6話 決勝戦2
(強いなあ。攻撃が全然当たらないや)
『お前の動きは読まれているからな』
(え、そんな事できるの?)
『イオリ相手なら簡単だ。イオリの場合予備動作が大きくどの攻撃が来るかわかりやすい』
(ならもっと予備動作を小さくすれば読まれないで済むんだね)
『ああ。だが一朝一夕で消せるものじゃない』
(だよね)
『力はイオリが上だ。1発当てれればチャンスはある』
(わかった)
自分のやるべき事がわかり、ディルクさんの様子を窺う。
彼は蹴られた方の足を気にする素振りを見せた。
「……まさかあの体勢からこんな威力の蹴りが出せるとは。さすが二クラウスさんを1発で伸した蹴りですね」
「あ、大丈夫ですか?」
「ええ。優しいですね。でも気遣いは無用ですよ」
ディルクさんが構える。
俺も構える。
両脚に力を込められ、体が少し沈むのが見えた……来る!
先程同様のスピードで一直線に向かって来る。
だが今度はラリアットではない。右膝を引き上げ、高く飛んでいる。
横に動くと膝が顔の近くを通過して行った。
素早く後ろを向き、構えて次の攻撃を待つ。
相手は接近して来ると上段蹴りで頭部を狙いに来た。
予備動作がほぼない蹴りに、俺は両手でガードするので精一杯だった。
さらにそこから足をスイッチし、ボディに蹴りが入る。
ガードが間に合わずゴッ! と骨が軋む。
痛い。でも耐えられないほどではない。
俺は踏ん張って耐え、蹴り返す。
が、すでにディルクさんは安全圏に逃げており、蹴りは空を切った。
(さすがにもう受けてはくれないか)
「!!」
少し離れた場所にいたディルクさんが気付けば接近していた。
しまった! 試合開始時に見せた予備動作のないダッシュだ。
動きの中でも使えるのか! 油断した!
懐に入られ鳩尾に突きの2連打が。
「がはっ!」
何とか堪え、反撃に出ようとした時にはディルクさんは離れていた。
1発を貰わないよう、戦術をヒットアンドアウェイに変えて来た。
これはマズい。
どうにか捉えようと攻撃を繰り出すが、全て避けられ逆にカウンターを貰う。
せめて攻撃のタイミングがわかればそれに合わせてカウンターができるのに。
でも予備動作がないから攻撃が来る場所やタイミングがイマイチ掴めない。
なら……
もう一度前に出て踏み込む。
出会い頭にボディを貰い、俺はガードを下げた。
そこに相手がハイキックを打ってくる。
来た!
俺は少し遅れてローキックを放つ。
頭部への痛みと相手の太腿を蹴る感触が同時に来る。
痛い……けど作戦成功だ。
わざと頭を攻撃させるのはリスクもあるが、これしかディルクさんを捉えられる方法が思いつかなかった。
体勢を直し、ボディブローを打つ。
相手は避けずにガードした。
さっきのローキックが効いてる証拠だ。
動きが少し鈍っているディルクさんに近づくとラッシュする。
ガードされても関係ない。それでも十分効くはず!
ラッシュの最後に蹴りを放つとディルクさんは派手に飛んで行った。
でも見た目とは裏腹にダメージは少なそうだ。
当たる直前にディルクさんは少し後ろに飛び、上手くダメージを軽減させていた。
ただ、ローキックの方は十分効いているようで、重心を片方の脚に傾けている。
「大した威力です。たった1度のローキックで脚を止められるとは……勝てる気がしませんね」
「それはギブアップという事ですか?」
「まさか」
「ですよね」
「それにせっかく楽しくなって来たところです。ギブアップなんてするはずないですよ」
ディルクさんがニッと口角を上げ笑った。
つられて俺も笑ってしまう。
少しだけこの戦いが楽しいと感じていた。
俺は距離を詰め、接近戦が始まった。
渾身の右フックは屈んで避けられる。
そこからディルクさんは踏み込んで来て懐に入ろうとしてくる。
そうはさせないと、前蹴りを出すがこれも躱されてしまう。
ディルクさんはまだ脚が痛むようで本来のスピードはない。
脚が治る前に勝負をつけたい俺は、前に出て攻める。
けれど俺の攻撃は全てガードされてしまう。
攻撃がガードされるのは動きが読まれているからだ。
一朝一夕に予備動作は消せない。
でも少し分かりにくくするくらいはできるのでは?
そう思い、今まで大振りだった攻撃をディルクさんの動きを真似ながらコンパクトにしてみる。
大振りじゃないので避けられても体勢を大きく崩さず連続で攻撃し易かった。
手数が増え、相手に反撃の機会すら与えない。
徐々にディルクさんを追い詰めていく。
ハイキックで相手のガードを弾け飛ばした。
空いたミドルに蹴りを叩き込む。
しかしディルクさんはバックステップで後ろへ下がり避けられてしまった。
(動きが戻った! もう脚が治ったか!)
ドドン!
地面を強く蹴る音。
「!!」
ディルクさんが膝を上げ、弾丸のようなスピードで向かって来る。
俺は避けずに迎え撃つという選択を取る。
避けてもまた次の攻撃が来るだけだ。
「ぐっ」
膝蹴りを腹で受け止める。
衝撃で身体がくの字に曲がる。
耐え切った俺は右足を回し、全力で蹴る。
斜め下に蹴るとディルクさんは地面に叩きつけられた。
「ゲホっ、ゲホ」
追撃したかったが結構なダメージがあり、腹部を抑えながら地面に膝をつく。
こうしてはおられない。ディルクさんの次の攻撃が来る。
前を向くと予想に反して地面に横たわったままだった。
「あー、悔しいなあ。やっぱり勝てなかったか」
ディルクさんは地面に横たわったまま笑っている。
「立たないんですか?」
「立てないんですよ。もう脚が限界で」
「あ……」
足を見ると痙攣していた。
「イオリさんの勝ちです」
ディルクさんが天を仰ぎながら呟いた。
セシル団長が状況を判断し、大声で告げる。
「ディルク選手続行不能により勝者イオリ選手!」
闘技場が大きな拍手に包まれた。
なんとも言えない高揚感を得た俺は小さく拳を握った。
嫌々出場した大会だったけど、優勝はやっぱり嬉しいものだった。




