5話
「取った!」
2人に見えるよう地図を掲げる。
「ナイスよ!」
さぞクレスが焦っている事だろうと表情を確認するが、相変わらず余裕な顔だ。
「いいよそれ。あげるよ」
「もしかして偽物?」
「本物だよ。ただ場所はもう覚えたからいらないや」
奪い返した地図に目を落とす。
地図にはこの世界(この国?)の概略図が書かれていて、4点赤い印がつけられていた。
もしかして宝の地図?
「それで逃すと思うか」
セシル団長の唸るような低い声。
「逃してくれないの?」
「当たり前だ。場所を知られて逃すわけないだろ」
「こちらとしてはそちらの実力もわかったしもう用はないのだけど。でも……戦うって言うなら手加減しないよ」
「それはこっちもだ」
セシル団長は地面に両手を着き、クレスの周りを囲むように4本の土槍を出す。
「またその技か。もう見飽きたよ……」
うんざりそうに言うと、クレスは土槍の届かないところまでジャンプし、空中で電気を作り出す。
手のひらに数多の電気の線が走る。
「貴様こそワンパターンな避け方だな」
「!!」
4本の土槍がぶつかり合わさると、1本の大きな槍となり宙を漂うクレスに襲いかかる。
さすがのクレスも宙に浮いた状態では動けないはず。
しかし、その予想に反しクレスは虚空を蹴って移動し、直撃を避けた。
「チッ!」
「さすが王国騎士団の団長。少し見くびり過ぎてたようだね」
そう言うクレスの右手には溜めた電気で具現化させた電撃の槍が。
それをセシル団長に向け雷槍を投げた。
セシル団長は地面を隆起させ土柱で迎え撃つ。
しかし、威力は雷槍が勝る。
雷槍は土柱を容易く切り裂いて行く。
「くっ!」
団長はたまらず地面から手を離し、立ち上がって後ろへと下がる。
元いた場所に槍が突き刺さると地面が大きく抉れた。
さらにクレスはここぞとばかりに電撃を出し追撃する。
電撃がセシル団長へ迫る。
「チィ!」
地面に手をつき当たるギリギリのタイミングで壁を作り電撃を防いだ。
クレスが地面に降りる。
そのタイミングで俺とアリアさんは炎と氷を放つ。
だがクレスはそれらを加速する事でかわした。
速いっ!
「セシル団長! クレスが近づいています!」
壁で前が見えないセシル団長に俺は戦況を叫んだ。
クレスは素早い動きで近づくと、蹴りで土壁を破壊した。
団長も立ち上がり接近戦に構える。
クレスのハイキックがセシル団長の頭目掛け蹴られた。
鋭い蹴りをセシル団長は腕を折りたたみ、体に密着させ防御する。
ゴッ!
骨の軋む音がここまで聞こえた。
「ぐっ……」
「団長だけあって確かに強いね」
「ほざけ!」
セシル団長が敵の脚を掴んで地面に投げた。
クレスは受け身を取りすぐに立ち上がると右ストレートを放つ。
セシル団長はそれを横に移動して避けると反撃に出る。
目まぐるしく変わる攻防を俺とアリアさんは固唾を飲んで見つめていた。
あれだけ接近されたら手が出せない。
「クレスが離れたら攻撃するわよ。いつでも攻撃できる準備をしておいて」
「わかった」
俺はアリアさんの指示に従い、いつでも攻撃できるよう炎の剣に魔力を集中させる。
クレスの蹴りをセシル団長がバク転で躱す。
それと同時に地面を隆起させ、土槍で攻撃する。
クレスは後ろへ下がりながら電撃を出し土槍を壊す。
2人の距離が開いた。
「今ね!」
アリアさんの合図で俺は炎を撃つ。それと同時にアリアさんも氷の礫を放った。
少し遅れて体勢を整えたセシル団長も、地面を隆起させ攻撃する。
コンビネーションもあったもんじゃない乱雑な波状攻撃。
全て避けているが、クレスを確実に追い込んでいる。
その証拠に不敵な笑みが消え、真剣な顔つきになっている。
「10倍連れて来てもいいってのはちょっと言い過ぎだったかな」
クレスがボヤいた。
「でも、3人ならどうにかなるね」
一瞬、3人の攻撃が途切れてしまう。その隙をつき、クレスがこちらに電撃を放った。
広範囲の電撃。
俺では完璧に避ける事も相殺するのも無理だ。
襲ってくるであろう痛みに備えていると、電撃と俺らとの間に壁が現れた。
電撃が壁に当たった音がし、壁が崩れた。
その一瞬の内にクレスはセシル団長との距離を詰め、鳩尾にアッパーを入れた。
セシル団長の体がくの字に曲がる。
「ガフッ!」
「甘いね。それとも目の前で一般人がやられる所を見たくなかったのかな」
バチバチバチ!
大量の電気がセシル団長の体へと流れ込む。
「があああああ!」
「どっちにしろ勝負アリだね」
ドサ。
セシル団長は気を失い地面に倒れた。
このままだと団長の命が危ない!
「クレスッ!」
俺は剣を握り、クレスに駆け寄り斬りかかる。
『待て! 戦っても無駄だ!』
剣の制止を無視し、俺はクレスに攻撃する。
「勝てないのがわかってて来るか。そういうの嫌いじゃないよ」
縦に、横に、斜めに剣を振るうが、読まれているのか、クレスにかすりもしない。
「動きに無駄が多すぎる。もっとコンパクトに振らないと読まれるし隙だらけだよ」
ゴッ! 頭に衝撃を受けた。
ハイキックをモロに食らってしまった。
「それと一応僕は敵なんだ。剣の腹じゃなくて刃の部分を向けなよ」
「っ!」
グラつく体を右足で踏ん張り支え、剣を横に薙いで反撃に出る。
「おっと」
クレスは身を屈めて剣を避けた。
俺は大振りを躱され隙だらけの状態になってしまった。
そこにクレスは踏み込んできて俺の腹部に手を当てた。
電撃が来る!
俺は急いで剣の柄部を懐に入ってきたクレスの頭部目掛け振り下ろす。
しかし俺の攻撃より先に電気が全身を貫いた。
視界が光の粒子で覆われていく。ライトでも当てられてるのかな。
そんなはずない。気絶しかけているんだ。
「戦うつもりはなかったんだけど、まあいいや。君、ここに来て負けた事なかったよね? 僕調べだと人は1回コテンパンに負けた方が強くなるよ。ま、たまに心が折れて立ち直れない人もいるけど」
勝った気でいるな。見てろ。一発食らわしてやる。一発……
俺の意識はそこで途絶えた。




