6話
『さーて、第2の試練の始まりだな』
剣が嫌な事を言った。
このゴーレムを倒さなきゃ土の剣は手に入れられないってか。
俺は剣に力を溜める。
炎の衝撃波を打ち出す準備をしていると、横を指向性の高い光が通過していった。
そのレーザーのような光線はいとも容易くゴーレムの体を貫いた。
光線に射抜かれたゴーレムは倒れると、原型を失い土に戻る。
あんな硬そうなゴーレムを一撃で倒すなんて。
アリアさんの攻撃ではない……となると。
「今のってジルさんの攻撃?」
「はい」
こともなげに答えるジルさん。
さすがセシル団長と並び称されるだけあって強い。
しかし、試練はそれで終わりではなかった。
「まだ来るみたいですね」
ジルさんの言葉を皮切りに、再び地面かゴーレムが1、2、3……6体出現した。
俺はその内の一体に狙いを定め剣を振り、衝撃波をぶつける。
ゴーレムは衝撃波で砕け、土に戻った。
よし! どうだ!
ゴーレムを倒し調子付いている俺の横を5つの光線が通過して行く。
その光線が残りの5体全てに命中し、ゴーレム達の身体を粉々に消しとばした。
つ、強い。俺の衝撃波より威力のある攻撃を5つも同時に……レベルが違う。
陛下を信じてジルさんを連れて来たのは正解だったみたいだ。
さて、これで終わりと言いたいところだけど、まだ1箇所地面がゆらゆらと揺れているところがある。
俺達3人は揺らめく地面からゴーレムが出てくるのを固唾を飲んで見つめる。
「……出てこないわね」
痺れを切らしたアリアさんがボヤく。
「実はもう終わりとか?」
そうだったら嬉しいな、と油断した時だった。
ゆらゆらと揺れていた地面から一際大きなゴーレムが一気に出てきた。
今までのゴーレムとは桁違いの大きさだ。
5メートルを優に超えてるし、手や足は巨木のように太い。
その大きさにあっけにとられていると、ゴーレムが近づいて来て大きな拳が振り下ろされた。
それを横飛びで躱す。
さっきまで俺のいた場所にはクレーターのような窪みができた。
当たったらペシャンコだ。
「離れて戦う方が良さそうだね」
「そうしましょう」
油断しなければ十分対応できるスピードだし、遠くから攻撃し続ければ倒せるはず。
なんせコッチにはジルさんがいるんだ。
一旦それぞれゴーレムから距離を取った。
するとゴーレムの小さな目が赤く光り始め、地面が隆起し土柱が襲ってきた。
「くっ!」
俺とアリアさんは、すんでのところでそれを避けた。
しかし肉体強化ができないジルさんが、この攻撃を避けれるほど素早く動けるはずはなく、土柱が直撃した。
「ジルさんっ!」
「ジルっ!」
俺とアリアさんは叫ぶ。
「何ですか?」
返事があった。
あれ? 土柱が直撃したんじゃ……
しかしジルさんは怪我1つしていない。
どうなってるんだ?
