7話 エキシビジョンマッチ
怪我をしているディルクさんが担架に乗って運ばれて行く。
「今年の優勝者はイオリ選手だ。勝者にそして敗れてしまった者達にも今一度大きな拍手を!」
セシル団長が客席を煽ると割れんばかりの拍手と歓声が。
おお、これは嬉しい。けど少し照れ臭いな。
「怪我などはないか?」
観客の拍手に応えようか迷っていると、セシル団長から聞かれた。
「はい。大丈夫です」
「それはよかった。ならエキシビジョンマッチもできるな」
「エキシビジョンマッチですか?」
「去年があまりに圧倒的で盛り上がらなかったから、今年はそういうことがないように優勝者と私で最後にエキシビジョンマッチをするよう陛下に言われてな。まあ今年は君達のおかげで大いに盛り上がったからないならないでもいいと思うが、せっかくだしどうだろうか?」
「えーと……」
「エキシビジョンマッチだから本気で戦うわけじゃない。魔法を使って派手に戦えってくれればそれで十分だ」
俺は剣に視線を落とす。
(どう? 魔法使ってもいい?)
『ああ。あいつなら怪我させる事もないだろう』
剣から承諾された。
「そうですね。それくらいなら」
「そうか。ありがとう」
お礼を言い、客席の方を向くとセシル団長は大声で告げる。
「今から優勝者と私でエキシビジョンマッチを行う。観たい人はどうぞ見て行ってくれ!」
セシル団長の煽りに応え客席がワーっと湧き立つ。
「さてやるか」
セシル団長が足を肩幅に開き、右手は顎の前に左手は中段辺りに突き出して構えた。
基本的な構えだが、威圧感が凄い。
「まずは軽く組み手から入ろうか」
「はい」
俺も戦う体勢を取る。
「どこからでもかかって来い」
「わかりました」
俺は慎重に距離を詰める。
挨拶がわりの胴への回し蹴りは簡単に受け止められた。
スゴイ、びくともしない。
「遠慮は無用だ」
「そうみたいですね」
もう一度同じ場所に全力の回し蹴りを。
またガードされたが、根が張ったように動かなかったセシル団長の体が少し動いた。
団長は口の端を釣り上げ笑う。
今度は逆の右足で頭部への回し蹴り。
手で簡単に捌かれ、カウンターのワンツーが俺の鳩尾に入った。
「っ!」
「蹴りの後のガードが疎かになっている。気をつけろ」
意識したこともなかった。確かにガードが緩くなってたかも。
セシル団長が動き右腕を引く。
右ストレート? いやフックか。
どちらかを予想し、少し状態を屈める。そこに膝蹴りが顔面にやって来る。
フェイントだったかっ。
「くっ……」
掌で膝蹴りをガードし、逆らわず後ろへ。
「良い反応だ」
再び距離が詰まり接近戦に。
激しい攻防が繰り広げられる……ように観客には見えているようで盛り上がっている。
けれどその実、訓練のようなもので戦い方を示してくれていた。
「大分マシになったな」
「ありがとうございます」
「さて、これからが本番だ」
セシル団長が片膝をついて地面に手をついた。
それに対し俺は剣を鞘から抜いて魔力を剣先に集中させる。
剣が光を発したところで横に薙ぐと、三日月型した炎が飛び出した。
団長は土で柱を作り上げ、炎にぶつけて弾けた。
「次行くぞ」
「はいっ」
2本の土の柱が地面から現れこちらにやって来る。
剣を振り、炎で1本の柱を破壊する。
もう1本は横っ飛びで避けながら剣に力を溜める。
追って来る土の柱をしっかりと引きつけてから炎を当て破壊した。
「……こんなところだろう」
「ありがとうございました」
俺は剣を鞘に納める。
「これでエキシビジョンは終わりだ。最後にもう1度優勝者に大きな拍手を」
もう1度拍手喝采のシャワーが。
俺はその中を手を上げて応えたりして引き上げて行った。




