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そうして君は僕を知る  作者: 琉慧
第二部 私(ぼく)を知る人、知らぬ人
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第十八話 蒙昧 18

 ――翌日。 普段通りの時間に登校していた僕は、後に登校した三郎太に見つけられるや否や「ひどいぜユキちゃぁぁん」と泣き付かれた。


「どうしたの三郎太、朝っぱらから騒がしいよ」


「どうしたもこうしたもないだろユキちゃん! 何でよりにもよって姉貴にアレ(・・)を渡しちゃったんだよぉ! っていうか昨日どこで姉貴と会ったんだよ!」


「ああ、三郎太が帰った後に僕も帰ろうとしてたら下駄箱辺りに双葉さんが居てね、それからいきなり、今日私の弟に何か借りなかった? って聞かれて、DVDを借りましたよって言ったら、そのDVDは私が今日観るつもりだった映画で、三郎太が間違えて持って行っちゃったものだから悪いけど返してくれないかなって言われたから、そういう事なら仕方ないですねって事で双葉さんに返却したんだけど、何かまずかった?」


「まずいに決まってるだろ! 昨日家で姉貴にこれでもかってほど説教食らったんだからなー?」


「それは仕方ないでしょ、双葉さんが観ようとしてた映画のDVDを間違えて僕に貸しちゃうんだから」


「いやそういう事じゃなくって、あのDVDは――」

「ただの映画だよね? 双葉さんもそう言ってたし」


「……そう、そうなんだよ! ハハハ、俺とした事が間違えてユキちゃんに渡しちゃってさぁ! 姉貴は自分の予定狂わされるのが一番嫌いだから、まだユキちゃんが学校に居てくれて助かったぜ。 もしユキちゃんが家に帰ってたら、俺がユキちゃんの家までDVDを取りに行かなきゃならないところだったわ」


「じゃあいいタイミングで双葉さんが居てくれたって事だね、三郎太に余計な手間を掛けさせずに済んで良かったよ。 ところで、もともと僕に貸す予定のはずだったDVDはどうなったの?」


「あ……あぁ。 あれ探したんだけどどっかに無くしちゃったみたいでさ、貸せなくなっちゃったんだわ。 わりぃな、散々期待させといて」


「まぁ観れなかったのは残念だけど、無いものは仕方ないよ。 それより今日早速テスト帰ってくるみたいだよ、一時間目は世界史だから、三郎太が一番気になってたテストだよ」


「マジかよ?!」と、驚嘆している三郎太をよそに、僕は彼に虚偽きょぎを働いてしまった事に対する後ろめたさを一人噛み締めると共に、玲さんと双葉さんが計画していた通りの筋書きになってくれた事への安堵を感じた。

 昨日。 玲さんがくわだてた良い考え(・・・・)とは、以下の通りである――


『じゃあ、このDVDは私から双葉に返すよ。 で、これをキミに貸した弟くんを叱りつけて貰って、金輪際キミにこんなモノを貸さないように指導してもらうつもりだよ。 それから双葉には、帰宅する前のキミからこのDVDを受け取った事にしておくよう話を通しておくから、キミは明日学校で弟くんから色々聞かれた時、嘘がバレないようにうまく調子を合わせてね。 一応双葉とも口裏を合わせといた方が信憑性も高まるだろうから、一通り双葉と話が付いた後で私から双葉のSNSの連絡先も紹介してあげるよ。 詳しい話はそっちでしてみて。 一回電話してるからある程度の面識はあるだろうし、性格もさっぱりしてるからそこまで気を遣う必要は無いからね。 あと、双葉の指導がちゃんと行き届いているかを確認する為に『もう例のDVDは貸してくれないの?』的なニュアンスで弟くんを試してみて。 それで弟くんが『貸せない』って言ってきたら双葉の指導がちゃんと行き届いてるって証拠だから、もうキミの手にあんなモノが行き渡る心配は無いよ』


 ――僕が玲さんから直接聞いたのはここまでで、昨日の夕方ごろ僕のスマートフォンへ、玲さんから双葉さんを紹介する旨の通知が届いた。 それから双葉さんの方から通話の誘いが来て、私の弟がそんなものを貸してしまって申し訳ないという謝罪から話は始まり、その後三十分ほど口裏合わせの為の口実を二人で考案し「それじゃ明日よろしくね」という言葉を最後に、双葉さんとの対話は終了した。


 そして今日。 わざわざ双葉さんと口裏を合わせた甲斐もあり、僕は別段三郎太に疑われる事も無く、彼をやり過ごす事が出来た。 しかし、事が事だっただけに仕方無いとは言え、僕の為に動いてくれていた三郎太を裏切ってしまったような気がして、あまりいい心持で無かったのは確かだ。 元を辿れば、僕の性に対するうとさが招いた事態であった事から、当然僕にも罪の意識は芽生えている。 だから――


「そうだ三郎太、今日食堂でプリンおごってあげようか? ほら、前に食べたいって言ってたでしょ?」

「え、マジで? いいの? でもどういう風の吹き回しだよユキちゃん」


「いや、今回のDVDも三郎太が僕の為に用意しようとしてくれてた訳だし、そういう話が無かったら三郎太が双葉さんに怒られる事も無かっただろうから、お詫びのつもりなんだけど、変かな?」


「いやいやユキちゃんがそんな事気にする必要ないっしょ。 姉貴から叱られるのなんて今に始まった事じゃねーしさ、慣れっこだよ慣れっこ。 まぁ、俺は貰えるもんは遠慮無く貰う性格だからな。 ありがたく奢って貰うとするぜ!」


 今日ほど三郎太の気さくな性格に助けられた事は無いだろう。 プリン一つでつぐない切れるあやまちでない事は分かっているけれども、それでも彼の為に何かをしてやらずにはいられなかった。 だからこそ下手に遠慮されるよりは、こうしてはばかり無く食い付いてくれる方が余程良い心持がする。


 あんなDVDが無くったってもいい。 僕は三郎太や竜之介と接しているだけで、彼らから男というものを嫌というほど感じ取っているのだから。 それに、安直にあのようなモノを頼っていたら、僕は男になるどころかぼくに逆戻ってしまっていたかも知れない。


 何故なら、あのDVDの卑猥ひわいな場面を観ていた時、僕が意識を重ねていたのは、女生徒をまさぐる男子生徒――ではなく、男子生徒に体中を弄られる女生徒だったのだから。

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