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異世界転移!  作者: 中原
プロローグ
1/67

1話

 どうやら俺、佐伯伊織は夢を見ているらしい。

 夢の舞台は全方位を岩に囲まれた薄暗い空間。

 そこで剣を持った俺は、5mはありそうな筋骨隆々の半獣人と対峙していた。


「グガアアアアアアアッ!」


 地面を震わせるほどの咆哮を、半獣人が出した。

 真っ赤な体に2本の巻いた角を頭から生やしたソイツは、ゲームとかで見るイフリートに似ていた。

 剣を持っているが、どう見ても勝ち目はない。けど、逃げようにもここは閉鎖空間で逃げられない。

 だから戦うしかないのだけど、その覚悟は意外とあっさりと決まり、剣を強く握った。

 

『気を付けろ。そろそろ攻撃してくるようだぞ』


 頭にそんな感じの言葉が響く。幻聴だ。

 その幻聴の言った通り、敵が炎を纏った拳を振り下ろして来た。


『ガードはやめとけよ。衝撃に耐えれても炎に焼かれる』

「わかってる!」


 丸太のように太い腕から繰り広げられる一撃をガードする、という選択肢は最初からなかった。

 だから俺は、大きく横に動いて拳を躱す。熱風が右横を通り過ぎて行く。

 ここで安心してる暇はない。反撃に出るため一歩踏み出す。


 (動きは速くない。行ける!)


 敵の腕は伸びきっており胴回りはガラ空きだ。

 剣で攻撃しようと近づく俺の動きを見て、相手が口を大きく開けた。

 口の前に火球が広がって行く。


 (まさか……)


 嫌な汗が毛穴から噴き出す。

 反撃は諦め、地面を蹴飛ばして後ろへと下がる。


「ガアアア!!」


 さっきまでいた場所に火球が落ち、その爆風で俺は壁に打ち付けられた。


「ぐっ!」


 

 歯を食い縛り耐え、すぐに移動する。

 次の火球が発射されていた。

 すぐ後ろで大きな音を立てながら火球が爆発する。


「うわっ!」


 その後も火球はとどまるところを知らず、次々と発射されて行く。

 俺はそれを壁に沿って円を描くようにして全速力で逃げる!


『逃げ回ってるだけじゃ勝てないぞ』


 また頭に声が響いた。

 言われなくてもそんな事はわかっている。

 でもこんな火球の雨あられの中、反撃なんて無理だ。


『呼吸を読め』

「呼吸?!」


 走り続けながら聞き返す。


『火球は一定のタイミングで吐かれているだろ。なら火球が来ないタイミングもわかるはずだ。その間に攻撃しろ」

 

 理屈はわかるが、それってかなり危険ではっ?! 

 ……いや、どうせこれは夢なんだ。試してみるのもいいだろう。

 幻聴の言う通り、逃げながら火球が来るタイミングを測る。

 1、2……1、2……今だっ!

 俺は急停止する事で火球を躱し、出来うる限りの速さで敵に近付く。

 次の火球が来る前に懐に入れた。


「はあああああっ!」


 腹部目掛け全力で剣を薙ぐ。

 ガキィン! と金属同士がぶつかり合ったような音が響いた。


「……あれ?」


 固ッ!

 剣は皮膚すら傷つけれずに止まった。


「あ……」


 そして上を見上げ絶望した。火球の準備が終わり、それを俺目掛け放出して来た。

 ゆっくりと火球が迫って来る。







 ビクッと筋肉が収縮し、俺は現実に引き戻された。目を開ければ見慣れた天井が飛び込んで来る。


「なんだ。やっぱり夢か……」


 そう呟いたが、夢の記憶はすごい速さで霧散して行き、その時にはもうどんな内容だったかは忘れていた。

 首を横に動かし時刻の確認をする。まだ5時になったばかりだった。

 2度寝ができる時間だと布団を引っ張り寄せた時だった。


『早くこっちに来い』


 頭の中で声が響いた。

 幻聴だ。残念ながらこれは夢じゃない。こうやって朝昼問わず幻聴が聞こえるんだ。

 幼い頃からそうで、昔は色んな病院で検査したりもした。けど原因は不明。幸い身体に悪影響がないから放置している。


「……どこに来いっていうんだよ」

 

