4話
俺らはできる限り急いで土の剣を探しに街の外に出た。
向かった場所はあの窓のない家だ。
俺は家のドアを強めにノックする。
ドンドンドン。
「誰かいませんか?」
昨日と同じで返事がない。
「人の気配がしません。誰もいないんじゃないですか?」
「じゃあ壊すしかないね」
乱暴だがそれしかない。
俺は剣に力を溜める。
「もし中にいるなら3つ数えるんで出てきてください。出てこないならドアを破壊します」
返事はない。
俺はカウントダウンを始める。
「3……2……1」
ゼロ。
俺は剣を振り、三日月型の炎を放った。
炎が扉を砕く。
壊した扉から中に入ると、家の中は空っぽで剣はおろか家具すらなかった。
「民家じゃないようね。何の家かしら?」
「物置でもなさそうだけど……」
部屋の奥に進むと地下へと続く階段を見つけた。
俺らは一旦その階段の前で止まった。
不思議とその階段の奥を見つめると寒気がした。
「この先、何かありそうですね。寒気がします」
「ジルも感じるのね」
アリアさん達もただならぬ気配を感じているようだ。
「幽霊でもいるんでしょうか?」
「えっ!?」
「わかんない。とにかく行ってみよう」
「ちょ、ちょっと待って! ちゃんと準備してからがいいんじゃない?」
「街まで戻るのは時間がもったいないよ。先に進もう」
「そうですよ。早く行きましょう」
「で、でも……」
何か言いたげなアリアさんを置いて、ジルさんが階段を下りて行く。
俺もその後に続く。
「ちょ、ちょっと2人とも待ってよ!」
結局後ろからアリアさんもついて来た。
伊織達が地下へ降りていった後、家の中は誰もいなくなった。
その誰もいなくなった家の壊れたドアは音もなく直っていき、一瞬で元に戻った。
階段を降りていくとどんどん暗くなって行き、下に着いた時には一寸先も見えないほど真っ暗闇だった。
「く、暗いわね! これ以上は進めないわ! 一旦他の場所を探しましょう!」「大丈夫。任せて」
「え?」
俺は剣に力を込めた。すると刀身が炎に包まれ辺りを照らした。
左右を壁に囲まれた真っ直ぐな道が奥へとのびていた。
「これなら進めるでしょ」
「おお、その剣にはそんな使い方もあるんですね」
「普通はこんな使い方しないけどね」
俺は剣で辺りを照らしながら前に進んで行く。
すると……
「痛っ!」
アリアさんが何かにつまずいて転んだ。
「大丈夫?」
俺はアリアさんが転んだ所の近くに剣を向けた。
「きゃー!」
つまずいたのが何か、俺が認識するより先にアリアさんが大声で叫んだ。
俺はアリアさんの横をよく見る。
そこには骸骨が横たわっていた。
アリアさんは速く逃げたいのだろうが、腰を抜かしているようでなかなか立ち上がれない。
そんなアリアさんに手を貸す。
「大丈夫?」
「あ、ありがとう」
手を取ってアリアさんが立ち上がった。
その横にジルさんが来て骸骨を観察する。
「うーん……」
眉間に皺を寄せながら唸り声を上げた。
「この骸骨……魔物に襲われたのでしょうか?」
「ど、どうだろうね」
ジルさんは顎に手を当て、じっくりと骸骨を観察している。
残念ながら俺はそこまで肝が座ってなく目を逸らした。
「妙ですね。魔物に襲われたのなら骨が折れていたりしそうなものですが、この骸骨は完璧です。服も劣化はしてますが、穴などはないですし……魔物に襲われたというよりここで息絶えたといった感じです」
「こんなあと少しで出口の所で?」
「しかし魔物に襲われた形跡はありませんよ」
「不思議だね」
「ま、まさか本当に幽霊が……?」
アリアさんが声を震わす。
「うーん。毒のある魔物とかの方が可能性高いんじゃない?」と俺。
「あー、それはあるかもしれませんね。毒を持った小型の魔物に襲われてここで息絶えたと」
「そういう魔物がいるんだとしたら注意して進まないと。2人ともあんまり離れないでね」
言うと、ガシッと腕を組まれた。
「……アリアさん」
「何?」
「別にそこまで近づかなくても大丈夫だよ。歩きにくいし」
「う……」
言うと、アリアさんはしぶしぶといった感じに腕を離した。
さっきからアリアさんが何か変だ。オドオドしてるというか。
どうしたんだろう。
「さっきから様子がおかしいけど、具合でも悪いの?」と俺は確認する。
「べ、別に具合は悪くないわよ」
「では暗い所が怖いとかですか?」
ジルさんが聞いた。
「そんなわけないじゃない! 寝るとき真っ暗だったでしょ?!」
それも違うのか。じゃあ……
「幽霊が怖いとか?」
シーン。
返事が戻って来ない。
「アリアさん?」
「ソ、ソンナワケナイジャナイ」
あからさまにキョドッている。
なるほど。ここに入りたがらなかったのはそういう事だったのか。
「苦手なら上で待っとくというのはどうですか?」
「苦手じゃないから! 大丈夫だからっ!」
強がりにしか見えないけど本当かな。
疑り深い俺は剣に集中させていた力を抜き、明かりを消してみた。
一瞬で周囲が真っ暗になる。
「きゃー! なになに!? どうして真っ暗に! 幽霊の仕業!? 」
想像以上の慌てぶりだ。
俺は明かりを灯した。
ボウっと剣の周囲が明るくなった。
俺は笑いを堪え切れず、にやけた顔でアリアさんを見た。
するとアリアさんは見る見るうちに顔を真っ赤に染め上げてく。
「仕方ないでしょっ! 幽霊嫌いなのよ!」
「嫌いというか怖がってるようでしたが」
ジルさんが追い打ちをかける。
「う、うるさいわね。ていうかジルは平気なの?」
「はい。というより怖いなら幽霊なんていないと思えばいいんじゃないですか?」
「いるわよ!」
「何故怖いのに存在を頑なに肯定するんですか……」
もっともな意見だ。
でもそう簡単に割り切れるものではないんだろうな。きっと。
まあ、俺も幽霊はいないと思うけど。
ん?
(そう言えば剣は幽霊なの)
『アホ。実体があるだろ』
なるほど?
納得していいものかどうかわからない俺だった。
「それでアリアさんはどうする。進む? それとも外で待っとく?」
「進むわ。ただ、今度はいきなり明かりを消したりしないでよ!」
「わかってる」
そう何度もするようなことではないし、何よりそんなふざけている場合じゃない。
俺達は警戒しながら奥へと歩みを進めた。




