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異世界転移!  作者: 中原
7章 新しい仲間
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2話

 飲み物など旅に必要な最低限の荷物をリュックに詰め、街の外に出た。

 ちなみにアリアさんは手ぶらだ。俺のリュックにアリアさんの分も詰めたから。

 そしてジルさんも手ぶらだった。

 曰く、別に必要なものはない、とのこと。

 すぐにカイナに着けるという自信があるのだろう。


「誰が1番に着くか、勝負でもする?」


 筋を伸ばしているアリアさんから提案された。

 勝負か……いいかもしれない。それでジルさんの実力も大体わかるだろうし。

 ただ、1つ問題がある。


「勝負してもいいけど、道を知らないんだけど」

「この道を道なりに行けば着くわ」


 街の外から一直線に伸びる整備された道を指してアリアさんは言う。


「わかりやすいね」

「ならもう道わかるわね」

「え?」


 アリアさんは手を上げると一気に加速し、一瞬で姿が小さくなった。

 ズル! どんだけ負けず嫌いなんだよ!


「ジルさん、俺らも行きましょう!」

「……はい」


 俺もアリアさんに負けじと走り出す。

 全力で走ると以外とすぐに追いついた。


「さすが。すぐ追いついたわね」

「まあ余計な体力を使わされた感あるけどね」

「それが狙いだから」


 アリアさんはフフフと微笑んだ。

 そして周りに目線をやる。


「……ところでジルはどうしたの?」

「え?」


 言われて左右と後ろを見たが、まるで人影がない。

 もしや上!?

 俺は、バッと空を見上げる。

 雲1つない澄み切った青空が広がっていた。


「そんな鳥じゃないんだから飛ばないわよ」

「だ、だよね」


 アリアさんに突っ込まれ、勢いよく上を向いたのが少し恥ずかしくなった。


「もしかして置いてきた?」

「いや、俺らも行きましょうって声掛けたよ」

「じゃあ着いて来れてないとか?」

「まさか。だってセシル団長に匹敵するような人だよ」

「そうよね。でも抜かれてもないわよね」

「うん。……もしかして忘れ物に気がついて取りに帰った、とか」

「そんな事あるかしら?」

「わかんない。とりあえず一旦戻ろうか」

「そうね」


 俺らはブレーキをかけ、来た道を辿る。

 かなり引き返したところで、小さな影が頼り無さげに揺れながら近づいて来ているのを見つけた。

 何かトラブルでもあったのだろうか、足取りがしっかりしていない。


「ジルさん! 大丈夫!?」


 声をかけると彼女は止まり、膝に手を置き、くの字になった。


「はぁはぁはぁっ……」


 走り出してほとんど経っていないはずだが、彼女はすでに虫の息だった。


「どうしたの? もしかして魔物に襲われたりした?」


 アリアさんが心配そうに聞くと、彼女は頭をプルプルと横に振った。


「なら体調でも悪いの?」


 またも首を振った。


「はぁはぁ……私、自己強化系の魔法は使えないんです」

「え?」


 アリアさんは絶句した。


「どういう事?」

「……彼女は走れないって事よ」

「ホント? じゃあどうして走って行くのに同意したの?」

「否定するのが面倒で……」

「そんな理由!?」


 どんだけめんどくさがりなんだ!


「走れないとなると、一旦街に戻って馬車を手配してもらうしかないかしら?」

「そうだね。街に戻ろうか」

「あ、それより楽……速い方法があります」とジルさん。


 楽な方法と言いかけた時点で悪い予感がした俺はその方法を聞かないでいると、代わりにアリアさんが尋ねた。


「どんな方法?」

「イオリさんが私をおぶって走ればいいんですよ。そしたら街に戻る必要もないです」


 ジルさんはドヤ顔で俺を指差した。

 俺は助けを求めるようにアリアさんを見たが、納得顔をしていた。


「そうね。その手があったわね」


『残念だったな。諦めろ』

(くっ……)


「では、失礼します」


 まだオッケーと言っていないのにジルさんは俺の背中に抱きついて来た。

 少し火照った腕が首元に触れる。


「っ!」


 思わず声が漏れてしまった。

 女の子とこんなに密着した事のない俺は、緊張で心臓がすごい勢いで動き始めた。

 リュック越しでも感じる男とは違う肌の柔らかさ。

 微かに香るフローラルな匂い。


「ハッ……」


 そんなどぎまぎしている俺の状態を見て、アリアさんは冷笑した。

 普段なら何か言い返すのだが今はそれどころではない。


「ほ、本当にこの状態で走るの?」

「何か問題があるの?」

「いや、問題だらけでしょ!」

「そう? ジルは何か問題ある?」

「そうですねえ。足を持って欲しいくらいですかね」

「さらに高度な要求してきた!」

「何1人で盛り上がってるのよ。足くらい持ってあげなさいよ」


 そう言われジルさんの足を抱える。

 太ももというにはあまりに細い。俺の半分くらいしかないんじゃないかな。


「どう?」

「はい。かなり楽になりました」

「君それしか考えてないね!」


 楽のためなら何でもありのようだ。

 本当性格に難ありだ。


「だってよ。イオリはまだ問題あるの?」

「あるよ!」


 問題が減るどころか増えたし!


「一体何が問題なのかしら」


 何という白々しい台詞だ。絶対わかってるくせに。


「あー、わかった。リュックまで持たせてるからそれが不満だったのね。貸して。私が持つから」

「いや、何も問題ないよ! よし。カイナに行こう! 時間ないんだから」


 このリュックは理性を保つための蓋だ。絶対に取られまいと俺は急いで走り出したのだった。

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