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短篇集  作者: 天樛 真
3/4

白い水玉、点々と

 私たちはいつか、別々の空を見上げるでしょう。

 そうだと知っているから、私はそれが痛くてたまらないのです。


 あなたの長い髪は私にとって愛おしいものです。

 あなたの小さな唇も私にとって愛おしいものです。

 あなたのしゃがれた声も私にとって愛おしいものです。


 あなたの頬や目尻に皺が出来ても、きっと愛おしく思います。

 あなたの背が私より低くなっても、きっと愛おしく思います。

 あなたの言葉が拙く切れ切れでも、きっと愛おしく思います。


 私にとってあなたの嫌いなところはありません。何一つとしてありません。

 あなたが明日を無くしても、私があなたの昨日になります。

 そうしてあなたの今日を支えましょう。


 繋いだ手をずっとそのままにしておくことは出来ません。

 それはあなたが教えてくれました。

 熱くなった手のひらが、いつの間にか赤くなっていることに気づかされました。

 寒さのせいじゃありません。あれは私たちの証でした。

 私たちが手を繋いでいたという、証でした。


 私たちは背の低い星たちに囲まれながら、笑いあいました。

 あなたと私の白い息が混じり合って、一つになって消えていきました。

 あなたは気にも留めなかったけれど、私はそれが苦しいくらいに嬉しかったのです。

 あなたは私の笑顔より、頬を伝う一筋の雫に気を取られていましたね。

 悲しくなんてありませんでした。ただ嬉しかっただけなのです。

 だからきっとあれは、私の笑顔に涙が嫉妬しただけなのでしょう。


 私たちが出会ったのは街中に讃美歌が響き渡る雪の日でした。

 あなたが私に声をかけたときのこと。私はずっと胸に仕舞っています。

 赤と白の恰好をして、偽物の白い髭を付けて。

 あなたのせいで私はあれから、街でポケットティッシュを貰うたびに思い出すのです。

 たどたどしいあなたの態度と、そらぞらしいあなたの言葉を。


 あなたと過ごした数えきれない昨日のことと、あなたと夢見た背負いきれない明日のこと。

 すべてが部屋の窓の外、景色となってうつります。

 いつまでもそうありつづけます。私の明日が変わろうと、あなたはそうありつづけます。

 開け放した窓の外に伸ばす手は、あなたの姿をなぞります。

 はっきりと思い出せる紺色のシャツに、白い水玉、点々と。

 そういう柄も、似合いそうだと思いました。


 私の心は痛みます。私の髪も傷みます。

 あなたを待ってみてみます。儚い夢を見てみます。

 あなたの声はもう聴こえない。あなたを思い出すだけです。

 ため息一つを吐いたとき、私はひそかに微笑みました。

 思い返せばあなたの言葉は、全てが正しくありました。

 だけど一つ。たった一つだけ違いました。


 繋いだ手をずっとそのままにしておけないと。

 あなたは私にそう言いました。

 だけど私とあなたは今でもずっと、互いの両手を繋いでいます。

 部屋の机の引き出しの中。その奥のほうでひっそりと。

 私とあなたは笑っています。

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