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小さな死神と老いた魔術師  作者: 樫吾春樹
三度目の開戦と願い
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第二十話

 時間は少し遡って、ここは神々の住む土地「ディユー」と呼ばれる大地。私、水橋琴織は数日前にここに連れ戻されて、これから始まる戦争の切り札として利用されるのだろう。死神と産神の混血として生まれてきた私は、この戦争を仕切る人達にとっては都合がよかったらしい。生かすことも殺すことも、自由自在だと思っているからだろうか。私自身、それを否定することはできないけども。

「着きましたよ、お嬢様」

「ありがとう、ジャック」

 声をかけられ、私は顔を上げる。相変わらずの大きな屋敷に、うんざりするほどの広い庭。門を通る際にそこにいた門番に挨拶をして、私は屋敷の中に入っていった。屋敷の中に入ると目の前には二階に続く幅広い階段があり、その階段の左右には広間へと続くドアがある。出ていった時と何も変わらない景色が、そこにはあった。

「おかえりなさい、琴織」

「ただいま、お母さん」

「元気そうでよかった。随分と成長したんじゃない?」

「そう?」

 母親と久しぶりに会話をしながら、私達は広間の方へと歩いていく。中に入ると、下姉の香織が椅子に座って読書をしていた。私達は双子が二組という四人姉妹で、上の姉達と私と妹という感じだった。

「久しぶり、香織姉さん」

「長い間顔を出さないと思ったら、やっと来たのね」

「姉さんも相変わらずですね。詩織姉さんは?」

「詩織はまだ旅しているよ」

「なるほど。彩織から、何か連絡は来ましたか?」

「来たけど、特にたいしたことではないわね。軍属になって、毎日訓練に取り組んでいるってことくらいかしら」

 今この場にはいない他の二人の姉妹のことも聞きながら「相変わらずの態度だな」と、私は一人で苦笑していた。

「それより琴織。あなた、あの為に呼ばれたんでしょう?」

「はい……」

「私は反対したのよ。だけど、周りが許してくれなくて…… ごめんなさい」

「姉さんは悪くないですよ。気にしないでください」

 この家の当主である姉の香織は「まだ幼いから」という理由で、決定権があまりなくて周囲の大人達がほとんど決めてしまう。そして、母や祖母は「引退しているから」ということで、その話し合いに参加できない。だが、母達のことだ。勝手に戦場に参加しては、勝手に物事を終わらせてしまうことだろう。特に祖母のクリスティーナは、そうしてしまうだろう。そして、後から母や姉に怒られてしまう。昔一度だけ、そんな光景を見たことがあった。

「今は、ゆっくりと休むといいわ。始まってしまえば、なかなか休めないと思うから」

「ありがとう。そうさせてもらうね」

 姉にそう告げ私は広間から出て階段を登り、左側の通路へと進んでいく。通路の一番奥が私の部屋となっていて、出ていく前と変わっていなければ今もそこのはず。帰らないと思い鍵は閉めないでいたため、ドアノブに手をかけるとすんなりと開いた。

「綺麗にしてくれてたんだ」

 扉を開けた先の部屋の中は綺麗に整頓されていて、こまめに掃除してくれていたのだと知った。左側にはベッドとクローゼットが、右は本棚と勉強机があり配置は出ていった時と変わっていなかった。

「ただいま、監獄」

 そう呟き、私はベッドに横になった。

 気付けば私は寝てしまっていたようで、目が覚めたのは皆が寝静まった夜中だった。窓の外では虫の音が響き、辺りはとても静かだった。

「ちょっと辺りの様子でも見てこようかな」

 部屋からそっと抜け出し広い屋敷を抜けて、私は夜のエトワールの街へと向かう。七歳の時に家を出てから、気づけば八年の月日が過ぎていた。街の景色はあの頃とは随分と変わり、知らない建物もかなり増えた。そして何より昔と変わったと感じたのは、こんな遅い時間でも街は明るくて様々な種族が出歩いていることだった。

「この時間でも賑やかなのはちょっと意外……」

 そんなことを呟きながら歩いていると、吸血鬼の男性が声をかけてきた。

「そこのお嬢ちゃん。ちょっと、俺と遊んでいかないか?」

「遠慮させていただきます」

「そんなこと言わずにさ、ちょっとだけ」

 腕を掴まれ逃がさないようにされて、しつこい誘いに私はうんざりしていた。掴んでいる男性の腕を切り落とそうかと一瞬考えたが、帰って来て早々に騒ぎを起こしてはどうしようもない。ここは穏便に、話し合いで済ませられればいいのだが。

「痛いです。離してください」

「嫌だね。遊ぼうぜ、嬢ちゃん」

「お断りします!」

「つれないな。そう言わずに」

 無理矢理男の方へと引っ張られ、足が少しよろける。そろそろ私も我慢の限界で、誰かがこの吸血鬼を止めないならどうにかしてしまいそうなほどだった。きっと今頃私の左目は赤く染まり、それが死神を示すものだとわかってしまうだろうか。