 幻聴にうんざりの俺は、ベットから上半身を起こして呟いた。


「んー……」


 やり場のない怒りを発散する様にわしゃわしゃと髪を掻く。

 幻聴のせいで覚醒してしまい2度寝もできそうにない。

 仕方ないので少し早いがベットから出て準備を始める。

 今日は高校の全校登山の日なんだ。







「おはよう」


 俺は集合場所である校門横のスペースに1人で立っていた友人の入間新に挨拶をする。

 切れ長の目が俺を捉える。


「おはよう。遅かったな伊織」

「遅くないと思うけど。まだ集合時間まで時間あるし」


念のため校舎に取り付けられた時計を確認する。定刻まで15分ほどあった。


「遅くないだと? 俺は伊織が来る30分前からいるぞ」

「入間が早すぎるんだよ。何でそんな早くに来たの?」

「伊織、今日行く山がどこか知っているか?」

「万部山でしょ」

「そうだ。あの山は古くから霊峰として信仰の対象だった。つまりそういう力が満ちている、というわけだ。ワクワクするだろう?」


 言ってることの意味がわからない、と思う俺ではなかった。

 入間との付き合いは割と長いんだ。たぶん入間は山に登るのが楽しみで待ちきれず早く来てしまった、という事だろう。

 彼は若干厨二チックなとこがあり、言葉選びが独特だった。

 ま、そこが面白いと思って一緒にいるんだけど。だけど、困る事もある。


「なんだなんだ。また2人で厨二な話してるのかよ」


 入間と話していると友人の木戸マサルが笑いながら話しかけて来た。


「だから俺は厨二じゃないって」と弁解する。

 入間は面白いんだけど、一緒にいると俺まで厨二扱いされ弄られる。


「なんだよお前らまたそんな話してんのかよ〜」

「どんな話してたんだよ〜」


 他の友人達もニヤニヤ笑いながら話しかけてくる。


「だから違うって」

「全くだ。俺らをその辺の設定だけの奴と一緒にするな」と入間。


 そこで俺を一緒に入れないで欲しいのだけど。

 今日も厨二疑惑は晴らせず、友人達とワイワイ騒いでいると、大型のバスが入って来た。

 あのバスに乗って山の麓まで行き、そこから登るらしい。

 俺達は2組と書かれたバスに乗り、後ろの方の席に座る。隣には入間が座った。


「楽しみだな」

「入間ってそんなに山登り好きだっけ?」


 中学の時の登山はそんなに張り切ってなかったと思うけど。


「いいや。たださっきも言った通り万部山は霊峰として有名だからな。俺が思うにあの山は昔……」


 あ、まだその設定続いていたんだ。

 山登りが相当楽しみなようで、いつもより厨二成分多めだ。

 そんな入間と話していると、あっという間にバスは目的地に到着した。

 前から順にバスを降りて行き、俺らが降りる番が来た。

 椅子から立ち上がり、通路に出て窓の外を見る。

 そこには悠然とそびえ立つ大きな山の姿があった。


「この山登るのか……」

「伊織も楽しみになって来たか?」

「いや……」


 ごめん入間。むしろ逆だ。絶対キツイよ。この山登るの。

 できれば登らずにこのまま帰りたいな。なんて考えながらも自分には山を登るという選択肢しかないので、仕方なく流れに従ってバスを降りた。

 その時だった。

 キィーンと頭の中で不快な音が響いたかと思うと、吐き気に襲われた。


『さっさと来い。コッチは大変なんだよ』


 幻聴だ。

 しかも視界がブレ、一瞬見知らぬ景色が映った。薄暗くて辺りを岩で囲まれたような空間。

 どうなってるんだ? こんなの初めてだ。


「くっ……」


 俺は胃が裏返るような吐き気を覚え、立ち止まって口元を押さえる。


「どうした伊織? 気分悪いのか?」


 後ろの木戸が心配そうに聞いてきた。

 俺は頭を縦に動かす。


「大丈夫か。先生呼ぼうか?」


 幻聴が遠のくと同時に吐き気も遠のいて行った。


「……いや、大丈夫。もう大丈夫だから」

「本当か? 無理すんなよ。顔色悪いぜ」


 木戸が心配そうな顔で覗き込んでくる。

 それとは対照的に、何故か入間は少し嬉しそうだった。


「さすが伊織だな。もうこの山の力を感じているとは」

「えっ、さっきの演技だったん?」

「違う違う! 」


 俺は木戸の疑問を濡れ衣だと即座に否定した。

 でもさっき一瞬だけ見えた景色はなんだったんだろう。よくわからない。体に影響が出たのは初めてだ。

 しかしこれ以上騒ぐと未来永劫厨二疑惑を拭うことが出来なくなる気がする。

 もう吐き気もないし、きっと大丈夫だろう。

 多少不安は残ったが、あまり深く考えず山の頂上目指して歩き出した。

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