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小さな死神と老いた魔術師  作者: 樫吾春樹
共に過ごした二つの刻
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第十五話

 山を登り始めてから半ばくらいまで歩いた頃、影を作ってくれる木の下に腰かけるのに丁度いい岩を見つけ、休憩するのに良い場所だと考え休んでいた。だが、どうも先程から後を付けられてたようで、私以外の足音がたまに聞こえていた。後ろを振り返ってみたが姿は見えず、他の登山者だとしたら怪しすぎる。わざと歩みを合わせるような感じで足音を被せられているので、狙われているのだということがわかった。


「さて、どうするか」


 考えてはみるものの、流石に私が気づいてることはバレてるだろう。ならば、これ以上付きまとわれないようにここでどうにかするしかないか。


「どこの誰だか知らないが、いい加減に人の後を付けるのをやめたらどうだい?」


 隠れている誰かに対してそう声をかけると、茂み出てきたのは口元にバンダナを巻いた背の高い男だった。これが、女将さんの言っていた山賊なのだろう。


「君が噂の山賊か……」

「わかってんなら、ある物全て置いてきな!」

「嫌だと言ったら?」

「力ずくで奪い取るしか無いな」


 男はナイフを腰から取り出し、まっすぐに私目がけて駆けてくる。それをギリギリまで引き寄せてから、一歩身体を横にずらしてかわす。すぐさま男は振り向き、再びナイフを下から上へ何度かナイフを振り回す。それを同じようにかわして、男の腕を狙うように右足で蹴りを当てにいく。


「いったいなー! 何者だよ、お前!」

「ただの旅人だよ」


 男の腕に蹴りを当てナイフを遠くに飛ばし、出した足を着地させると同時に反対の左の拳で脇腹に一発入れる。殴られ身体を折られた男に、そのまま左膝で追撃を見舞う。


「ごふっ! もう、やめ……」

「おやすみ」


 男のその言葉を無視して、とどめに右肘で背中に思いっきり入れて地面に叩きつける。地面に倒れた男は、そのまま動かなくなっていた。どうやら気絶してしまったようで、生きてはいるようだ。


「やりすぎた気がするな……」


 安全な場所に男を運んで傷の手当をし、私はその場から立ち去った。久しぶりすぎて加減がわからなくなっているようで、このままま誰かと戦うのは怪我をさせてしまうだろう。もう少し、力を加減しなければならないな。


「大丈夫だといいが……」


 山賊の男性の心配をしつつ、私は先を急いだ。今日中には山を越えてシュッドには入りたいが、山越えに時間がかかりそれ以上進むのは難しいだろう。


「鉱山に入るのに苦労しなければ、何とか夜までにはシュッドに着けるだろうか」


 鉱山に入り水晶を起動させ、エストを抜けてシュッドに向かう。問題は、その鉱山にどうやって入るか。話が通じる人がいればと思うのだが、ここは魔法を信じない街。私が目的を話せばすぐに捕まり、刑にかけられてしまうだろう。


「どうしたものか……」


 そうぼやきながら、エスト地区を目指して歩みを早めた。


 険しかった山道を下りはじめると、眼下にエスト地区の景色が広がってきた。鉱業が盛んなだけあって、山肌にはいくつもの鉱山への入口があるのが見て取れた。そして、山の斜面に沿って赤い屋根が並んでおり、この地区独特の風景が見ることができた。


「ここが、エスト地区か…… ノースやウエストとは、また違った景色だな」


 私は山の上から見える街並みを少し眺めてから山を下りて街へと入っていくと、木々の匂いは薄れ石炭や油の臭いが強くなっていかにもここがそういう街だということが知ることができた。


「おや、旅の人とは珍しい。ようこそ、エストへ。鉱山しか無い場所だけど、ゆっくりしていっておくれ」

「心遣いありがとうございます、ご婦人」


 街に入ってすぐの所にいた年配の女性にそう挨拶をされ、私はそれに言葉を返して中へと進む。斜面に並ぶ家々を見て、通ってきた街とは全く違っていて新鮮に感じた。街行く人々は女性が多く、男性はあまり見かけられなかった。きっと、鉱山で仕事をしているのだろう。あれは、力仕事なだけあって女性には難しいところはある。もちろん、できないわけではないが。


「さて、目的の場所はどこだか……」


 広場と方へと向かいながら、私は探知魔法を使うことを考えていた。これだけ広く炭鉱も多いと一つ一つ見て回るのにはとても時間がかかり、今日中にシュッド地区へと行くことができなくなってしまう。ましてや時間も少ないというのに、余計な労力を使いたくはない。


