書き終えられなかった物語
日記の一文
君と過ごした時間は私の長い時の中で輝く宝石のようで、その思い出に私は何度も支えられてきた。君は私の一番の弟子だよ、コトリ。
ありがとう、心から愛している。
数百年、数千年の長くて気も遠くなるような時の中。私達の一族は森と共に生活し、過ぎていく多くの時間を見送ってきた。時には争いが起き、時には病が流行った。その度に、数えきれないほど多くの命が消えたのを知っている。
そんな時間の中で私は、一人の小さな少女と出会った。旅人だと言うその少女は、あまりにも幼くて明日には消えてしまうのではないかと思うほどだった。そのまま見なかったことにして通り過ぎてしまってもよかったのだが、気がつけば私はその少女に声をかけていた。
「短い間で良いなら、家に来るといい」
そう告げると、少女は小さく頷いて私の服を握った。その手を振り払えばよかったのだろうか。誰かと触れ合ってしまえば、失ってしまうことが怖いのはわかっていた。だが、私にはそれが出来なかった。
その日から始まった少女との生活。独りぼっちの老人と旅人が出会い、同じ屋根の下で時を過ごした。流れていく時間の違う二人が交わった僅かな月日。それは私にとって、とても大切なものになった。たとえこの先の未来が、悲しい結末を迎えることになったとひても。君はきっと泣くかもしれない。強がりだが、心優しい君のことだ。自分自身のことを責めるだろう。だが、そんなことをする必要はなく、胸を張ってこれからの時を生きてほしい。そして、忘れないでいてほしいことがある。それは、私が君をとても愛していたこと。君は私にとって、一番の弟子であることを。
さて、何から書き始めるとしようか。君との出会いから始めるようか。内容はそうだな。
「小さな死神と老いた魔術師の物語」