7話
「例のブツは持って来たんだろうなぁ」
戻ると、オーカンが言った。
チラッとキャメロンさんの状況を確認する。
依然として男がキャメロンさんの喉元にナイフを突きつけている。
これじゃ隙を突いて救い出すのは不可能に近い。
「……これの事?」
俺は剣を持って見せた。
「そうだ。それをコッチによこせ」
「キャメロンさんを先に解放してくれない?」
「ダメだ。俺はテメエの事を信用していない」
「……わかった」
仕方なく俺は先に剣を渡すことにした。
「床に置いてお前は離れろ」
言われた通り剣を床に置いて離れる。
「もっとだ。もっと離れろ」
用心深いな。
俺はドア付近まで戻った。
「さて。この剣は本物かな?……試してみるか。オイ、お前。あの剣持ってこい」
オーカンは隣にいた小太りの男に命令する。
「で、でも確かあれに触るとヤバいんじゃ……」
小太りの男が剣に触れるのを躊躇うと、オーカンは目を眇めた。
「お前。俺の言った事が聞こえなかったのか? 俺は、持ってこいって言ってるんだよ」
背中に寒気が走るほどゾッとする声をオーカンは出した。
命令を聞けないなら俺が殺す。それくらい冷たい声音だった。
「っ! はいっ!」
小太りの男が剣のそばに行き、ゴクリと生唾を飲み込んだ。
手を震わせながらゆっくりと剣に触れる。
「ぐふっ‼︎」
地面から土柱が現れ、太った男を吹き飛ばした。
「ククク。本物のようだなあ」
オーカンは立ち上がり、剣を上から見下ろす。
その横で、太った男が床の上でうめき声を上げながら苦しんでいた。
「うるせえぞ。静かにしろ」
オーカンはもがき苦しむ部下の顔面を思いっきり踏みつけた。
脳震盪を起こしたのか太った男の動きが止まった。
「邪魔だ」
そう言ってオーカンは男を壁まで蹴飛ばした。
男は壁に叩きつけられ、ピクリとも動かず床に落ちた。
「クズね」
小さな声でアリアさんが吐き捨てた。
本当にその通りだ。キャメロンさんを救ったらすぐにでも捕まえて牢屋に入れてやりたい。
「さあ、キャメロンさんを解放して」
「あー、そうだな。オイ、離してやれ」
オーカンの指示に従いキャメロンさんの喉に突きつけていたナイフが離れて行く。
「いや、ちょっと待て」
が、それを途中でオーカンが止めた。
「そういや、まだ剣は残ってるよな。その剣も全部持って来い! そしたら解放してやるよ!」
「もしかして約束を破る気?」
「ああ? うっせえな。気が変わったんだよ。ガタガタ言ってねえでサッサと取ってこいよ。おっさんがどうなっても知らねえぞ」
「約束を破るって言うんだね」
「新たな約束に取って代わったんだよ!」
「そう。だったらコッチにも考えがある」
「ああ!?」
次の瞬間。キャメロンさんにナイフを突きつけている男の近くから土柱が現れた。
「ぐあッ」
その土柱がクリーンヒットし、男は吹き飛ぶ。
間髪入れずに俺は、解放されたキャメロンさんの周りを土で囲んだ。
よし。これで簡単には手出しはできない。
「土魔法だと!? 剣も持っていないのになぜ使える!?」
どうして俺が渡したはずの土の剣が使えたのか。
少し前に遡る。
土の剣を手に入れた時。
「これで土の剣は手に入れたけど、オーカンは約束を守るかな?」
「守らないんじゃないかしら」
「私もあの人は信用できないと思います」
「みんな同じ意見か。じゃあキャメロンさんを救う作戦を考えなきゃね」
どうやって安全にキャメロンさんを救い出すか。
「奇襲は?」
「危なそうだけど、いい作戦でもある?」
「そうね。まずオーカンの言う通り土の剣を渡す。それで相手を油断させるの。油断させたところをジルが光線でキャメロンさんの周りにいる男達を倒す。その間に私とイオリでキャメロンさんを保護する。どう?」
「ジルさんできそう?」
俺はジルさんを見た。
「できますが、もし光線上に他の敵がいたらそっちに当たってしまいます」
「そっか。もっとピンポイントで攻撃できないとダメか」
でも考え方は悪くない感じだ。
もっとピンポイントで攻撃できればいいんだけど……
あっ。
「土の剣を使うっていうのは? 土の剣ならセシル団長みたいに地面から柱を作り出せるんじゃないかな。それならキャメロンさんを拘束している敵だけを攻撃できると思うけど」
「確かに。それならピンポイントで敵を狙えるわね」
実際にそれができるか土の剣に尋ねた。
(ねー、土の剣。君を使えば地面から柱って出せる)
『もちろん! そんなの朝飯前さっ』
(使い方は?)