「私、バリアが張れるんです」
よく見るとジルさんの周りには薄っらと球形の膜が見えた。
なるほど。バリアが張れるから肉体強化ができなくても戦えるのか。
「気をつけて! また来るわよ!」
アリアさんの声で前を向くとゴーレムの目が再び赤く光りだしたところだった。
土魔法が来る前に炎の衝撃波をゴーレムの顔を目掛け放った。
その直後にアリアさんも大きな氷柱を打ち出した。
両弾ヒット。
しかし……
「無傷ね」
だった。
「2人とも少し離れてください」
ジルさんの声。
俺らはその指示に従いゴーレムから離れると、ジルさんは無数の光線を放った。
全弾ゴーレムに当たった。けれど傷をつけたのがやっとで効いていないようだ。
「硬いですね」
ジルさんが呟く。
「まあでもどうにかなるでしょう。すみませんが2人とも、少しの間ゴーレムを引きつけていて貰えませんか? その間に私は魔力を溜めるので」
「了解!」
「わかったわ!」
倒せる手段があるようだ。
「俺が囮になるからアリアさんはサポートお願い!」
「任せて!」
俺はゴーレムとの距離を詰める。
途中、目が不穏な光を湛える。
土魔法を使う気だ。
予想通り進路を塞ぐように土柱が襲って来た。
それを剣で砕きながらゴーレムに接近する。
ゴーレムの土魔法、多分アレはあの赤く光る目が関係しているのだろう。
土魔法を使う前に必ず赤く光る。
だったら……
俺は地面を蹴り上げ、ゴーレムの顔の高さまで飛び上がった。
最点に達したところで剣を横に払い、鈍く光る目を狙って炎の衝撃波を放つ。
衝撃波が敵の目に当たり、砕けた。
よし、上手くいった。
自由落下しながら左手をグッと握る。
目を潰せば終わりと思っていたが、ゴーレムは生き物ではない。
足元近くに降り立った俺に、ゴーレムは上から正確にパンチを放った。
ヤバッ!
俺は剣を掲げ、攻撃を防ごうとする。
「ぐっ!」
足が地面に埋まるほどの攻撃。
これはそう何発も受け止められない。
ゴーレムが腕を引いた。
また攻撃が来る。
だけどさっきの攻撃で足が痺れて動いてくれない。
再びゴーレムの腕が振り下ろされる!
「はあっ!」
拳がぶつかる寸前で強大な氷の礫が飛んで来て、ゴーレムの腕を弾いた。
アリアさんの攻撃だ。
「イオリ! 今のうちに早く逃げて!」
「ごめん! ありがとう!」
腕を弾かれバランスを崩しているうちにどうにか距離を取る。
「2人ともありがとうございます。もう十分です」
「頼むよ!」
ジルさんの邪魔にならないように退く。
バリアの前に魔力が渦を巻きながら集まっていく。
「やあっ!」
掛け声とともに特大の光線が放たれた。
今までの10倍はありそうな光線は、一直線にゴーレムへと向かって行く。
ゴーレムは避けようと右に動くが、光線の方が速く、避けれずに左上半身を吹き飛ばされた。
「やったかしら?」
「いや、まだだ!」
そこは土でできたゴーレム。
左上半身が消し飛ぼうと怯むことはない。
それでもバランスが悪くなったからなのか、動きは確実に悪くなった。
あと少しだ。
ジルさんにもう一度さっきの攻撃をしてもらおうと振り返ると、彼女は端の方でバリアを張りつつ体育座りをしていた。
「どうしたの? 怪我!?」
アリアさんが尋ねる。
「いえ。単に休憩です」
「休憩って今戦闘中よ!?」
「わかってます。けどあまり一気に魔法を使いすぎると倒れてしまうので」
そうか。さすがにあの威力の攻撃は連続で放てるものではないのか。
「まあ少し休憩すれば大丈夫なので、その間時間稼ぎをお願いします」
「わかった」
そういうことなら仕方ない。
俺はアリアさんの方を向く。
「俺たち2人でジルさんが回復するまで時間を稼ごう。水はまだある?」
「ありはするけどさっきのでかなり使ってしまったわ」
マジか。
「……作戦会議してる暇はなさそうね」
ゴーレムが地面を揺らしながら歩み寄って来ていた。
俺とアリアさんは一旦2手に分かれる。
倒すのは無理だが、時間稼ぎくらいならできる。
『なんだ。ゴーレムを倒す気は無いのか』
嘆息するような剣の声がした。
(だって全然こっちの攻撃効かないじゃん)
『そりゃああのくらいの攻撃じゃダメだろうな』
(引っかかる言い方だね。もっと威力のある攻撃ができると?)
『ああ。仮にも世界を救った剣だぞ。あんなチンケな攻撃しかできないわけがないだろ』
(どうやったらそんな攻撃ができるの?)『衝撃波は距離が長くなるほど威力が落ちるのには気付いてるな。だったら1番威力のある攻撃は?』
(近距離から放つ衝撃波)
『さあどうだろうな』
違うのか。
でも近距離からの方が威力が高いのは間違いない。
もっと近づいて攻撃しろって言うこと?
