1話
穴を通り抜けると、眩い光に出迎えられ、俺は目を細めた。
外の空気を肌で感じ、すぐに地球ではないどこかに来たんだと理解した。
もちろん地球と違うのは空気感だけじゃない。
鼻孔をくすぐる香りは馴染みのないものだし、前方には見たことないほど背の高い樹が生えているし、空を見上げれば見慣れないカラフルな巨鳥が飛んでいたりしている。
「本当に異世界に来たのか……」
口にしてより実感が湧いた。
実感が湧くと、色んな考えが頭を巡った。
どうやって地球に帰るんだろう?
すぐに帰れないとしたらどうやって生きていけばいいんだろう?
そもそもこっちの世界に人はいるのかな?
ていうか帰れる保証はある?
考え過ぎて不安になってきた。
俺は、不安をかき消すべくブンブンと頭を左右に大きく振る。
落ち着け。落ち着くんだ、俺。こういう時こそ冷静に対処だ。
幸いな事に話せる剣がいるんだ。わからない事は聞いて1つ1つ明らかにして行けばいいんだ。
「ねえ、聞いてもいい?」
『なんだ?』
「異世界にやって来たのはわかったけど、どうやって帰ったらいいの?」
『知らん』
「知らないの!?」
早くも明らかにできないものが。
「地球に帰れるアイテムとか場所とかないの!?」
『知らん。俺はお前を呼んだだけだ。来たのはお前だから、お前の方が詳しいと思うが』
「俺は気づいたらここに来てただけなんだけど!」
不安な気持ちがドッと押し寄せてきた。
せめて帰り方の指針ぐらい示して欲しかった。
でも諦めるにはまだ早い。こういう時は目的を果たせば帰れると相場は決まっている。
気を取り直して、次の質問に移る。
「なら、俺を呼んだ目的は何?」
『決まっている。この世界に危機が訪れようとしている』
やっぱり。なら世界の危機を救えば帰れるのかな?
『……気がする』ボソっと剣が付け加えたのを聞き逃さなかった。
「今、気がするって言った!? そんな不確定な情報で呼ばれたの!? 世界に危機が訪れてないかもしれないのに!?」
『安心しろ。俺の勘はよく当たる』
「やっぱり勘なんだ?!」
『うるさい奴だな。少しは落ち着いたらどうだ』
「イキナリ異世界に連れて来られて落ち着いていられるわけないじゃん!」
捲くし立てるように言う。
しかしこのまま剣に怒鳴ってたって疲れるだけだと悟った俺は、街に行き情報を集めようと思った。
「この世界にも街はあるんだよね」
「ああ」
「どこにあるの?」
『知らん』
「……」
この剣何も知らないじゃん。
俺は剣に頼るのをやめ、当てもなく道を歩いて行く。
すると……
「きゃーっ!」
悲鳴が聞こえた。どうやら近くで良くない事が起きているらしい。
『左のほうからだな』
「わかった」
俺は剣の指示通り左の方へと走る。
さっきの叫び声の主はすぐに見つかった。
白いローブのような服を身に纏った金髪の女の子が虎に似た動物2頭に襲われていた。
「アレってヤバくない?」
走りながら剣に聞く。
『はあ……お前はアホだな』
「え?」
剣にため息をつかれ、俺は走るのをやめた。
ヤバくないんだ。実は虎(?)とジャレてるだけなのかな。
『あんなの確認しなくてもヤバイに決まってるだろ』
「ア、アホはそっちだーっ!」
俺は1度走るのをやめていた足に再びスイッチを入れ、全速力で女の子の元へ向かった。