『炎の剣と同じだよ!』
(わかった)
俺は土の剣に力を込めて振る。すると、俺の意思に呼応して地面から土柱が現れた。
「「おおっ」」
2人が歓声を上げる。
「狙いは大丈夫なんですか?」
「そうね。私が氷柱作るからそれ狙ってみて」
アリアさんが20メートルくらい離れた場所に氷柱を作った。
炎の剣でなら余裕で当てれる距離だ。
多分土の剣でもできるはず。
俺は土柱を作り、氷柱を攻撃した。
パリンッ! といい音を立てて氷が砕けた。
「狙いも大丈夫そうね」
「だね」
修行していてよかった。
「でも土の剣を使うのならオーカンに渡して油断させる事はできないわね」
「うーん……なら偽の土の剣を作ってそれを渡すってのはどう?」
「オーカンもあの本を見て土の剣の形を知っている可能性がありますよ。短時間で騙せるほど精巧な物ができますか?」
「土の剣を使えばできると思う」
俺は土の剣を使い、土の剣と同じ形をした模造刀を地面から作り出した。
俺はそれを手に取り2人に見せる。
「それっぽくない?」
「形はそれっぽいですね。ですが色が全然違いますよ」
本物の土の剣は土色だが半透明だ。対して偽物は土で出来ているから当然半透明ではない。
「大丈夫。あの本を見てても土の剣の色なんて知らないよ」
「あ、そうですね」
「あと、柄の部分とかはアリアさんに任せていい?」
俺ができるのは土で剣の形を作り出すまでだ。
後の装飾品とかはアリアさんに任せよう。
「任せて。街に帰ったら10分で仕上げるわ」
回想終わり。
「よかった。作戦成功だ」
言いながら、俺は背中に隠していた土の剣を取り出す。
「テメエら汚ねえぞ! はなっから約束守るつもりなかったな!」
「大事なのは約束を守る事じゃなくて、キャメロンさんを救い出す事だからね」
と俺。その台詞にアリアさんが続ける。
「ていうかよく言えるわよねそんなセリフ。自分だって約束守るつもりなかったくせに」
「言わせておけば……このクズどもが!」
「人質を取ったり、クズはあなただと思いますが」
最後にジルさんが言うと、オーカンはキレた。
「ぶっ殺してやる! てめえらかかれ!」
オーカンの言葉で手下の達が一斉に動き始めた。
内、1人が俺に向かって来る。
「オラァ!」
顔面への鋭い右ストレート。俺は首だけ動かしそれを躱す。
「チッ! 死ねえ!」
今度は上段回し蹴り。
……雑魚じゃない。けどクレスに比べたら訳ない攻撃だ。
俺は回し蹴りを左手一本で防ぎ、ガラ空きの鳩尾に拳をめり込ませた。
「がっ……てめ……」
ヨダレを垂らしながら敵は地面に膝をついた。
さて、次は。
そう思い前を向くと、部屋の中をいくつもの氷の礫が横切る。
アリアさんの攻撃だ。
「ぶへえっ!」
氷の礫を顔面に食らった手下達はあっけなく地面に沈んで行く。
俺も負けじと土魔法で敵を蹴散らせて行く。
ついに残ったのはオーカン1人となった。
「1人になってしまいましたね」
煽るようなセリフをジルさんは言った。
「雑魚を倒したくらいで調子に乗るなよっ!」
オーカンの周りに風が寄っていく。
風使いか!
「喰らえや!」
オーカンの手から風が吹き出し、俺とアリアさんは吹き飛ばされ、背中から壁に叩きつけられた。
「ぐっ!」
「くっ……」
強い。やはり手下とは格が違う。
気を引き締めて戦わないとやられる!
「1人になってしまった、だあ? テメェラなんざ俺1人で十分なんだよ!」
声を大にして自分の強さを鼓舞するオーカン。
そんな彼に向け光線が放たれた。
「何っ!?」
ジルさんの実力を見誤っていたオーカンは油断しており、避けきれずに光線を全身で受けてしまった。
「戦闘中にお喋りとは感心しませんよ?」
「や……ろ……」
「アレを喰らって倒れませんか。口だけじゃないみたいですね」
ジルさんはフラつくオーカンに向けもう一度光線を放つ。
当然避けられるはずなく、オーカンは吹き飛ばされ床に大の字になって気絶した。
「ま、敵じゃないですけど」
「……」
俺とアリアさんは真顔で見合わせた。
(ちょっとジル強すぎじゃない?!)
(ホント!)
実はセシル団長より強いのでは? そんな疑問を抱くくらい圧倒的強さだ。
「な、何があった!? 無事か!」
土でできたドームの中からキャメロンさんの声がした。
ジルさんの活躍であっけなく決着はついたので、俺はキャメロンさんを覆っていた土壁を下ろし、急いで駆け寄り縄を解く。
「すみません。余計な争いに巻き込んでしまって」
「いや、私の方こそ捕まってしまい迷惑をかけたね。ありがとう。助けてくれて」
「無事でよかったです」
その後すぐに兵士を呼び、オーカン達は連行された。それからキャメロンさんを家まで送った。
キャメロンさんからはお礼がしたいと言われたが丁重にお断りした。
「すみません。すぐに発たないといけないので」
クレス達が組織的に動いているというのがわかり、すぐにでも次に行かないといけなかった。
何より巻き込んでしまったのは俺たちなのでお礼をされるのに違和感があった。
「そうですか。敵も動いているようですのでそうも言ってられませんか。それで次はどちらに?」
「スズイミです」
俺の代わりにアリアさんが答える。
「スズイミですか。長旅になると思いますが、馬車はもう用意していますか?」
「いえ」
どうやらスズイミまではかなり距離があるらしい。
「では馬車はこちらで用意させてください。それくらいはいいでしょう?」
これは断る理由がないな。
『いいんじゃないか。好意はそう無碍にするものじゃないぞ』
と炎の剣から言われた。
「お願いしてもいいですか?」
「はい。任せて下さい!」
ということで、キャメロンさんに馬車と食料等も準備してもらい、俺らはスズイミに向け出発した。