でもさっきより近付いたら……いや、そういうことか。
『わかったようだな』
(多分ね)
俺はゴーレムから離れた所で足を止め炎の剣に目一杯力を集め始めた。
剣が赤く輝き出す。
それでもさらに力を集めていくと剣はより強い輝きを放ち出した。
コッチに気がついたゴーレムがゆっくりとこちらに向かって歩き始めた。
ゴーレムが近づいて来るのを見ながら力を溜め続ける。
遂に近距離まで迫ったゴーレムが上から押し潰すようなパンチを繰り出してきた。
衝撃波は離れるほど弱くなる。
どこから離れるとか。俺から? 違う剣からだ。
なら1番威力のある攻撃は近距離からの衝撃波ではなく、炎の剣で斬ること!
剣を振りゴーレムの拳を斬りつけた。
自分でも驚くほど簡単に腕を斬れた。
ほとんど手ごたえがないくらいだ。
よし! 行ける!
俺はゴーレムの頭上まで飛び上がった。
「はあああ!」
ゴーレムの脳天から剣を振り下ろし斬って行く。
あの硬かったゴーレムがなんの抵抗もなく切れる。
剣が下まで到達するとゴーレムは真っ二つになり土に戻った。
「ふぅ……」
剣を鞘に納め一息吐く。
「やるじゃないイオリ!」
喜びながらアリアさんが駆けつけて来た。
「まあ。少しは役に立たないとね」
「そう、ね」
「さて、ゴーレムも倒した事ですし剣、を取って戻りましょう」
少し遅れてジルさんが歩いて来た。
「そうだね。キャメロンさんが心配だ」
剣が刺さっている台座まで行くと声が聞こえた。
『良くあのゴーレムを倒せたな!』
変声期前の高い男の声だ。
『まあ、炎の剣を持ってるもんな。それくらい朝飯前か。お、そういや炎の剣、久し振りだね。1000年ぶりくらい?』
『ああ。それくらいだな』
『何だよ。久し振りに会ったっていうのにテンション低いなあ』
『お前が高過ぎるんだ。いい加減落ち着いたらどうだ』
『やだね。んで、こんなとこまで何の用。わざわざ説教しに来たわけじゃないよね?』
『イオリ、説明してやれ』
(お、俺? 炎の剣がしなよ)
『めんどくさい』
ジルさんか。まあいいや。炎の剣は口下手だし。
「実は今ある人が人質に取られていて、その人を解放する条件が君を持って行く事なんだ」
『あー、そんな理由なんだ。炎の剣が動いているから世界の危機でも近づいてるのかと思った』
『それがその予兆かもしれん』
『本当?』
『ああ。勘だが』
『炎の剣の勘は当たるからねえ』
『で、どうだ。手伝ってくれるか?』
『そういう事なら手伝うよ。じゃあ誰と同調しようか』
『イオリでいいだろ』
炎の剣が俺を指名した。けど同調ってのがどんな事かわからないので、聞いてみた。
「同調って?」
『魔法紋を記憶する作業のことを俺達は同調と呼んでいる』
「魔法紋?」
『魔法を使うときに放出されるものだ。魔法紋は人によって固有のものだからこれを記憶する事で他人に使わせないようにできる』
「なるほど。同調のデメリットはあるの?」
『特にない。強いて言えばコイツが話しかけて来るくらいだな』
「うーん、まあそれくらいのデメリットなら大丈夫かな」
『なんで?! どこがデメリットなの!』
と土の剣。
だって騒がしそうだもん。
『それより急いだ方がいいじゃないのか? 人質を取られているんだろ』
「そうだ! 土の剣急げる?」
『オッケー。まずは柄を握って』
言われた通りに柄を握り、しばらくすると。
『うん。もう大丈夫。じゃあイオリ! これからよろしく!』
土の剣の光が言い、台座からスルリと抜けた。
2人の方を向く。
「戻ろう。キャメロンさんを救いに」




