4話
俺は剣を振り炎の衝撃波をクレスに向けて放った。
クレスは最小限の動きでそれを回避する。
続けてアリアさんがポケットから水筒を取り出し、野球ボールほどの雹を5個、クレスへ向け放つ。
クレスはその雹を一歩も動かず左手一本で全て弾いた。
「ウソ!?」
右手に地図を持ったまま防がれるとは夢にも思っていなかったアリアさんは、信じられないといった表情。
逆に今度はクレスの攻撃。電撃が一直線にアリアさんに向かう。
その途中、地面から岩壁が現れ電撃を防いでくれた。
セシル団長の技だ。
「油断するなよ」
「ごめんなさい!」
セシル団長は一喝して、今度はクレスの周りの土を隆起させ土柱を作り出した。
土柱による四方からの攻撃。
これを避けるのは困難だ。
「四方からの攻撃か。厄介だね」
土柱が当たるギリギリのタイミングで上に飛び、攻撃を躱す。
宙に浮いた状態でクレスは魔力を練ると、電撃を出した。
バリバリと空気を引き裂きながら、電撃がセシル団長へと向かう。
「チッ!」
土壁を作りだし、電撃を防ぐ。
電撃は壁を半壊させたところで霧散した。
すごい威力だ。当たればただではすまない。
あれだけの攻撃が出来るところを見ると、クレスは遠距離での戦いが得意なのかも。
となると……接近戦しかない。
俺はクレスとの距離を一気に詰め、脳天目掛け剣の腹部分を振り下ろす。
「ハァ!」
「相変わらず甘いねえ」
クレスは稲妻のような速さで剣を躱すと、回し蹴りを俺の横腹に喰らわせた。
「つぅ……」
左手でどうにかガードできたが、10メートルほど蹴り飛ばされ地面に尻餅をついた。
接近戦も強いじゃんっ。
「やっぱり3対1じゃ余裕過ぎたね」
クレスはずっと余裕の笑みを崩さない。
俺は一旦距離を取り、2人と合流した。
「強いわね。どうしよう?」
「バラバラで攻撃しても勝てそうにないね」
「けど即興でコンビネーションが取れるかしら?」
「そうだね……」
俺は2人を見た。
人の言うことを全く聞かない山より高いプライドを持つアリアさんに、セシル団長か。
「無理じゃない?」
「あなた失礼なこと考えてない?」
確かに。セシル団長に失礼だった。
セシル団長なら連携を取れるだろうし。
俺は海よりも深く反省した。
「イオリの言う通りだ。即席のコンビネーションが通用するとはおもえん」
「ですよね」
「ではどうしますか?」
俺が頭を悩ませているとクレスから提案があった。
「とりあえずイオリ君は本気を出しなよ。大丈夫、君の炎くらいじゃ当たってもどうってことないからさ」
わざと俺を煽るような口調だ。
『……だそうだ。本気を見せたらどうだ』
剣も煽って来た。
挑発っぽいから乗りたくないんだけど、仕方ない。
やってやるか。
俺は剣に力を込める。それに呼応し、剣が赤く光り始めた。
「死んでも文句言わないでよ」
「ははは、死んだら文句は言えないよ。まあ死なないけど」
余裕しゃくしゃくな笑顔を振りまくクレスに向け、俺は先程の倍はある炎を出した。
三日月の形をした炎が一直線にクレスへと向かう。
クレスは左手を前に出すと、手のひらから電撃を出した。
俺が出した炎とクレスが出した電撃とがぶつかり合う。
その衝撃で土煙が舞い、クレスの姿が見えなくなった。
「……やるね。この短期間でここまで強くなるとは。ちょっと実力を見余ってたかな」
土煙が上がっていきクレスの姿がはっきり見えてきた。
炎を完全には相殺できなかったらしく、服が少し焦げていた。
「地図が燃えてる!」
「え?」
アリアさんが叫ぶのでクレスの右手に目をやると、確かに地図が燃えていた。
「あ、マズイ」
クレスは地図を地面に置き、燃えている箇所を叩き消火を始めた。
その隙をセシル団長が見逃すはずがない。
素早く地面に手をつくと、クレスの下から岩の槍が現れた。
突然現れた槍をクレスはしゃがんだ状態からバク転で避ける。
地図からは手を離し地面に置いたままだ。
チャンスッ!
俺は地図を目指し駆け出す。
セシル団長は畳み掛けるように、何十本もの土槍を出しクレスを地図から遠ざける。
アリアさんも雹を射出し、アシストしてくれた。
クレスはそのことごとくを避けたり壊したりして直撃を回避している。
そんな手いっぱいに見える中、こちら目掛け電撃を放ってきた。
「はあっ!」
俺は剣から炎を出し応戦する。
ぶつかった衝撃が吹き荒れる。
俺は土煙の中を走り抜け、地図を掴んだ。




