5話 決勝戦1
決勝戦。
ディルクさんと向かい合い、試合が始まるのを待つ。
「レディ……ファイッ!」
相手の出方を伺う。
まだ動かないか。
……え?
ジッと見ていたはずなのにいつの間にかディルクさんは動いていて、気づけば懐に入られていた。
「くっ……」
掌底を突き上げて来る攻撃を避けるため、精一杯背中を仰け反らせる。
顎の数寸先を掌底が通過して行く。
(危な……いきなり終わるとこだった)
今度は俺が攻撃する番だ。
背中を元に戻すと同時に正拳突きを繰り出す。
相手はそれをしゃがんで避け、さらに腕を掴もうとしてきた。
(投げられるっ)
俺は右手を強引に引き寄せ、取られかけた腕を戻し、敵の顔面を狙い蹴り上げる。
ディルクさんは蹴りが当たる前にバク転をしながら遠ざかって行く。
俺も少し後ろに下がり、距離を置いて向かい合う。
(なんてスピードだ。一瞬で懐に入られた)
『いや、スピード自体はそうでもない』
と剣がそんな訳ないだろうと思うようなことを言った。
(さっきのが?)
『ああ。スピードはそれほどでもなかったが、予備動作がほとんどなかった』
(予備動作……?)
『普通動こうとすると頭が上下したりするだろ。そういう事前の動きがなかったから動き出しがわからず、いきなり接近されたように感じ、スピードがあると錯覚したんだ」
(なるほど)
厄介だな、とディルクさんを見ると楽しそうに微笑んでいた。
「さすが。アレを避けるとは。思ってた通り強いですね」
「ディルクさんこそ。想像以上の強さです」
「まだまだこんなものじゃないですよ」
ディルクさんが低く構えを取った。
『何か仕掛けて来るつもりだな』
(みたいだね)
ググッとディルクさんの頭が沈みこむ。
来る!
ドドンッ! という破裂音が聞こえたかと思うと、ディルクさんが一瞬にして目の前に移動した。
あの距離を一瞬で?!
これは錯覚じゃない。本当にスピードがある。
ディルクさんが左腕を広げて突進して来る。
俺は首を取られないよう両手を顔の前でクロスさせ防御する。
ガードの上からラリアットが叩きつけられた。
「っ!」
勢いで後頭部から地面に突っ込みそうになる。
咄嗟に地面に手を付きバク転で体勢を戻す。
「うぐっ!」
ラリアットをやり過ごせ安心してる俺の背中に膝蹴りが入った。
反撃に出たい俺は旋回しながらバックブローを放つ。
しかし相手はすでにそこにはおらず、拳が空を切った。
どこに行った?!
惰性でそのまま旋回したが見当たらない。
という事は……上か!
見上げるとディルクさんが落下して来ていた。
俺はとっさに両手で頭部をガードする。
「くっ」
ガードの上からかかと落としが。
骨が軋む音が耳に響く。
そのまま相手は地面に降りると、ガラ空きになっている俺のボディを連打。
「がはっ」
そして間髪入れずに回し蹴りが顔面に襲ってくる。
両手を顔の前に持ってきて身を縮こませる。
ガツンと衝撃が走り、後方に飛ばされる。
今度はまた空いたボディに拳が入る。
さらにそこから膝蹴りと俺の防御をすり抜け攻撃が次々に入る。
こ、呼吸が……マズいこのままじゃやられる。
俺は苦肉の策でローキックを出す。
相手はそれを読んでいたようで、脚を上げ脛でローキックをカットする体勢に。
構わず振り切る。
ゴン! と鈍い音が響く。
完璧に受けられた。
マズい反撃が……来ない?!
それどころかディルクさんは離れて行く。
とりあえず今のうちに呼吸を整えよう。
警戒は解かないまま深呼吸をして身体に酸素を巡らせた。




