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王太子殿下と男爵令嬢の初恋戦争  作者: 月之丞
出会い編
5/5

男爵令嬢と作戦会議

閲覧いただきまして、ありがとうございます。

なんと!ブックマーク件数が増えていました。

ぽちっとして下さった読者の皆さま、ありがとうございます。すごくうれしいです。

次話は先の見通しを立てつつ組み立てたいと思っているので、少し投稿が遅れそうです。

また次もお付き合いいただければ幸いです。

※次話投稿しだい、前書きは削除します。

まぶたを照らす朝日のまぶしさで、眠りについていた意識がゆっくりと浮上する。

まだまだ眠いと訴える欲求に忠実に、わたしはそのまま寝返りをうって朝日から逃れようとした。

いくらか暗い方向を向いて、二度寝を決め込む体勢になる。


「お嬢様、起きて下さい」


二度寝を制止する声と共に、わたしの体がぐらぐらと揺れる。

重いまぶたをこじ開けると、メイド服を着た赤毛の女性がわたしの肩に手をあてて揺すっていた。

わたしは、毎朝の恒例になっている穏やかな眠りの妨げに、顔をぎゅっとしかめて抗議の視線を送った。


「もうちょっとだけ」

「ダメです。お嬢様は放っておくといつまでも寝ていますから」

「きびしい……」

「ほら、言ったそばから潜ろうとしないで下さい!」


布団を引っ張り上げてもぞもぞと潜り込もうとすると、もう五年の付き合いになるメイドのアニーは、容赦なく布団を引っぺがしてきた。

今日も快適な二度寝は阻止された。

前世ならここでダラダラと二度寝ができたのにな。


諦めたわたしはのそのそとベッドから起き上がり、くっつきそうになるまぶたをどうにか開けて洗面所で洗顔を済ました。

ふわふわのタオルで顔を拭きながら部屋に戻ると、アニーが着替えを用意してくれていた。

今日は来客があるため、いつもより少しだけお洒落仕様のようだ。

胸元に花の刺繍がほどこされた白のシャツと若草色のスカートは、大人っぽい雰囲気でわりと気に入っている。


着替え終えると、すでにブラシを持ったアニーがスタンバイしているドレッサーの前に移動する。

前世は庶民だったため、いちいちなにかしらを手伝ってもらうことに抵抗があるが、しかし全てのことを自分でやってはいけない。

使用人は、仕えている家に奉仕することで給金をもらっている。

ゆえに、彼らの仕事をいたずらに奪っては、彼らの職を奪うことにつながってしまう。

人を使うということに未だ抵抗は感じるが、これは今世で貴族に生まれてしまった以上わたしが譲歩するべきことだ。

メイドのするがままに、大人しく髪を梳かしてもらう。


「サイドを編み込みにして、後ろでまとめようと思っています。全体的に大人っぽく仕上げようかと」

「洋服も大人っぽいしね」


数回梳かすだけで天使の輪ができた黒髪を、アニーの細い指がすくいとって、すいすいと編み込んでいく。

鏡越しにアニーの職人技をぼーっと見ているわたしの顔は、いかにも眠たいという感じでまぬけに見える。


「髪飾りはこちらのダリアのものにいたしますね。ちょうど季節に合っていますし、華やかな印象になりますから」

「はぁい」


花の髪飾りはいっぱい持っているが、実は半分くらいのものはそれが何の花なのか、よく知らなかったりする。

たんぽぽや菊のように細かい花弁がいくつもついている豪華なこの花はダリアと言うらしい。

季節に合っているそうなので、夏頃に咲くようだ。

さすが花屋の娘。

とてつもなく頼りになる。

心の中でアニーを褒め称えている間に後頭部のシニヨンがいくつかのピンで固定され、大輪のダリアが挿し込まれた。


「はい、できました。旦那様と奥様はもう食堂にいらっしゃると思いますから、お嬢様も急いで下さい」

「今日も完璧だね。ありがとうアニー」


アニーが手持ち鏡を持ってわたしの背に立つ。

鏡越しに映った髪型を、頭を傾けて様々なアングルから確認して満足げに頷くと、アニーは自慢げに微笑んだ。

そのまま部屋を掃除するアニーに急かされて部屋を追い出されたため、急いで一階の食堂に向かうことにした。


小走りで階段を駆け下りると、食堂の外に待機していた下僕がちょうどドアを開けてくれた。

彼は、ほぼ毎日寝坊してくるわたしのためにドアを開ける仕事を担っている。


「おはようジャック。今日もありがとう」

「おはようござます、ルルトメリアお嬢様」


ちなみに下僕とは男性使用人の階級のことで、主に給仕やドアマンを担当している。

我が家は小さな家なので、下僕はジャックとセスの二人、執事は父の従者も兼任していて、侍女が一人、メイドが二人、料理人が一人の合計七人が働いてくれている。


「おはよう、お寝坊さん。よく眠れたかしら?」

「おはようお母様。もうちょっとだけ寝たかったな」

「これ以上眠ったら一日が終わっちゃうわよ」

「ふふ、試してみようかな」


朝に弱いわたしは、今日も今日とて朝食をとるのがビリだった。