「おら、こっち向け!」

 顔を吸血鬼の方に向けられ、私は彼の顔を睨む。赤よりも深い真紅の瞳を見た瞬間彼は固まり、慌てて掴んでいた手を離しその場に土下座した。

「も、申し訳ございませんでした! 無礼をお許しください、死神様!」

「しつこいのは嫌いよ。今すぐ目の前から消えて」

「かしこまりました!」

 土下座していた吸血鬼は、私の言葉を聞いてすぐさま蝙蝠となって飛び去って行った。それを見ていた野次馬達は、私が視線を向けると皆散り散りになって消えた。ため息を一つ吐いて、手鏡を見て瞳が元に戻ったのを確認して私は再び街を歩く。 神の一柱であるエレシュギガルを宿す私の家系。それは周囲に崇められると同時に恐れられ、誰も近寄っては来ない。恐らくどこの世界に行っても、その扱いは変わらないだろう。

「師匠に会いたいな……」

 皆に恐れられるせいで私には友達などいなくて、街を歩いていても見知った顔に出会うわけもなかった。一人寂しさを覚えながら思い出していたのは、自分を一人の子供として扱ってくれたエリック師匠のことだった。「戦争なんかどうでもいい。早くあの家に帰りたい」そんな思いを抱きながら、私は屋敷へと戻ることにした。

 夜も明けて、日も高くなってきた頃。自室で本を読んでいた私は、一階の広間へと来るようにと呼ばれた。

「御当主の方々がいらっしゃるので、次期当主として恥ずかしくないようにお願い致しますね。琴織お嬢様」

「かしこまりましたわ」

 扉の向こうの執事にそう答え、うんざりとしながら外向けの綺麗な洋服に着替える。他の世界で言うならば、ゴシックドレスだろうか。窮屈なそれを身に纏い、編み上げブーツを履いて広間へと向かう。これから行われるのは、三回目の戦争に向けた主要一族の会合だった。

「帽子をお忘れですよ、琴織お嬢様」

「あら、ありがとう」

 魔術で自分のクローゼットから帽子を引っ張り出して、それを頭に軽く被せる。

「これで、大丈夫かしら」

「はい。皆様が、お嬢様のことをお待ちになられていますよ」

「私じゃなくて、私が扱う能力をでしょう?」

「そのようなことはありませんよ」

 執事に嫌味を言いながら、広間の扉を四回ノックしてから私は中に入る。部屋の中では円卓を囲むように、香織姉さんを含めてこのサンティエ国の十三人の当主が座っていて、それぞれの目の前には家紋が描かれたカードが置かれていた。いつものように一礼し、私は姉の隣に立った。

 まずは、姉の座っている大鎌が描かれた席。ここはカロル家の席で、私達死神を司る者達が座る場所。歴代死神であり当主であった人が座り、姉で十七代目となる。昔の文献によると、この世界を作った創造神の一柱だということが書かれてあった。

 次に姉の左側に進み、黒蝶の描かれた席。ここに座っているのは、紫の短髪と瞳をした女性。名前は、望月希美モチヅキノゾミさん。母さんの幼馴染の女性で、望月家は暗殺者の家系だとか。カロル家とは、かなり友好的である。

「お久しぶりですね、琴織お嬢様。随分お綺麗になられましたね」

「ありがとうございます、ラルスさん」

 望月さんの隣の席はピエロが描かれていて、オレンジに近い金髪で片目の隠れた碧瞳の青年が座っていた。彼はラルス・ブレディで、望月希美の伯母にあたる望月瑞希モチヅキミズキさんと婚約していた。だが、彼女はとある事故で亡くなったらしい。事故の内容は、詳しくは知られていない。

「人も揃ったし、会合を始めましょうか」

 そう言ったのは、白い羽根の描かれた席の人物で、名前はオフィエル・アルバーン。明るい金髪に翠の瞳をした天使族の人物で、姉の右側に座っている一族とは犬猿の仲である。その為なのか、私達とも仲は良くない。

 その隣で静かに座っているのが、白い短髪で赤と水色のオッドアイの女性だ。Φ(ファイ)の描かれたカードが置かれ、名前は確かスノー・フェイ。彼女の家系はまだ歴史も浅く、望月家に拾われたことが始まりだとか。だが、時を旅する旅人であることから、保護するのも目的としてこの会合に加えてもらったとか。そして、それを決めたのは私の祖母だとかなんとか。