「これだけ鉱石が多いと、上手くいく自信は無いが……」


 私がこれから使おうとしている探知魔法は、魔力を流して当たった物から返ってくるその物自体の魔力の返ってくる時の距離と量で探すものなのだが、何分鉱石は魔力を発しやすいという特徴がある。そして、ここは鉱山が多い地域だ。様々な方面から魔力が流れてきて、位置関係がわからなくなるということが起きるだろうと予想してる。


「まずは、やってみないとわからないか」


 私は広場にある噴水の縁に腰掛け、持っていた杖で軽く地面を叩いて気付かれないように魔力を周囲に流した。邪魔が入らなければ、数分くらいで全体に行き渡るだろう。


 すぐに返ってくる弱い魔力は対象から外し、別の方面に集中する。それを繰り返して、どんどん対象を絞る。これも違う、これも違うと弾いていき、方角と距離を可能な限り正確にしていく。


「これだな」


 魔術を発動して、およそ十分くらいだろうか。北東の方角から、今まで返ってきたの中でかなり強い魔力が返ってきた。距離を考えても、恐らくそこで間違いないだろうと思う。私は立ち上がり、反応があった方角へと歩き出す。肉眼で確認できる範囲では、それらしき場所は見当たらないが確かに魔力は感じ取れた。返ってくる時間も遅かったため遠いことは予想してたが、目で見えない範囲となるとそこそこな距離となるだろう。


「なるべく早めに済むと良いのだが……」


 私は返ってきた魔力を頼りに、水晶があるだろうという場所へと向かいはじめた。


 やっとの思いで目的の鉱山に辿り着いたのはいいのだが、予想通り一般人は入れないように警備がつけられていた。


「まあ、そうだろうとは思ったが」


 周囲に他に人がいないことを確認してから、私は気づかれないように呪文を唱える。今回使うのは存在を隠す魔法で、私の存在が周りから認識されなくなるというものだ。ただし、触れられたりすれば効果は消えるが、しばらくは大丈夫だろう。


「よし、行こう」


 警備の人達を上手く除けながら鉱山の中へと足を踏み入れて進んで行くが、やはり中は鉱石が多く魔力も強いため、自分がいる方角が狂いそうになるのを何とか魔術を使って防いでいく。この鉱山に辿り着いた時と同じ魔術で範囲を狭めたものを使いながら、水晶の場所をより正確に絞りながら先へと進む。


 しばらく歩いて奥に進み、鉱石がたくさんある開けた場所に着いた。そして、他の場所と変わらず中央には水晶が立っていた。


「さてと、続きでもやりますか。幸いなことに、まだ他の水晶に施した術は発動している」


 呪文を唱え、手早くここの水晶を起動させる。時間が惜しいものだ。術者が生きていれば、半永久的に発動し続ける術もあるが、その分術者の魔力も消費し続ける。そして、魔力が底を付けば、発動させていた術も消える。例外もあるらしいが、私は見かけたことはない。


「空間移動が出来れば、楽なのだが……」


 ぼやくが、私にはできない。訪れたことのない場所へ移動できる可能性は低く、未知の空間に飛ばされる可能性の方が高い。そもそも空間魔術とは、限られた術者しか発動できないもので、そう簡単に誰にでもできる魔術ではないと記憶してる。


「ここでの用は済んだから、早く山を越えるか」


 私は急いで鉱山を出て、シュッドへと向かうことにした。どうしても、暗くなる前には着いていたい。暗くなってからだと、夜行性の動物が多く出るため山を越えるのが危険になるからだ。ここにきて、獣に襲われて怪我をするわけにもいかない。それに、コトリがどうにかして時間を稼いでくれているのだから、それを無駄にもできなかった。


「もう少しだけ待ってくれ、コトリ……」


 鉱山の一帯を抜けて街を通り過ぎ、シュッド地区へと続く森林に入る。サントル地区を通れば安全なのだが、そこを通るには通行許可書が必要になる。周りにある四つの地区の中心にあるのだが、今は急いでるためどこかに寄って手に入れるのは難しく、最終的にはそれが必要になるためシュッドで買っても同じだった。そのため、まずは森を抜けてからシュッドに入り、宿を確保してから通行許可書を買いに行くことに決めた。地区に入ってしまえば森林よりもはるかに安全で、シュッドは治安も良いため夜に出歩いても危険は少ないだろう。そして、明日は残り二つの水晶を起動させてから、中心地区のサントルへと向かう。


「そうと決まれば、まずはこの森を抜けないとな」


 見渡す限りに木々が生い茂り方角を知るために空を見上げるものの、葉が空を覆いつくしていて太陽が見えない。だが、私と同じようにこの森にも人間が通った形跡があり、地面の草の一部が道のようになっていてそれが標となっていた。私はそれを辿りながら、方角が合っているかを確認しながら森の奥へと進んでいった。

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