5 三年生
「いやー、びっくりしたわー。いろんな意味でやばい奴ら入ってきたねー」
後輩たちが道場を後にする背中を見届けながら、みどりが言う。
戸締りをして、鍵の返却に行っている素子を待っていた。
「あんまり喧嘩しすぎて部活に支障出ないでほしいけどね。総体までそんなに時間ないし」
もう1人の3年生部員である津田沙帆が言った。彼女は3年生の中で最も背が低い。
「まあ、あんたも人のこと言えないでしょ? 1年のときに、中学の新人戦のことずっと根に持ってたじゃん」
「今は別にちゃんと仲良くチームメイトしてるからいいじゃん! それより素子戻ってきたよ」
悪戯っぽく笑うみどりに沙帆は憤慨する。しかしそれ以上言い争いをすることはなかった。体育教官室から出てくる素子を視認して、2人はスクールバッグを肩にかけ直す。
もうすでに日は落ちて、等間隔に設置された街灯が3人を照らしている。合流した3人は、話しながら歩きだす。
「本当にどうなることかヒヤヒヤしたよ。衝撃的すぎて言葉が出なかった。
正直、永倉がキレたのは止めるべきだったかもしれないけどね。2年は完全にビビってたし」
「沙帆はよく黙ってたよね。あそこでえみが梓に手を出してたら、止めなきゃいけなかったと思うよ。
まあ、最後は素子がどうにかしてくれたから良かったけどね」
「うーん、あの沈黙を破れるのは素子しかいなかったよね。っていうか、永倉を止めなかったのって、敢えてなの?」
沙帆が素子に問いかける。相変わらずの無表情で素子は答えた。
「止めてもあの子は絶対に言う性格でしょ。結果的に山崎さんの心境に変化があったならそれでいいと思う」
校門では、聡子がそわそわと落ち着きなく姉を待っていた。それを視認した素子は、「じゃあ」と、2人に言うと足早にそちらへ向かっていった。
「相変わらず食えないやつめ」
「ほんとそれな」
沙帆の言葉に、素子を小学生のときから知っているみどりが同意した。