「そうね、長引く前に決めることだけは決めましょうか」

 姉のほぼ正面に座りそう言ったのが、私達カロル家と対になる産神を司る一族。竪琴をモチーフとしたマリン家で、当主は水鳥ミドリ・マリン。姉と同い年で、偶然にも誕生日も同じ。白い髪に、海のような青い瞳。私達の家の別名が黒猫なら、彼女の家は白猫と呼ばれることもある。更にこの家系は、創造神である三柱の一つでもある。

 席に座る人物を眺めながら今一度関係性を整理していたら、気づいたら話し合いがどんどん進んでしまっていた。

「琴織、大丈夫?」

「大丈夫です、姉さん」

 姉に心配されながら、私は気を取り直して話し合いの内容を聞くことにした。

 一度休憩時間に入って各々が飲み物を用意したり、お茶菓子を食べていたりしていた。

「お疲れ様、琴織さん。旅から帰ってきたばかりなのに、会合に参加させられるとは大変ね」

「ありがとうございます、エルルカさん」

「長いから、ルカでいいのに」

 苦笑しながらクッキーを食べるのは、マリン家の左に座る砂時計の席の人物。エルルカ・ゼロだった。水色のボブカットに紫の瞳が特徴的であるり、彼女の家は時空と学問を司り私達の家系にもかなり協力してくれている。彼女の家は、代々生物の寿命を見ることができるという能力を持っていた。そして、創造神の最後の一柱でもある。

 お菓子を食べるよりも読書を好んでいるのが、エルルカの隣席の柳川蓮花ヤナガワレンゲである。モチーフは書籍で、この国の大図書館の女性館長兼司書を勤めている、人魚の一族。人魚が陸に上がっても大丈夫なのかと聞かれれば、普通はダメだろう。だがこの大図書館、実は海底にあるのだ。そこへの行き方は、ちょっと魔法のトンネルを使うと辿り着くという、かなり特殊な行き方なのだが利用者は多いと聞く。

「昼間はやっぱり眠いな……」

「姉さん、寝たらダメですからね」

「わかってるよ」

 そんな会話をしてるのは、銀狼がモチーフのルチオ姉妹だ。モチーフ通りに、銀色の人狼で、姉のルアストが青の瞳で、妹のソルカルが橙の瞳をしている。月と太陽を司っていて、姉が月で妹が太陽だそうだ。この一族も祖母が保護するようにと命じた一族で、元々はこの円卓にいなかったという話を聞いたことがある。

「眠いなら良い夢見れるようにしてあげるよー」

 人狼達にそう声をかけるのは、半人半魔の夢魔。モチーフが蝙蝠のシャロット家の当主、ステファニーである。羊を思わせる巻き角に、黄色に近い金髪の巻き毛と金色の瞳。おっとりとした性格に見えるが、結構天使一族を嫌っている。だが、当人達には相手にされていないようだった。

「なぜ、まだ明るいうちから、このような会を開くのでしょうか……」

 眠いのか文句を言いながら紅茶を飲んでいるのは、星を司るエリオ家。家紋にはオリオン座が描かれており、長い黒髪に宵闇を思わせるような黒い瞳の女性。中立的な立場の家で、特にこれといった能力もなくて争いはあまり好まない一族だ。能力がなくというよりは、公にされていないと言うのが正しいだろうか。

「お疲れではありませんか? 水鳥お嬢様」

「大丈夫よ、瑠璃」

「無理はなさらないでくださいね?」

「心配要らないわ」

 産神の水鳥を心配するのは花を司る龍姫である、朝霧瑠璃アサギリルリ。名前の通りに瑠璃色の長髪に桜色の龍角と瞳をしていて、マリン家に使えるメイドだそうだ。モチーフは白百合で、角の近くにも小さく百合の花簪が挿されている。

「香織お嬢様、琴織お嬢様、お身体の方は大丈夫でしょうか? 長い会合で疲れていらっしゃいませんか?」

「ありがとう、シュシュさん。私は大丈夫です。琴織は?」

「私も大丈夫ですよ、シュシュさん」

「それならいいのですが、無理なさらないでくださいね」

 姉の右側に座る、小さな猫耳の少女のような女性とそんな会話を交わす。彼女はシュシュ・リラクで死神に使える悪魔の一族であり、代々私達と使い魔の契約を交わしてきた。そして、この円卓の最後の席の人物だった。黒髪をツインテールにして、橙色の大きな瞳が幼い顔を更に幼くするが、これでも百年と数十歳だという。正確な年齢は聞けば教えてくれる気がするけど、マナー的にはあまり良くないので聞いたことがない。黒猫をモチーフとしていて、家紋にされるだけあって彼女の家は黒髪と猫耳だらけである。何度か訪れたことはあるが、凄い状況だったのを覚えている、

「休憩も取れたことだし、続きを話し合いましょうか」

「そうね、それがいいわ」

 姉が全員に聞こえるように声をかけ、水鳥さんがそれに応えた。そのやり取りを聞いていた周りの人達も自分の席へと戻り、再び会議が始まった。

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