこれ君じゃん!


「そもそも!」


 彼女はビシっと人差し指を俺に突きつけてきた。


「そもそも異世界から来たと言うのならどうして私と会話ができるのよ。異世界でも同じ言語が使われているとでも言うの?」

「た、確かに」


 そういや普通に喋ってるけど、日本語じゃないよな。どうしてこっちの言葉が喋れるんだ?


『お前が寝てる間に俺が教育してたからな。3歳になる頃にはすでにお前はコッチの言語をマスターしていたぞ』

「俺が小さい時、宇宙語しか話せなかったのは君のせいか!」


あ。また言葉にしてしまった。

彼女は目に見えてドン引きしている。


『言い忘れてたが、声に出さなくても会話は可能だ』

(もっと早く教えてよ!)


「ち、違うんだ! この剣がわけわからない事を言うから!」

「はあ?」


訝しげな表情で彼女が剣を見た。


「剣が喋るわけないじゃない」

「本当なんだって! ていうか逆に聞こえないの?」

「聞こえるわけないじゃない。剣は喋らないんだし」

「そ、そうだけどさ!」


そりゃ常識的に考えて剣が喋るはずないよ! でも俺には聞こえるんだって!

ていうか、何で俺にだけ剣の声が聞こえるんだ?

あれかな。俺が持ってるからかな。


「ちょっとこの剣持ってみてくれない? そしたら声が聞こえるかも」

「いや、触りたくないんだけど」

「そこをなんとか。このままじゃ俺がヤバい人みたいだから」


 俺は彼女が取りやすいように柄を向けた。


『やめておけ。焼死するかもしれないぞ』


 剣がギョッとする事を言ったので、俺は慌てて手を引っ込めた。


「? どうしたの?」

「焼死するかもしれないからやめとけだって」

「何よそれ」

「わからないけど剣が……」

『俺に触れるのは選ばれた人間だけだ。普通のヤツが触れば下手すれば焼死する』

「なんか選ばれた人間しか触れないって」


 てことは俺は選ばれたのか。


「なら大丈夫よ。この私が選ばれないはずないじゃない!」


 どこからその自信が湧き出るのか不明だが、彼女は自信満々に言って、強引に剣の柄を触った。


「あっつ!」


 そう言って、彼女はすぐに剣から手を離した。


『……ほう』

「私を選ばないなんて。もしかしてこの剣、女?」


 私の美貌に嫉妬してるのね、とでも言いたげな表情だ。

 そんな彼女に現実を教える。


「声聞く感じ男だと思うよ」

「ウソ!? ならどうしてこんな見るからに普通な男を選んだのかしら。もしかしてどこか優れたとこがあるのかしら」


 ぶつぶつと呟きながら彼女は顎に手を当て、俺の頭のてっぺんからつま先まで品定めをする。

 渋い顔で首を捻ったりして思案していた彼女は、何かに気がついたようで、ハッと目を見開いた。


「あなた本当に異世界から来たのね! それなら納得だわ!」

「君、失礼だね!」


 絶対に良いところを見つけられなくてそう言ったよね!

  ……まあ一応異世界から来たと信じて貰えたんだ。腑に落ちないが、よしとしよう。


「でも本当に異世界から来たのなら住むとこもないでしょ。これからどうするつもり?」

「うーん……元の世界に帰る方法を探そうと思ってるけど」

「すぐに帰れるものなの?」

「さあ……」


 俺は首を捻るしかなかった。


「当然お金も持っていないんでしょ?」

「うん。持ってない」


 スマホを売るか? この世界にないものだし、売れば、そこそこのお金は貰えそうだけど。

 先の事を少し真剣に考えていると、彼女が意外な提案をくれた。


「だったらさ、ウチで働かない?」

「え?」

「ちょうど人手不足で困ってたところだったの。働いてくれると助かるんだけど」

「働くってどんな仕事?」

「魔物を退治したり、珍しい薬草を取りに行ったり、迷い猫探したり。そんな感じの仕事。たぶんあなたなら務まると思うけど」

「うーん」


 向こうで言う何でも屋みたいな感じかな。でも魔物と戦う事があるんだよね。そんなのが自分にできるだろうか。


『魔物といってもさっきくらいのが上限だろう。おそらく今のお前にも務まる』


 剣から後押しされた。


(それは本当?)

『ああ』


 声のトーン的に揶揄している印象は受けない。


「わかった。やってみるよ」

「ホント!?」

「うん」

「よかった! 最近忙しいから、人手が欲しいところだったのよ。あ、自己紹介がまだだったわね。私はアリア。あなたは?」

「俺は伊織」

「イオリね。じゃあまずは街に行きましょう。案内するわ」


 そう言って歩き始めた彼女の横に並び、街に向かって歩き出した。

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