表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
そうして君は僕を知る  作者: 琉慧
第二部 私(ぼく)を知る人、知らぬ人
95/470

第十九話 三者三様 4

 綺麗な放物線をえがいて飛び出したシャトルは、私の対角線上に居た相手プレイヤーへと向かってゆく。 サーブは成功だ。 しかし、これだけで決まるほど甘くは無い事は承知済み。 たちまち送り返されたシャトルは、平塚さんの方へと飛んでいく。


「ほいさっ!」と軽快に対応した彼女の体力は底無しだろうか、私以上にコートの中を走り回っていた筈の平塚さんには、未だ疲れのきざしすら感じ取れない。 それからしばらくラリーが続いた。


「あっ!」


 私がシャトルを打ち返そうと脚を踏ん張った際に、わずかに崩れ落ちた膝のせいで打点がずれた。 何とかシャトルは相手コートへ向かってくれたけれど、球速は果てしなく遅く、軌道も高い。 これはチャンスボールになりかねないと悟った私達は、二人揃って後衛へと駆け出した。 しかし相手も策士だった。 当初スマッシュの形を作って待ち構えていた相手プレイヤーは、同じフォームのままラケットを振り抜く速度だけを調整し、必死に後衛に下がった私達を皮肉るよう前衛にドロップショットを放った。


 この時、私は(・・)シャトルを拾いに行く事を完全に諦めていた。 けれど彼女は(・・・)微塵も諦めていなかった。 まるでこうなる事すら予測していたかのようにすぐさまステップを踏んで前衛に走り出した平塚さんだったけれど、シャトルは既にネットの高さを過ぎ去って、床に接触するまであと一メートルも無い。 すると彼女は体を前のめりにし、そこから足で床を力強く蹴って目一杯腕を伸ばしてシャトルに飛び込んだ。 そのダイビングボレーが功を奏し、相手プレイヤーはもちろん、私でさえも取れはしまいと高をくくっていたドロップショットは、平塚さんの不屈のプレイによって相手コートへと返球された。


 ただ、不利な状況に変わりは無い。 返球したとは言っても床すれすれの所から打ち返したショットだから、自然、打つ球は先程の私のミスショットよろしく相手チームのチャンスショットに成りかねないロブ気味の軌道を描いてしまう訳で、のみならず、頼みの平塚さんは先のダイビングボレーで崩した体勢をまだ立て直せずにいる。 となると、コートに残された戦力は私だけという事だ。 満身創痍な私達の状態とは裏腹に、相手チームは既に返球の体勢を取っている。 後衛に私一人しか居ない今、今度こそは決め球としてスマッシュを打ってくるだろうと予測した私だったけれど、いくら予測したところでその行為が無意味である事も悟っていた。


 臆病な私に平塚さんのような豪快なダイビングボレーなど出来るはずが無いし、たとえ臆病で無かったとしたって、依然笑い止まない膝を制御出来る自信も無く、最早動けても半径一メートル以内の距離だろう。――でも、平塚さんが決死の想いで繋いでくれたこの球を、私は無駄にしたくは無かった。 自信はこれっぽっちも無いけれど、私が打ち返せる場所にさえ球が来れば、死に物狂いになってでも相手コートに返球してやる。 そうした一種の捨て鉢のような覚悟は、むしろ私を気楽にさせた。 そうして予想通り、相手プレイヤーの力強いスマッシュが私目掛けて飛んできた。


 バドミントンのスマッシュの初速は数ある球技の中でも群を抜いて速く、プロの中には時速四○○キロを超えるスマッシュを放つ選手もいるようで、初速のみ比較的速度の出易い競技であるから、例え素人が打ったスマッシュであったとしても、初速はどうしても目で追えるものではない。 しかし、その時の私には相手のラケットに打たれたシャトルがこちらへ向かって飛んでくるのがはっきり認識出来た。 決して球速が遅かった訳でもない。 それでも私は、シャトルを目で追っていた。


 どうやら、絶対に勝ちたいという思いが無意識の内に鋭敏えいびんなる集中力へと変換されていたようで、私は至って冷静にスマッシュの軌道を見極め、前衛をくぐるロブショットをって相手コートに返球した。 恐らく勝ちを確信していたであろう相手プレイヤーが二人とも前衛に位置していてくれていたお陰で、私のショットは誰に触れられる事も無く、相手コートのバックバウンダリーライン手前に落下した。 即ち、私達が勝利したのだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
script?guid=on
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