輝く金髪に赤い瞳、わたしと全然似ていない華美な容姿の母と朝の挨拶を交わす。

察しがいい人は気がついたかと思うが、わたしの母はレオンハルトやレイラトリアの父であるライアンサーベル侯爵の実妹で、彼らいとこの叔母にあたる。

この家柄最強超絶美人とすごい運命の引き合わせで結婚した父は、読んでいた新聞をおいて、にっこりと微笑みかけてきた。


「おはようルル。手紙が届いていたよ」

「おはようお父様。ありがとう」

「今日は午後に来客があるんだよね?」

「そうなの。先日知り合った人で、今度行くパーティーに付き添ってもらおうと思って」


父から手紙を受け取る。

触り心地の良いさらさらした封筒を裏返して差出人を確認すると、それは今日の午後に会う約束をしているエドワードからだった。

ペーパーナイフで封を切ると、メッセージカードくらいの大きさに折りたたまれた便箋が入っていた。


“親愛なるルルトメリアへ


調子はどう?

今日の十三時に伺う予定だったけど、少し遅れちゃいそうだ。十五時までには駅に着くようにするね。急な手紙ですまない。


 エドワードより”


よほど忙しいのか、文字が走り書きのように所々繋がっている。

今日は今度行くパーティーの話と、わたしたちの関係のつじつま合わせをする予定だった。

二時間も減るとなると、少し計画を変更する必要がありそうだ。


「訪問が少し遅れるって連絡が」

「そうか。夕食はどうする予定なんだ?」

「結構忙しいらしくて、汽車のなかでとるって言っていたから、変更はなくて大丈夫」


朝食のプレートが運ばれてきたので手紙をたたんで封筒にしまい、乾いた口内をお茶で潤して、ふわふわとろとろのスクランブルエッグから手をつけた。

ほどよい塩味と濃厚なたまごの味が口いっぱいに広がる。


「遊びに来るその子って、どなただったかしら?」

「エドワード・フォン・ライヤー。ほら、この前伯父様のお家でガーテンパーティーがあったでしょ? そこで知り合ったの」

「ふぅん。ルルちゃんが初対面の人とそこまで仲良くなるなんて、ちょっと珍しいわね」

「そうかな?」

「そうよ~」


決して仲良くなったわけではない。

わたしが都合良く利用されるだけだ。

――ということは、口が裂けても言えないため、あくまで仲良しを演出しなければならないのだが。

追求を避けるためにお茶を飲むと、トーストをかじっている母と目が合った。

興味津々というようにニヤニヤしている。


「……別に、そういうのじゃないからね!」

「そういうのって、どういうの?」

「お母様が期待するようなこと!」

「……レウ、そのへんにしてあげよう」

「え~、お母様気になっちゃう~」」


父がゴシップ大好きな母からのチクチク攻撃から救ってくれてたすかった。

父という絶対の盾に守られて優位になったわたしは、母にふふんと笑ってみせた。

母はくちびるを尖らせて、豆のトマト煮をつついている。

ちなみに、母の名前はレウロマリア、父の名前はデルフィニウムである。


「じゃあ私はもう行くよ。帰りは十九時をすぎると思うから、夕食は先に食べていて構わないよ」

「ええ、わかったわ。気をつけて行ってきてね」

「ああ」


席を立った父は、母の頬にキスをして、それからわたしの方を向いた。


「ルル、お友達にくれぐれもよろしくと伝えてくれ」

「うん。いってらっしゃい」


父はわたしの頬にもキスをすると、新聞を手に持って食堂を後にした。


目が笑っていなかった。

わざわざ『お友達』の部分も強調していた。

アレは「俺の娘にちょっかいかけたのはどこぞの馬の骨だ」という目だ。

四捨五入で三十年生きてきたわたしには分かる。


けれど、安心してほしい。

エドワードは王太子のための偵察兵のようなもので、わたしとどうこう発展するような関係には絶対にならない。

それに、伯爵令息が平凡な男爵令嬢をわざわざ好むなんてこと、この世界では滅多に起き得ないことだ。

――両親のことは横に置いておくとして。


「ごちそうさまでした。十四時くらいに馬車を駅にまわしても良い?」

「ええ。わたくしは自室にいるわ」

「わかった。書斎で調べ物をするからここで」


二階に向かう母と別れて、書斎へ向かった。

相手の話に合わせながらゆっくり話を進めようと思っていたため、二時間の減少はかなり痛い。


「つじつま合わせにかなり時間を使うとして、令嬢のピックアップはわたしがするかなぁ……」


貴族名鑑から及第点の家柄の令嬢を選んでもらおうと思っていたが、時間的に厳しそうである。

パーティーに来そうな令嬢だけでも、わたしが先にピックアップしておいたら少しは時間に余裕ができそうだ。

全面的に協力すれば、このスパイのような小間使いのような立場からもお役御免だろう。

ちゃちゃっと済ませて、ゆっくりとおいしい紅茶が飲みたい。

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